追放王子と出奔魔法使いの一冬の話

ブリリアント・ちむすぶ

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1ヶ月後

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 ルカが来てから1ヶ月がすぎた。
 薬草採取から雪が降り続け、シャオが魔法で開けた大穴も雪で完全に隠れるほどに積もる程になり、外も出られない日が続いている。
 その間シャオはいつも通り屋敷の家事をとアランの世話をし、ルカはシャオの命令を受けて雑用をこなしていた。
 それ以外でもルカはアランに呼ばれることもあり、何をしているかはよく分からないが深夜までなにかしていることもある。
 忠臣の自分を差し置いて何をしているのか。それをルカやアランに聞くのもシャオのプライドが許さない。
 だから、厨房で呆けているルカを見ても気にしないようにしていたが、それが自分用の紅茶のカップを床に落として割っても気づかない程となると話は違った。

「おい」

 声をかけるが反応がない。
 もう一度呼びかけるとようやく気づいたらしい。ルカはビクリと肩を震わせてからゆっくりと顔を上げた。

「……はい?」
「貴様のカップ、落ちたぞ」
「えっ、あっ……」

 シャオに言われてようやく気がついたのか、床に飛び散った割れたカップを見てルカは明らかに驚いている。
 急いで掃除用具をとりだし、割れたカップの掃除を終えるのを待った。
 明らかに正常では無いルカに対しシャオは大きくため息をつく。

「……貴様、そんな腑抜けた面で主と会っているのか?」
「ア、アラン様の前ではちゃんとしています!」
「貴様如きの「ちゃんと」は説得力がない」

 シャオの棘のある言葉にルカはただ困ったように無理やり笑みを浮かぶだけ。
 その顔。
 王宮にいる平民の魔法士たちはいつもそんな顔をする。
 自分たちよりも技術が劣る貴族の魔法士に馬鹿にされようとも、自分たちのことを蔑む貴族たちに睨まれても、彼らはへらりと笑うだけで反論しない。
 その割にはその貴族たちが去ると、悔しそうな表情を浮かべだす。
 そんな彼らのみすぼらしい姿をシャオは嫌悪していた。だから、それを無視せずに追求してやる。

「貴様、夜まで起きているだろう」
「えっ、と……」
「私は貴様が勝手に野垂れ死しのうが構わない。だが、主に害を及ぼすのであれば――」
「す、すみません!」

 シャオの漏れ出た殺意を感じ取ったルカは勢いよく頭を下げた。
 シャオもこうも簡単に頭を下げられると何も言えず、言葉を詰まらせる。

「……わかればいい。」
「き、気をつけます!」

 健康なルカと違い、アランは元病人だ。もし体調を崩したら治るのにも時間がかかる。
 だが、ここ最近のアランは夜遅くになっても寝る様子は無く、毎日のマッサージの後でも起きている節がある。
 それと同時期にルカも自室でコソコソなにかするようになり、昼間も2人で話すことが多くなった。
 明らかにアランの寝不足の原因はコイツだ。昨日など特に酷く、シャオが何を言ってもアランは寝ようともしなかった。

――こいつを、主から引き離したら、主は睡眠をとるだろうか。

 そういえば、とシャオは頭の中のカレンダーと燃料の在庫数を広げる。
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