一度全てを諦めた王が全てを手に入れる話 -王を見守り続けた男-

甘糖むい

文字の大きさ
15 / 32

15

しおりを挟む
「一体どういうことだ?シュラウド」

凍り付いた場内で一番最初に動いたのは陛下でした。
陛下は、興味深そうに王座から身を乗り出しシュラウドに尋ねました。

「皆様にお伺いします。王太子がおっしゃるヘスティア嬢の悪名を知っている者はいますか?」

シュラウドは陛下の問いには答えずに野次馬となっている参加者に問いかけました。
穏やかで伸び伸びとしたテノールが響き渡りましたが、誰も手を上げようとはしませんでした。
今日のパーティーはこの国を支える者達が集まっていると言ってもおかしくありません。
ここで下手に発言をしてしまえば、家名を揺るがす事に他なりません。

それが下世話な噂話となれば尚の事。
余程の無知でもない限り口を開けばシュラウドに敵とみなされるとわかる状況で誰もが顔を見合わせるだけでした。

「ヘスティアの事を一番初めに私に言いに来たのはリリアン嬢……君だろう!」

そんな雰囲気の中、王太子は声を上げて一人の女性の名前を呼びました。
王太子に指名されたのは、彼女の血のつながらない妹でした。

「……なっ!」
「リリアン嬢、詳しく教えて頂けますか?」

義妹は名前を呼ばれるとは思いもしなかったのでしょう。
明らかに挙動不審で辺りを見渡しますが、誰もが義妹から距離を取って彼女はシュラウドと話す以外の選択肢を失いました。
取り巻きの令嬢だけでなく、両親にも見捨てられた義妹は誰も助けてくれないと知ると諦めたようにシュラウド達の前に進み出てくると口を開き噂話のひとつを口にしました。

「ヘスティアお姉様が殿下から頂いた花を踏みにじっていた所を見ました」
「ティア、身に覚えはあるか?」

義妹の言葉に、シュラウドが声をかけると彼女は首を振って否定しました。

「ヘスティア嬢は身に覚えがないようですが、本当にリリアン嬢はみたのですか?」
「……」
「……黙っていないで答えろ!君は、ヘスティアが使いの者に怒鳴りつけていたとも言っていたじゃないか!」

シュラウドに聞かれたリリアンが黙っていると、しびれを切らしたのか王太子が声を上げました。
その声はまるで真実などどうでもいいのか癇癪を起しているような怒声でした。
怒声が響き、参加者たちが小さな声で噂をする様子を彼は見ていました。

彼女と義妹。
果たしてどちらが本当の事を言っているのか話合う人々の中で、彼だけがどうして義妹が黙っているのか知っていました。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...