愚弟が泊まりに来た話

ブリリアント・ちむすぶ

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愚弟が泊まりに来た話

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「姉貴、今日泊めて」


6個下の弟から連絡が来たのは今日の午前中だった。


「はぁ?」


と、意味が分からないという意味を2文字に込めて電話口に精一杯かましてやったけど弟はめげない。

しょうもないお願いならそれですぐに撤回するのにそれでも頼む、頼む、と懇願する弟の声を聞いて私は旦那に確認してから折り返すと伝えて電話を切った。


「いいじゃないか」


私より2つ年上の旦那は身内に男兄弟がいない分、弟に甘い。激甘だ。

そんな義弟に頼まれると二つ返事でOKしてしまう旦那である。

私は旦那のOKメールを確認すると弟にそのままメールをした。


『19時に最寄りね。ひろ君がその時間に帰宅するから 』


---------------------------------------------------


帰り道、電車の窓に映る自分の顔を眺めながら帰る。

考えているのは弟の事だ。

 家も家から一時間ほどの学生寮に住んでいる。今年、大学三年になる弟はいつも笑顔でみんなから好かれている。友達も多い。私から見れば根っからの人たらしと言いたいけど。

明日は久しぶりに旦那と休みが被る日だった。一緒にショッピングにでも行こうかと話していたけどもしかしたら弟も一緒に行くかもしれない。

楽しみにしていたのにそれにすこし水が差した気持ちだった。

そんな考えを悶々と考えていると携帯が振動した。開くとメール。気をまぎらわせるように私はメールの文面に返信をした。


「おいしいです! この魚の焼き加減も最高ですし、お浸しもおいしいです」

「本当? おいしいって言ってもらえてうれしいよ」


我が家の料理担当は旦那だ。

もちろん私も作れなくはない。

けど料理が趣味の旦那のためにあえて私は料理を作らないのだ。


いつも私しかおいしいと言ってくれる人がいないけど今日は弟もおいしいと言ってくれるのでとてもうれしそうだ。

かわいいなぁ、ちょろいなぁと旦那を見ながら味噌汁をすする。

 やっぱり同性だと話も弾むのだろう。女性の私は話にやや置いてけぼり気味である。


「ねえ、奈央、聞いてた?」

「えっ、ごめん。考え事」

「そう…仕事?」

「まあ、いろいろ」


 弟は考え事をしていた私をじっとみた。

 昔からの弟の癖だ。

 なにか二人きりで話したいことがあるとき、弟は話したい相手をじっと見る。

 やっぱり弟はなにか話したいんだな、と頭の片隅で思いながら私は箸をすすめた。


--------------------------------------


「ヒロさん、もう寝ちゃったんだね」

「根っからの朝型なんだよ」

「本当に姉ちゃんと合わないね」

「私たちもそう思ってるよ。はいこれ」

「ありがとう…、砂糖入れてあるこれ?」

「さーどうでしょ」


 弟は少し疑ったように少しだけ私がいれた紅茶を口に含む。

 砂糖入りだったことがわかった弟はそのまま飲み進めた。

 私も砂糖なしの紅茶を飲む。

 そのまま二人で黙って飲み進め、弟のカップが空になったあたりで弟は重たげな口を開いた。


「……姉ちゃんはさ」

「うん」


 私はまだ半分ほど残った紅茶をすすりながら相槌を打った。


「……誠一から聞いてる?」

「……さっきね」


 弟は脱力したかのように大きなため息をついた。

 それがきっかけになったのか弟は静かに口を開いた。


「あいつ、いきなり呼び出してきて、なんだと思ったら真剣な顔でさ」

「うん」

「本当に意味わからねえよな。我慢できなかったとか」


 弟は手に持つコップを強く握った。

 葛藤しているのだろう。

 私はそのまま話を聞き続ける。


「す、すきだって言ってきて」

「うん」

「……本当に、なんで今なんだよ」


 弟は深いため息をついた。

 思い詰めていた思いがやっとこ消化できたみたいだ。

 私はそっと口を開く。


「誠一君は知っているの? あんたのこと」

「…知ってる。姉ちゃんの次に」

「そっか」


 弟が同性しか好きになれないと聞いたときはびっくりした。

 それを知っているのは私の知る限り私と弟の幼馴染の誠一君である。


「…あんたは、どう思ってるの?」

「どうって…」

「そうゆう目で見れるの?」

「そ、そうゆう目って…!」


 弟はもごもごとはっきりしない言葉を繰り返す。

 とぎれとぎれに聞こえた言葉の女々しさに思わず吹き出してしまう。


「誠一とはずっと子供のころから友達で、今更そんな関係なんて…」

「あのさ」


 私は笑いをこらえながらいった。


「誠一君からメールあったよ」

「…………」

「ほら」


 私は携帯の画面を見せる。

 弟はその画面を見て黙りこむ。


「あんたの思いを伝えればいいじゃん。わかってくれるよ。彼なら」

「………………うん」


---------------------------------------


それからどうなったのか私は知らない。

 けど、たまに弟に会うと晴れやかないつものおとぼけの顔をしているから、うまくいったんじゃないかと思うけど、そこまで聞くのも野暮だろう。

 誠一君からも「ありがとう」と感謝されただけでその後なんて聞いていない。

 姉弟と言ってもただの他人だ。

 いう義理もないのだろう。

 特に私も聞くことはない。けど、それでいいのだ。

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