追放王子と出奔魔法使いの一冬の話

ブリリアント・ちむすぶ

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薬草探し

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 昨日までの快晴が嘘のように空は濁っていた。
 経験上、この天気の日の夜は必ず雪が降り、それがなかなか止まないことを知っている。
 そうなると数日は外に出ることはかなわない。
 
 ーー雪が降る前に、薬草を採ってこなくては。

 浮遊魔法の速度を上げる。
 そのを後ろをまさに息も絶え絶えといったような風なルカがシャオの名を叫ぶように呼んだ。

「シャ、シャオ様! ま、まって……!」
「……」

 仕方なく、シャオやや速度をゆるめる。
 ルカと隣合うようにして隣のルカの顔をちらりと見ると朝だというのに、明らかに疲れた顔をしていた。

「シャ、シャオ様、もっとゆっくり……」
「吹雪になったら面倒だ。早く行くぞ」
「で、でももう僕、限界……!」
「ウスノロ」
「す、すみまへ……」

 そう言いながらどんどん距離が空いていくルカを見ていられず、シャオは魔素で風を操る。
 ルカの体を持ち上げ、自分の風の中に入れるとそのまま一気に速度を上げていいった。
 シャオがルカを運ぶ形になっているのをルカは信じられないものをみたという顔をする。

「すごい……、併走状態でこんな距離が」
「もう自分の分の魔法を解いていいぞ」
「え、そんなことしたら僕落ちるんじゃ……」
「私がそんなことすると思うか?」

 そう言われたルカは怖々としながらも自分のかけている魔法を解く。
 それでもルカが飛んでいた時と全く変わらない速度と安定で飛んでいるのを確認すると呆然とした様子でシャオの顔を見つめている。

「……凄い」
「帰りはしないからな」

 ぶっきらぼうにいうシャオにルカは複雑な顔で頷く。

ーーうるさくないのは助かったが……、なんでコイツと行かねばならないのだ。

 昨日はアランの美しい瞳に魅入られ思わず頷いてしまったが、シャオはルカを信用していない。
 とにかく怪しい。薬草を調べたいという言葉も、結界を敷き直しにきたという言葉も全てだ。
 アランはルカを受け入れているようだが、シャオはそう簡単にはいかない。

――いっそのこと、事故を装って消すか。

 例えばこのまま高く飛び上がり、ルカを支えている分の魔素を解いてやればルカの命を簡単に奪うことが出来る。
 なんて簡単なことだろう。だが、主のアランは今ルカを気に入っている。仮にシャオがルカを殺せばアランからの𠮟責は避けられない。
 アランはシャオの性格をよく知っている。事故といっても信じてくれないだろう。
 ならば良い方法はないだろうかとシャオは考えをめぐらした。
絞殺、圧殺、転落死、突然死、などなどなどなどーー。

「シャ、シャオ様。なんか怖い顔していますが……」
「貴様の殺し方を考えていた」
「ヒィッ!!」

 ルカの顔色が青くなる。
 どうやら本気に聞こえたらしく、シャオの浮遊魔法から逃れようとシャオは体をばたつかせだす。
 その無様な姿に少しばかり溜飲が下がった。

「冗談だ」
「じょっ、冗談にもほどがありますよ! 心臓止まるかと思ったじゃないですか!」
「なんだ、死ぬつもりだったのか? それならそうと先に言えばいいものを」
「違いますけど!! こ、ここで死ねません」
「心配せずともそう簡単に私は殺さん。主の貴様への興味が失われるまで、殺さないでやる」
「…………」
 
 ルカの表情が強ばる。
 顔が引きつり、強張り震えているルカにシャオは鼻で笑った。

「なんだ、怖いのか?」
「怖いにきまっているじゃないですか!! ぼ、僕は今死ぬわけにはいかないんです!」
「なら私の機嫌を損ねるな」
「は、はい……」

 何度も頷くルカを見て、シャオは再び前を見る。
 一面の変わらない雪原。屋敷にあった地図を見るにここをもっと先に行けば海に行くらしい。
 シャオは海を見たことがない。興味もなく、この先シャオが自発的に海に行くことはないだろう。
 そろそろ目的地につく。思いのほか行くのに時間がかかった。
 帰りの事もあると急がねばならないだろう。

「おい貴様」
「は、はい」
「舌を噛むなよ」
「は? 何を――」

 ルカが言い終わる前に、シャオは浮遊魔法の速度を上げる。
 ぐんっと体に重力がかかる。それを全て風が打ち消し、スピードを落とすことなく進んでいく。
 雪原に飛び込むように一気に高度を下げる。

「ぎゃあああ!!!」

 ルカの叫び声を聞きながら、シャオはそのままの勢いで地面すれすれを滑空した。
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