陛下を捨てた理由

甘糖むい

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夕刻、ジェニエルが今日の会議での出来事をまとめていると、執務室の扉が勢いよく開いた。
重厚な扉が壁にぶつかるほどの勢いで開かれ、積み上げられた書簡がわずかに揺れる。
ジェニエルが眉をひそめて扉の方向をみるとセオドールが立っていた。

「勝手に停戦を決めたそうだな」

怒りを隠す事もないセオドールはジェニエルがやる事全てが気に食わないのだと全身で語っていた。
ジェニエルは手にしていた書類からゆっくりと顔を上げ、机越しにセオドールを見つめた。

「陛下こそ、勝手に会議を欠席なさいました」

その声音には一片の怯えもなかった。
むしろ冷静すぎるほどに静かで、逆にセオドールの怒りを煽った。

「俺は皇帝だ。何をしようと勝手だろう」
「私は皇后です。国のために動くのは当然のことかと」

短く交わされる言葉の裏に、深い亀裂が見え隠れする。
セオドールは怒りを込めて机を叩くと、怒気を露わにしてジェニエルを睨みつける。

「辺境の件は、もう決まっていたんだ。お前が余計な口を挟んだせいで——」
「陛下」

ジェニエルは静かにセオドールの言葉を遮った。
公の場であれば皇帝の言葉を遮るなど許されないかもしれない。
だが今はゼツィオードもいない2人きりの空間だった。

「辺境の民の暮らしを、ご存知ですか?」
「何?」

脈絡もない問いにセオドールは眉を潜めた。
ジェニエルは、机の上の地図に視線を落とす。
彼女の指先が北方の小さな村を指して2度、場所を示すように叩いた。

「ゼツィオードから聞いておりませんか?あの地では、大人はおろか子供たちが十分な食事も取れず、
冬には凍死者も出ると。そんな場所で戦争が起きれば――」
「国のためなら、犠牲は仕方がない」

ジェニエルが言い募ろうとした言葉はセオドールに遮られた。
その言葉は冷酷で、理屈のようでいて、セオドールが自らに言い聞かせるようでもあった。

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