追放王子と出奔魔法使いの一冬の話

ブリリアント・ちむすぶ

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1ヶ月後

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「……おい、貴様に頼みたいことがある」
「頼みたいこと? 草抜きですか?」
「馬鹿。まだ草は生えていないだろう。そろそろ雪が止む。そうしたら、村に行き結界を敷き直してこい」
「結界?」
「ついでに燃料も貰ってこい。村長や、村の重役に言えばわかる」
「結界って……」
「村に敷いてある結界のことだ。貴様も村に滞在した時に気が付かなかったのか?」

 村。
 それはこの屋敷から1番近い場所にある村の事だ。
 その村でシャオはこの屋敷に必要な食料を調達しており、その対価として金銭以外にも野盗や狼などの危険から村を守るための結界を村の各家に張っているのだ。
 
「そろそろ効果が切れる時期だ。結界を張る家にはそれ用の石が置いてある。それに魔法をかけ直してくれればいい」
「その、石のことはわかりましたけど……、結界なんて僕には」
「まだ魔法はその石に残っているはずだ。それを解析すればどんな魔法かわかる」
「でも、僕がシャオ様の魔法なんて……」
「貴様、元々は私が壊した結界を敷き直しに来たのではないか?」

 シャオの鼻で笑うような言葉にルカは弾かれたような表情をする。
 忘れていたのを誤魔化すように何度も頷くルカにシャオは小さくため息をついた。

「ある程度の生成は私が準備してやる」
「……わかりました」

 睨みつけるシャオにルカは少しだけはにかんだような顔をしながら頷いた。
 話は終わりだと背を向け、料理の準備をするシャオの背にルカがポツリと独り言、というふうに呟いた。
 
「シャオ様って、意外と優しいですよね」
「ハ、ハア!?!?」

 優しい。
 思ってもみない言葉を言われシャオは驚きのあまり勢いよく振り向く。
 自分が優しいなど、ありえない言葉だ。
 無論、アランに対しては別だ。だが、それ以外の人間、ましてやルカに対してはシャオは優しさも欠片のない態度をとっている。
それを優しいなど、ありえない。

「どういうことだ?」

 低く唸るように問い詰めるシャオにルカはなんでもなさそうにいう。

「だって、意外と気配りしてくれるし、不必要に殴ってこないし」
「……貴様、私がそんな野蛮な理由で人を殴る野蛮人だと思っていたのか?」
「あはは、お貴族様にとって平民はそんなものですよ。確かに僕に対しては雑ですけど。けど、なんだかんだ優しいですよね。それに、部屋の施錠魔法も直ぐにかけなくしてくれましたし」
「それは、主が――」
「アラン様が?」
「な、なんでもない!」

 顔を赤くし誤魔化したシャオにルカは気にもとめずにルカはまたペラペラと喋り始める。

「アラン様も、良くしていただいて……、噂に聞いていた恐ろしい方とは大違いで。僕、本当に2人に感謝してるんです」
「……」

 シャオはルカに背を向け、煮えたちそうな鍋の中身を一生懸命かき混ぜた。
 こんな寒さだと言うのに、なぜかとても熱く感じた。鍋を必死にかき混ぜて誤魔化す。

「あっ、そういえば。春になって僕が結界が敷き直したら村の人達と会えませんよね? なにか対策は考えているんですか?」
「……結界など、また壊してしまえばいいだろう。今度は王宮にバレぬようにする」
「ちょ、ちょっと待ってください!」

 慌てふためくルカを無視し、シャオはアランのための食事を準備を終えた。
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