一度全てを諦めた王が全てを手に入れる話 -王を見守り続けた男-

甘糖むい

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「はぁ!?そんなのいつまで経っても仲良くなれないじゃない、王様やアレク様がお可哀想よ!」

彼女と対して男爵令嬢の言葉には利口さが一切伺われずに誰もが呆れて何も言えないようでした。
王族との適切な距離については国民皆が知っていることなのです。
3歳児でも理解をしているような常識を男爵令嬢は理解していないとわかる発言にあれだけ男爵令嬢に夢中だった王太子すらも愕然とした表情を浮かべて男爵令嬢を見ていました。

「シヴァ嬢の気持ちはありがたいが、決まりは決まりなのだ。決まりがなければ、私たちは次から次へと話しかけられて公務が出来なくなってしまう。」

陛下は幼い子供に言い聞かせるように言いました。
呆れを通り越して憐みにも似た視線を陛下は浮かべていました。

「そんなの守りたい人が守ればいいじゃない!それに私はアレク様に話しかけたらこうして婚約者にえらばれたんです!全部、ヘスティア様の嫉妬だわ!」

男爵令嬢は悲劇ぶった動作をしながら叫びました。
子供のいいぶんにも似た男爵令嬢の言葉に誰もが開いた口をふさぐことが出来ません。
そんな空気に、男爵令嬢は何を勘違いしたのか更に言葉をつづけました。

「ドレスが見苦しいとみんなの前で侮辱されたこともあったんです!」
「それはその通りだろ」
「なっ!?私を侮辱したのは誰!私は王太子の婚約者なのよ!」

男爵令嬢の魂が籠った訴えかけに何処からか真底馬鹿にした声が聞こえました。
今日の為に誂えた真っ赤なドレスは、背中もデコルテも大きく開いた男爵令嬢を美しく見せるに相応しいドレスだと自負していたのです。
王太子も男爵令嬢の美しく着飾った姿をとてもよく褒めてくれていました。

しかし、傍から見れば溢れんばかりに曝け出された胸元に、体のラインを強調するようなドレスは見方を変えれば場に相応しくないと取られても仕方がないものでした。
男爵令嬢は声の犯人を見つけようと辺りを見渡しましたが、結局わからなかったのか早々に諦めると、王太子の腕の中に飛び込んで悲劇のヒロインを演じます。
まさか自分を否定されるとは思っても居なかったのでしょう。
男爵令嬢は周りから向けられる自分への笑い声と、その広がる様子に驚いたようでした。
誰とも知らない貴族達の笑いものにされて男爵令嬢は本当に泣き出してしまいそうになりながら王太子に男爵令嬢はよりかかりました。
自分の事を守ってくれる男にこの場を任せた方が上手く事が運ぶと打算しての事でした。

「無礼な事を言ったのは誰だ!」

王太子の言葉に笑いは直ぐに収まりました。
男爵令嬢への気遣いからではありません。
王太子が自分のプライドを守るその為だけに男爵令嬢を守ろうとしているのです。
場内が静まり返ると、王太子は満足そうに辺りを見渡しました。

王族への侮辱は極刑にあたります。
例えそれが王太子が選んだ婚約者であったとしても例外はありません。
貴族達は、裁かれることを恐れて、口を噤んだ様子を彼は静かに筆を動かして書き記しました。
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