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目覚め
しおりを挟む弟を庇うならば、イースはよくやっている。
アランが気づくよりも前に病について調べあげ、それが自分たちでは手に負えないと分かると僅かな希望にかけて政敵であった兄と兄を信奉し自分を嫌っているシャオにかけたのである。
アランだったらとうに匙を投げている。それでも諦めない、イースに王としての覚悟を感じた。
それでも、限界がきている。マトの話を聞く限り、民衆の我慢は春まで持たないだろう。それまでに、病の治療法を見つけ出し、元に戻さなくてはいけない。
ルカの想像よりも、弟は今未知の病に切羽詰まっているのである。
『無事薬の製造法を見つけた際には僕の村をその薬の実験の場としてくれる様、話をつけてあります。そのために僕は貴族になったんです』
ルカの決意の言葉をアランは受け取った。
王族復帰のためには、目の前のルカを利用するしかないこともそうだが、ルカの覚悟にアランは協力をすることにしたのだ。
決して、王になりたい、という気持ちではない。だが、それをシャオが知ったらどうなるか。
「……俺は、殺されるな」
「旦那様?」
ぽつりと呟いたアランにマトが見上げ首をかしげる。
頭を撫ぜ、なんでもないとアランは誤魔化した。
マトに怪しまれるかと思ったが、それ以上は聞かないマトの優しさに感謝する。
それよりも気になることがあるのか、アランが持っている湯瓶の中身を興味津々に覗いていた。
「体が、暖かくなってきました。このお茶の中身は何なのですか?」
「……お前が知る必要のないものだ」
元は人を殺すために作った茶であるとは言いたくなかった。
それでも使い方を変えれば人を助ける薬になる。
シャオもそうだ。育てかた次第では、アランのために生きるような真似をシャオはしていなかっただろう。
あの膨大な力をアランは持て余した。
シャオが歪んでしまったのはアランのせいだ。
今、シャオは王宮にいる。おそらくアランの病を治した薬について聞かれているだろうが、あのシャオが正直に話すとは思えない。
それに、シャオがアランのために作った薬は未完成なのだ。
希望はある。ルカの村をその犠牲にさせないだけの希望が。
シャオに対しての答えを出すのがもう遅いのはわかっている。だが、それをどうにかできるのはアランしかいない。
死にかけだった自分を救い、今度はこの国、いや、世界すらも救える男を扱えるのは自分しかいないのだ。
それに、いい加減、シャオの気持ちに応えてやらねばならないのだろう。
『……アラン』
脳裏に浮かんだシャオを思いながら、アランは目を瞑った。
「……旦那様?」
「アラン」
「えっ?」
「アランだ。俺の名は」
「そ、それって……」
マトは聡い子のようだった。
話した内容、行きたい場所、行商人に払った膨大な金ーー、全てがマトの中でパズルのピースの如くうまっていく。次第に温まったというのに体が震え出したのをアランは毛布で頭ごとマトを包んだ。
「少し、寝ていろ。王宮まではまだ時間がある」
「で、ですが……! 旦那様、もしかして」
「……寝ていろ」
有無を言わさぬ言葉にマトは黙った。
毛布で包んだ頭からは震える息が聞こえてくる。
アランが頭に手を乗せ、何度か摩ると、呼吸がゆっくりになっていくのがわかった。
馬車の隙間からもれる外を見ると、月明りの中、雪が降っていた。
それを眺めながら、マトから伝わる温かさを感じながら目をアランも目を閉じた。
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