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「それでも貴方は王になった。それは紛れもない事実です」
「事実……ね」
ジェニエルの手を振り払うようにして立ち上がったセオドールの表情は、丁度差し込む夕日で見えなかった。
どんな顔をしているのか知りたいような知りたくないような気持ちでセオドールを追いかけるように立ちあがったジェニエルを振り返ってセオドールはひとつ笑い声を上げた。
「私が王と言う事実があるのにそのくせ、皆の目はいつだってあの人……ゼツィオード叔父上に向いている。1を見れば10を知る……いや、100をも見通す人だ。何も教えずとも何をすべきか察し、誰より早く動く。何より、人心を掴む術に長けている」
「セオドール……」
ジェニエルも、幼い頃から兄のように慕っていた男の名前に息をのんだのがわかったのだろう。
上手く言い返せないで名前を呼ぶしか出来ないジェニエルには、セオドールが泣いているのかと思うほど悲痛な言葉が続いた。
「……私は違う。1を教えられても、2や3にはすぐに届かない。いや、それどころか、10を聞いてようやく1から10がようやく理解できるような、そんな器量しか持ち合わせていない」
自嘲に満ちた声で笑ったセオドールの気持ちは痛い程ジェニエルにはわかった。
ずっとそばで見守ってきていたからこそ、セオドールが苦しんでいる事を傍で見ていたからこそ言葉が思い浮かばず黙っていると、セオドールは続けた。
「知っているだろう? 私を教育したのは、かつて叔父上を育てた者たちだ。同じ教えを受けていながら、私はあの人に一度たりとも勝てたことがない。誰よりも、あの人と比べられながら生きてきたんだ。ずっと……ずっとだ」
ジェニエルは静かに息をのんだ。
セオドールの告白には、怒りよりも、嫉妬よりも深く、冷たい自己否定が渦巻いていた。
「でも……ゼツィオード様がどれほど優れた方でも、今この国を導いているのはセオドール様です。それだけは、誰にも否定できません」
「君は、私を慰めるためにそう言ってくれるんだろう」
「いいえ。私は……私は貴方の傍にいて、ずっと見てきました」
ジェニエルはそっと表情の見えないセオドールに近寄ると、冷たいその手を握りしめた。
「貴方がどれほど苦悩してきたか、どれだけ努力して、失敗して、また立ち上がって……誰もがゼツィオード様の幻を追い求めている中で、貴方は貴方の道を築いてきた。それが、どれほど困難だったか、私は知っています」
セオドールは黙ったままだった。
その場には居ない亡霊のようなお手本に苦しむセオドールを支えようとジェニエルは必死だった。
「貴方は貴方のやり方でいいのです、1人でゼツィオード様を超えられないのなら私が居ます。共に歩むために、貴方の妻になったのです」
それは、ジェニエルの本心だった。
「事実……ね」
ジェニエルの手を振り払うようにして立ち上がったセオドールの表情は、丁度差し込む夕日で見えなかった。
どんな顔をしているのか知りたいような知りたくないような気持ちでセオドールを追いかけるように立ちあがったジェニエルを振り返ってセオドールはひとつ笑い声を上げた。
「私が王と言う事実があるのにそのくせ、皆の目はいつだってあの人……ゼツィオード叔父上に向いている。1を見れば10を知る……いや、100をも見通す人だ。何も教えずとも何をすべきか察し、誰より早く動く。何より、人心を掴む術に長けている」
「セオドール……」
ジェニエルも、幼い頃から兄のように慕っていた男の名前に息をのんだのがわかったのだろう。
上手く言い返せないで名前を呼ぶしか出来ないジェニエルには、セオドールが泣いているのかと思うほど悲痛な言葉が続いた。
「……私は違う。1を教えられても、2や3にはすぐに届かない。いや、それどころか、10を聞いてようやく1から10がようやく理解できるような、そんな器量しか持ち合わせていない」
自嘲に満ちた声で笑ったセオドールの気持ちは痛い程ジェニエルにはわかった。
ずっとそばで見守ってきていたからこそ、セオドールが苦しんでいる事を傍で見ていたからこそ言葉が思い浮かばず黙っていると、セオドールは続けた。
「知っているだろう? 私を教育したのは、かつて叔父上を育てた者たちだ。同じ教えを受けていながら、私はあの人に一度たりとも勝てたことがない。誰よりも、あの人と比べられながら生きてきたんだ。ずっと……ずっとだ」
ジェニエルは静かに息をのんだ。
セオドールの告白には、怒りよりも、嫉妬よりも深く、冷たい自己否定が渦巻いていた。
「でも……ゼツィオード様がどれほど優れた方でも、今この国を導いているのはセオドール様です。それだけは、誰にも否定できません」
「君は、私を慰めるためにそう言ってくれるんだろう」
「いいえ。私は……私は貴方の傍にいて、ずっと見てきました」
ジェニエルはそっと表情の見えないセオドールに近寄ると、冷たいその手を握りしめた。
「貴方がどれほど苦悩してきたか、どれだけ努力して、失敗して、また立ち上がって……誰もがゼツィオード様の幻を追い求めている中で、貴方は貴方の道を築いてきた。それが、どれほど困難だったか、私は知っています」
セオドールは黙ったままだった。
その場には居ない亡霊のようなお手本に苦しむセオドールを支えようとジェニエルは必死だった。
「貴方は貴方のやり方でいいのです、1人でゼツィオード様を超えられないのなら私が居ます。共に歩むために、貴方の妻になったのです」
それは、ジェニエルの本心だった。
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