追放王子と出奔魔法使いの一冬の話

ブリリアント・ちむすぶ

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一年ぶりの兄弟

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「……おや」

 イースの驚いた声に顔を上げる。イースの目は見開いていた。
 イースを囲む要人たちも扉の方をみて驚愕の表情をしている。
 一体何が起きたのだろう。ルカの方に目を向けると、ルカも同じような顔をしていた。
 シャオからは扉の奥に何があるのかは背丈のせいで確認することが出来ない。だが、ルカ含め全員が驚愕の表情で扉の方をみていることから、扉に現れた人間はそれほどの人間なのだろう。
 イースですらも登場に驚く人間。それが誰なのかシャオには検討すらつかない。

「……まさか、貴方がくるとは」

 イースの声が少し、上ずる。
 よほど動揺しているのだろう。イースはシャオの後方にいるルカたちに視線を向けた。

「道をあけろ」

イースの言葉に、ルカたちはバタバタとうるさい靴音を鳴らしながら、道を開ける。
残されたのは跪いたままのシャオのみ。
 道が開け、現れたのが誰かわかり、シャオの目が大きく見開いた。
目の前にいたのは、アランだった。

「な、んで……」

 思わず口から言葉が漏れる。
 シャオの目の前に居たのはアランだった。
 火よりも赤い髪、銀の瞳、どんな芸術家でも表現することのできないその美貌――、アランそのものだ。
 アランは分厚いコートを身にまとっていた。
 髪は纏められ、それだけでいつも見ていた氷のような印象から活発な印象に変わっているが、シャオが見間違うわけがない。間違いなくアランだ。
 そのアランが杖をつき、こちらに歩いてくる。

「ア、ラン……」

 呆然としたシャオの呼びかけに応答することはなく、ただ淡々と歩いている。
 王の間の中で、アランの靴音と杖をつく音だけが響いた。そのアランの一挙手一投足をシャオを含めた全員がくぎ付けになる。
 アランはそれをわかっているのか、杖のせいなのか、はたまた緊張のせいか、非常にゆっくりとした足取りで歩いていた。
 それが、シャオに隣り合う。
 その間もアランはシャオを一瞥することはなかった。真っすぐ、高くそびえたつ王座に視線を崩さずに――、アランはイースに跪いた。

「……!」

 この場にいる誰かの息を飲む音が聞こえる。
 アランがイースに膝をついた。
 これは、王族の事情を少しでも知っている人間にとっては考えられない事だった。
 王族としての品位を誇りに持っていた自分とは違い、気さくと言えば聞こえがいいが、王族としての品格の欠けた振る舞いをしていた弟をアランは軽蔑していた。
 先王の葬儀の時ですら、新王になったイースにアランは跪こうとしないほど、そんな二人の仲は険悪だったのがシャオの知るアランとイースだ。
 弟であるイースもそのような印象をアランに持っていただろう。それが突然現れ、いきなり膝をつくとはイースも予想だにせず、突然のアランの行動に驚きの表情を浮かべている。
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