44 / 84
43
廊下の向こうで、ジェニエルがゼツィオードに導かれて歩いていく。
その背を見送りながら、セオドールは指先を強く握りしめていた。
「……待て」
低く押し殺した声は、静まり返った夜の廊下に吸い込まれるように消えた。
ジェニエルは振り返らなかった。
ゼツィオードもまた、一度もこちらを見ず、彼女を庇うように歩を進めていく。
――その姿が、苛立ちをさらに煽った。
呼び止めても、振り向くことすらしない。
自分がどれほどの立場にあるのか、二人とも分かっているはずだ。
それなのに、まるで自分が存在しないかのように、静かに並んで歩いていく。
その距離、その呼吸の重なり方が、胸の奥を鈍く突いた。
「……っ」
知らぬ間に奥歯を噛みしめていた。
腕に絡みつく柔らかな感触が現実に引き戻す。
オリヴィアが、まだその腕にすがりついていた。
「セオドール様……もうよいではありませんか。あんな方のことなど」
甘えるような声音が耳元にかかる。
だが、その響きが今はひどく鬱陶しかった。
「離れろ」
無理やり腕を振り払うと、オリヴィアの顔に驚きと怯えが走った。
先ほどまで優しく微笑み、抱き寄せていた男が、今は冷たい眼差しで自分を見下ろしている。
「いつまでそうしている?」
静かに、しかし冷え切った声が廊下に落ちる。
オリヴィアの身体がぴくりと震えた。
それでも彼女は、縋るように言葉を絞り出す。
「申し訳……ございません」
その声音はかすれ、頼りなかった。
セオドールは深く息を吐いた。
もはや彼女に何を言う気力も起こらない。
まるで、別の世界の出来事のように遠く感じた。
「でもどうしてそんなことを言うのですか?……私を皇后にすると仰ったのは、貴方でしょう?」
オリヴィアの瞳には、涙が滲んでいた。
けれどその問いかけも表情もセオドールの胸になんの感情も呼び起こさない。
ただ、ただ、自分の傍にいる女がジェニエルでない事に苛立っていた。
――皇后にしてやってもいい。確かに、そう言った。
だが、それがどれほど軽率で、浅はかな言葉だったか。
今になって思い知らされた。
その背を見送りながら、セオドールは指先を強く握りしめていた。
「……待て」
低く押し殺した声は、静まり返った夜の廊下に吸い込まれるように消えた。
ジェニエルは振り返らなかった。
ゼツィオードもまた、一度もこちらを見ず、彼女を庇うように歩を進めていく。
――その姿が、苛立ちをさらに煽った。
呼び止めても、振り向くことすらしない。
自分がどれほどの立場にあるのか、二人とも分かっているはずだ。
それなのに、まるで自分が存在しないかのように、静かに並んで歩いていく。
その距離、その呼吸の重なり方が、胸の奥を鈍く突いた。
「……っ」
知らぬ間に奥歯を噛みしめていた。
腕に絡みつく柔らかな感触が現実に引き戻す。
オリヴィアが、まだその腕にすがりついていた。
「セオドール様……もうよいではありませんか。あんな方のことなど」
甘えるような声音が耳元にかかる。
だが、その響きが今はひどく鬱陶しかった。
「離れろ」
無理やり腕を振り払うと、オリヴィアの顔に驚きと怯えが走った。
先ほどまで優しく微笑み、抱き寄せていた男が、今は冷たい眼差しで自分を見下ろしている。
「いつまでそうしている?」
静かに、しかし冷え切った声が廊下に落ちる。
オリヴィアの身体がぴくりと震えた。
それでも彼女は、縋るように言葉を絞り出す。
「申し訳……ございません」
その声音はかすれ、頼りなかった。
セオドールは深く息を吐いた。
もはや彼女に何を言う気力も起こらない。
まるで、別の世界の出来事のように遠く感じた。
「でもどうしてそんなことを言うのですか?……私を皇后にすると仰ったのは、貴方でしょう?」
オリヴィアの瞳には、涙が滲んでいた。
けれどその問いかけも表情もセオドールの胸になんの感情も呼び起こさない。
ただ、ただ、自分の傍にいる女がジェニエルでない事に苛立っていた。
――皇后にしてやってもいい。確かに、そう言った。
だが、それがどれほど軽率で、浅はかな言葉だったか。
今になって思い知らされた。
あなたにおすすめの小説
あなたの隣に私は必要ですか?
らんか
恋愛
政略結婚にて、3年前より婚約し、学園卒業と共に嫁ぐ予定であったアリーシア。
しかし、諸事情により結婚式は延期され、次の結婚式の日取りさえなかなか決められない状況であった。
そんなアリーシアの婚約者ルートヴィッヒは、護衛対象である第三王女ミーアの傍を片時も離れようとしない。
月1回の婚約者同士のお茶会もすぐに切り上げてしまい、夜会へのエスコートすらしてもらった事がない。
そんな状況で、アリーシアは思う。
私はあなたの隣に必要でしょうか? あなたが求めているのは別の人ではないのでしょうかと。
* 短編です。4/4に完結します。
ご感想欄は都合により、閉じさせて頂きます。
結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です
柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。
そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。
真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。
けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。
「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」
彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。
アンリは実は、亡き国王の婚外子。
皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。
婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢
alunam
恋愛
婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。
既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……
愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……
そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……
これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。
※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定
それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!
もう愛は冷めているのですが?
希猫 ゆうみ
恋愛
「真実の愛を見つけたから駆け落ちするよ。さよなら」
伯爵令嬢エスターは結婚式当日、婚約者のルシアンに無残にも捨てられてしまう。
3年後。
父を亡くしたエスターは令嬢ながらウィンダム伯領の領地経営を任されていた。
ある日、金髪碧眼の美形司祭マクミランがエスターを訪ねてきて言った。
「ルシアン・アトウッドの居場所を教えてください」
「え……?」
国王の命令によりエスターの元婚約者を探しているとのこと。
忘れたはずの愛しさに突き動かされ、マクミラン司祭と共にルシアンを探すエスター。
しかしルシアンとの再会で心優しいエスターの愛はついに冷め切り、完全に凍り付く。
「助けてくれエスター!僕を愛しているから探してくれたんだろう!?」
「いいえ。あなたへの愛はもう冷めています」
やがて悲しみはエスターを真実の愛へと導いていく……
◇ ◇ ◇
完結いたしました!ありがとうございました!
誤字報告のご協力にも心から感謝申し上げます。
さようなら、私の愛したあなた。
希猫 ゆうみ
恋愛
オースルンド伯爵家の令嬢カタリーナは、幼馴染であるロヴネル伯爵家の令息ステファンを心から愛していた。いつか結婚するものと信じて生きてきた。
ところが、ステファンは爵位継承と同時にカールシュテイン侯爵家の令嬢ロヴィーサとの婚約を発表。
「君の恋心には気づいていた。だが、私は違うんだ。さようなら、カタリーナ」
ステファンとの未来を失い茫然自失のカタリーナに接近してきたのは、社交界で知り合ったドグラス。
ドグラスは王族に連なるノルディーン公爵の末子でありマルムフォーシュ伯爵でもある超上流貴族だったが、不埒な噂の絶えない人物だった。
「あなたと遊ぶほど落ちぶれてはいません」
凛とした態度を崩さないカタリーナに、ドグラスがある秘密を打ち明ける。
なんとドグラスは王家の密偵であり、偽装として遊び人のように振舞っているのだという。
「俺に協力してくれたら、ロヴィーサ嬢の真実を教えてあげよう」
こうして密偵助手となったカタリーナは、幾つかの真実に触れながら本当の愛に辿り着く。
夫は家族を捨てたのです。
クロユキ
恋愛
私達家族は幸せだった…夫が出稼ぎに行かなければ…行くのを止めなかった私の後悔……今何処で何をしているのかも生きているのかも分からない……
夫の帰りを待っ家族の話しです。
誤字脱字があります。更新が不定期ですがよろしくお願いします。
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
あなただけが私を信じてくれたから
樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。
一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。
しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。
処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。