追放王子と出奔魔法使いの一冬の話

ブリリアント・ちむすぶ

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望み

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「私が、主のおそばにいることを認めて下さらないでしょうか?」
「……」
「私は、主の傍にずっとおります。それを、主が認めて欲しいのです」
「…………それが褒美だというのか?」
「はい」

シャオは即答する。
それは、シャオがずっと願い続けたこと。初めてアランを目にした時から、シャオはこの美しい人物の近くに居たいと思ったのだ。
だから、なんでもやった。魔法を学ぶことも、なんでも。全てアランのためのものだ。

「わ、私は主と共にいたいのです! たとえこの先どんな異物が主に取り入ろうとしても、私の話を最優先に聞き、私を頼って欲しいのです!私は、主のために生きているのですから!」

一気に己の気持ちと、それを言葉にしたためか、シャオは肩で息をする。
今言った言葉はシャオの本心。この気持ちをアランにいままで言ったことは無かった。こんなことを言って拒絶されたら、と思うとシャオは言いたくても言い出せなかったのだ。
 今もそうだ。アランはシャオの真意を探ろうと先程浮かべた穏やかな表情から一気に訝しげな顔に変わっている。

「言っている意味が分かっているのか?」
「……もとより、覚悟の上です」

ーー主の側を離れるなど考えられない。

シャオはアランの瞳をまっすぐに見つめた。
吸い込まれようなアランの銀の瞳。その瞳を見続けていると、アランは深い息を吐き、再度穏やかな表情に戻る。

「お前は確かに、なにもない俺の元に来るくらいだからな。あのまま王宮にいたら、周囲の者はお前に食い破られてしまっただろう」
「わ、私は食人など……!」
「冗談だ」

食い破る、という言葉に驚き声をあげたシャオを笑うようにアランは軽く手を振る。
そんなアランの何気ない動作をシャオは不審に思った。
 
ーーなにか、違う。

アランはこんなにも表情が変わる人だっただろうか。
こんなにも、笑う人だっただろうか。
シャオの記憶のアランは、王子の時は硬い顔を、ここ1年は無表情が多く、ルカがきてからようやく笑みを見せるようになった。
こんな気の抜けたような顔のアランをシャオは見たことがない。
怪訝な顔をするシャオにアランは口を開いた。

「どうした?」
「いえ、今日の主はよく笑う、と思いまして……」
「……やはり、お前が心配だったのだろう。少し、気が抜けた」
「……!!」

ーー心配!!

まさかアランからその単語が聞けるとは思っていなかった。
自分の心配をしてくれていた、その事実だけで先程の疑念を忘れ、心が満たされてしまう。
飛び跳ねそうなくらいに高揚した気持ちを抑えるべく、手に持ったままの薬の残りを一気に飲み干した。
だが、口に入れた途端に忘れたはずの薬の苦い風味が口内を支配する。
先程とは違い、歪んだ顔をするシャオにアランは首をかしげた。
 
「どうした?」
「く、薬が苦くて……」
「……そこまでか?」
「は、はい。主、申し訳ーー」

シャオが全ての言葉を言い終わる前に――、アランはシャオの顎を掴む。

「ンッ――!?」

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