【完結】私は死神に恋をした

かずきりり

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希望か、絶望か――
ほんの少し……ほんの少しだけ、もしかしてと思った。思ったけれど両親は私が家に居た事も……外に出た事も気が付いていなかったのだろう。追いかけてすらこなかった。
今もし両親を見たとしてどうなのだろうか。
あの時に砕け散った希望。
私が死んだ事にも気が付いていないだろう。気が付いていても悲しみも何もないだろう。あの両親にとって私が死んだところで悲しみに暮れる姿なんて想像できない。むしろ居ないも同然だったものが居なくなっただけなのだ。
そんな事を思いながらも、もしかして……なんて思いを抱いてしまう自分が嫌になる。
そんな自分に気が付いた事に悔しくて悲しくて……どうしようもなく、やりきれない思いが沸き上がってくる。

落ち着け
落ち着け
落ち着け

思考を戻そうと、心を戻そうと、幽体なのに深呼吸して整えると、私の心に呼応しているかのように雨が弱くなっていく。

「……あ」
「虹だね」

光の屈折と言うが、見ているとどうしても潜ってみたくなるのは私だけだろうか。

「あそこまで競争!」
「はぁ!?」

そんな事を言って、私は虹に向かって飛ぶ。近づこうにも離れたり、違う場所に現れたり。そういう所も含めて面白かったりする。
悲しんでも、悔しんでも無駄だ。私は死んでいる。正確には間違えて魂を取られただけだと言うが、戻るつもりがないなら同じ事。あんな両親の事で心を乱すだけ無駄だ。
生きている間はずっと両親にとらわれていたからこそ、今はめいっぱい楽しみたい。

「元気すぎるだろ……」
「勇さん、おっさん~!」
「あのなぁ!!」

ただただ届かない虹を追いかけて、無邪気にはしゃいで笑う。
そうこうしている内に、夕方になっていくのか、辺りは赤く染まっていく。昼から夜に変わっていく不思議なこの時間帯は美しくもあり、綺麗でもある。

「黄昏時……」
「逢魔が時とも言うね」

誰そ彼。
そこにいるのは誰ですか?誰ですかあなたは?とたずねる頃合いと言う。挨拶運動のようなものかな、と思った事もあった。挨拶を積極的にかわす事で不審者が逃げ出すとかね。
今の時代、挨拶に声をかけただけで不審者扱いされたりするから、そんな風習もなくなってきた。

「……一度戻るよ」
「え?何で?」

私が夕日を見入って、そんな事を考えていれば、勇さんは険しい顔をしてそんな事を言い出した。
逢魔が時。黄昏時の事。
確か、誰そ彼の意味に、そこにいるのは誰だろう?よくわからない。というものもあった気がする。確かに薄暗くなってきた時間帯は、視界も少し鈍くなる気がする。
そして、禍々しい時という意味もあり、魔物に遭遇するとか、あまり良くない意味を持っていた筈だ。

「早く」
「えっ!?ちょ……っ!」

そんな事を考えていれば、勇さんは私の手を引っ張って、突如として現れた四角い光の中へ入っていく。





「折角の夕日が」
「謝らないからね。危険な時なんだから」

暗闇の世界に足元は光り輝くイルミネーション。こんな所から街の光が見えるなんて、それこそ飛行機にでも乗っていない限り無理じゃないだろうかという位の絶景で、私は感動するどころか膨れっ面だ。
黄昏時が終わってから、再度現世に戻る事が出来たんだが、おかげで昼から夜に切り替わり、沈んでいく夕日を見逃したのだ。

「霊体にとっては消滅に関わるんだ」
「あーはいはい!わかった!」

勇さん曰く、その時間帯は悪霊が活発になる時間であり、幽体だけの私は絶好の獲物みたいなものだと言う。襲われて何かあれば魂そのものが消滅してしまうと言うけれど、別にそれでも良いと思ってしまう私も居る。
輪廻転生とか、生まれ変わりとか……ピンとこない。
魂は巡っても、記憶はないわけで。次に生まれるとしてもそれは私ではないし、全くの別人であるという認識だ。それが延々と繰り返されているとしたら、今いる私は一体なんなのかとさえ思えてしまう。
あの苦しみも悲しみも……何なのだろう。そう思うと、適当な返事しか出来なかった。

お台場海浜公園や台場公園の夜景を空中から楽しむ。こんなのドローン越しじゃないと見られないようなものだ。それが実際にこの目で見られるなんて本当に楽しいし貴重な体験だと思う。
沈んだ心と暗くなった思考を振り払うかのように楽しみ、認識されない事を良い事に、カップルがいちゃついてるのを目の前で眺めてたりする。

「あははははは!!!恋人同士ってこんな事をささやきあってるんだ!」

勇さんはため息をついてるが、私はこっぱずかしくなる言葉を聞きながら、カップルの目の前で大声で笑う。
そんな中、真剣にプロポーズをしている男性を見つけ、そちらに向かうと、何故か女性の顔が引きつっている。
嫌なのかな?
そんな事を思いながら、真っ赤になって結婚して下さいと言う男性の横で変顔をして遊ぶと……

「いやぁあああ!女の子のお化け!?あなた一体何したの!?」

女性はそんな事を叫び逃げ出し、残された男性はポカンとした表情の後、慌てて追いかけていった。

「……奈美さん……」
「……やっちゃった?」

あの女性は、どうやら霊感というものがあったのだろうか……。
勇さんは頭を抑えて俯いているけれど、止めなかったから同罪だと思う。とりあえず、この遊びは封印しようと心に決めた。
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