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10.悪役令嬢はヒロインと接触する

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アリアナの手をよく見ると、あかぎれが目立つ苦労した手をしていて、気づいたアナスタシアは労わるようにその手を撫でた。
ゆっくりと傷をいやそうとする指先の動きにアリアナははじかれた様に動いた。

「はひっ!ありがとうございます!手をっ!手をお離しください!」

アナスタシアから手を取り戻すとアリアナは真っ赤に染まった頬のまま両手を胸元に隠す。
大げさなほど大きく呼吸をして、自分の手を守るようにしているアリアナはアナスタシアの悲しげな表情に気が付かなかった。

「あの、私はそんなにあなたに嫌な思いをさせてしまったのかしら?」

しゅんと、まるで捨てられた犬のように悲しむアナスタシアは、自分の行動がどれほど影響を及ぼすのかまったく理解できないらしい。
アリアナに嫌われてしまったのかと、不安そうに瞳を揺らしていた。
アナスタシアのルビー色に光る瞳に吸い寄せられそうになっていたアリアナはそんなアナスタシアの誤解を解こうと必死に言葉を紡いだ。

「違います!いい匂いすぎて!いや、違っ!違わないですが、恐れ多くて!決して嫌とかじゃありません!」

あのその、と言い募るアリアナは真っ赤に染まった頬のままアナスタシアになんと言えばいいのかテンパったまま言葉を重ねて誤解を解こうと必死になっていた。
どういえばアナスタシアを安心させることができるのか。
アリアナにとって貴族のましてや庶民ですら知っているアナスタシアに突然近寄られてどうしていいのかわけがわからなくなっていた。

頭を傾げればふわりと、花の香りがして、どこを見てもキラキラと光り輝くアナスタシアが本当に人間なのかと疑ってさえいた。
アリアナの手を取ったアナスタシアの手は傷一つなく、陶器でできていると言われても違和感がないほど透明感があった。

これ以上触れていては壊してしまうかもしれないとアリアナは自分の手を急いで取り戻してアナスタシアの手に傷がないことにほっと息を吐いたのは仕方がないことだった。

アリアナの言い募る姿にアナスタシアは嫌われた訳じゃないと知り、ほっと安心したように笑みをこぼす。
傾国。
そんなに文字がアリアナの脳裏に浮かんだ。

微笑み一つで国をも傾けたとされる異国の美女が、アリアナの目の前で優雅に微笑んでいた。

「そう、なら仲良くしてくださると嬉しいです」

ふわりと花が咲くような微笑みを間近でみたアリアナは真っ赤な顔のまま講堂に響き渡るほど大声で叫んだ。
それはもう腹の底から声がでていた。


「喜んで!!」
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