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一年ぶりの兄弟
しおりを挟む「……」
イースは視線をシャオに移す。
シャオの驚きの表情を見て、イースもアランの登場がシャオの予期していないことだとわかったようだった。
イースは顔を引き締め直し、跪いたままのアランに視線を戻す。
「……お久しぶりです。兄上」
「お久しぶりでございます、国王陛下。ご壮健でなによりでございます。突然の訪問、誠に申し訳ございません」
頭を下げながら、アランは一言で言い切る。
口調、振る舞い共に、王と臣下のそれだが、それがアランの言葉からでたという事実に誰もがその真意を図ることができなくなっていた。
「……アラン様」
ルカの独り言のような声が辺りに響く。思わず漏れてしまったようなその声は、明らかに潤んでいた。
ルカとアランの間になにかあったのか。ルカだけが、アランの真意をわかっているかのような顔をしている。
だが、それが何なのか、シャオも、イースもわからない。だから、この場にいるすべての人間が突然現れたアランの存在をどうするか決めあぐねているようだった。
王を守るべき兵士たちも、他の要人たちも、跪いたままのアランを持て余している。
混乱した雰囲気が場を包み込んだ。
「……わざわざここに来たということは、何らかの用事があるという事とお見受けします。部屋を用意します。どうぞ、そちらへ」
「いえ」
アランは顔を上げ、イースに真っすぐと顔を向けたあと、懐から何かを取り出し、王に見せつけた。
「ここでしたいのです」
アランが取りだしたのは記章だ。王族のものではない。王宮魔法士の身分を表す花の紀章。
まごうことなきシャオのものだった。
「…………」
この国において、自らの記章を示す行為は重要な意味がある。
早急に、王に耳に入れなければならない話がある、という意味だ。
それをアランはシャオの紀章を使い、イースに示しているのだ。
だがーー、本来、自分が持つ記章を掲げるのが決まりだ。アランは元王族で、平民である。
普通の場ならば、アランのこの行為は認められず、イースはアランの行為を却下できるはずだった。
「王、貴方の求めている物を私は用意してきました」
言葉を付け加えたアランにイースは難しい顔をして黙り込む。やがて、逡巡するような様子の後にイースは深いため息をついた。
「……いいでしょう、ここで話してください」
「ありがとうございます」
再度深く頭を下げたアランをイースは見下ろす。
シャオは呆然とした顔でアランの顔を見続けていた。
――なぜ、主が。
「……」
髪の隙間でアランと目が合う。
数日ぶりのアランは、少し疲れているように見えた。どんな方法でここに来たのかは分からないが、それなりに過酷な旅路だったことが伺い知れ、思わずその顔に触れようと手を上げるが、アランはそのままイースに向き直す。
なぜ、ここにアランがいるのか、シャオの頭はずっと考えていた。
アランはルカの言葉通りであれば、屋敷から出て、行方不明になっていたはず。
ルカは、逃げたと言っていた。だから、ここにいるはずないのに。
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