一度全てを諦めた王が全てを手に入れる話 -王を見守り続けた男-

甘糖むい

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そんな時、ひとりの男が現れました。

「シヴァ!君は本当に王太子と結婚するのか!?」 

絵師は慌てた様子で会場に入って来ると、誰にも目をくれずに男爵令嬢の前に詰め寄りました。
今日のパーティーの事をどこからか聞きつけてきたのでしょう。
突然見知らぬ男が乱入してきた事に護衛の騎士達は殺気立ちましたが、陛下が目的でないと知るとどうしていいか判断が出来ずに戸惑っているようでした。
一応は王家の紋が入ったスケッチブックを持つ絵師を止めるには値しないと判断したのか、陛下は静かに手を上げて様子を伺っています。

彼は絵師の事も良く知っていました。
絵師も記録係と同じく王族を守り、支える同志です。
絵師と彼は時々言葉を交わして意見や情報を交換する長年の友人でした。
彼は絵師がなぜここに来たのか疑問に思いましたが、その疑問は直ぐに晴らす事が出来ました。

「ええそうよ」

絵師の言葉に王太子の腕を抱きながら男爵令嬢は自慢げに答えました。
興奮からか、鼻がひくひくと動いて、頬は上気してピンク色に染まっています。
その言葉に、絵師はスケッチブックを捨て置いて両手で頭を狂ったようにかきむしり、男爵令嬢を睨みつけました。
不穏な空気が会場を支配しました。
なにせ次から次へと話題に事欠かない事が頻繁に起こるのです。
初めは面白い事が起こる事を楽しんでいた貴族達でしたが、今やもう楽しむものは一人もいません。
男爵令嬢が新たな火種を持ってきたことに怯える者ばかりです。

「俺の為の女神でいてくれると言っていたのに!」

絵師は悲痛な声で叫び、男爵令嬢に向かって怒りをぶつけました。
彼の目は恋に狂った光を宿していました。

「はぁ?!何を勘違いしてるのか知らないけどアンタなんかと私が釣り合う訳がないでしょ!さっさと出ていきなさい」

男爵令嬢がいい返すと絵師は絶望に満ちた表情で男爵令嬢と王太子を見上げました。
決して交わる事がない上級貴族の仲間入りをしたという顔で絵師を下げずむ姿に、会場の誰もが男爵令嬢と絵師との間に何かあったことを悟りました。

絵師は長らく茫然としていましたが、俯くや否やブツブツと何かを呟き始めました。

「……私と、…………愛して……嘘だ……」
「何よ気持ち悪い、さっさと出て行って!」

男爵令嬢が叫ぶと、王太子が騎士達に指示を出しました。
騎士達は王太子の指示に従うしかありません。
彼らの手が絵師に伸びて、絵師を捕らえようとした時でした。

絵師はスケッチブックを拾い上げると1枚ずつ引きちぎって紙を辺りにばらまき始めました。
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