68 / 134
第二章
22.古傷だらけの身体
しおりを挟む
「……過去の古傷までは治せません……」
呆然とした声で枢機卿が呟き、皆が息を飲んだ。
切り傷から火傷の跡。そして……メラニン色素が多数沈着している箇所がある。いくら古傷だと言っても、全身至る所にあれば痛々しさも込み上げる。
命に関わるようなものはないかもしれないが、これほどまでの傷を残されてきたなんて……それはどれほど心も傷つけられてきたのだろうか。
「こ……れ」
キィが呆然とした顔で、こちらに視線を寄越したのと同じように、枢機卿も私へと視線を移した。
その視線は、理由を知りたがっているのだろうと予測出来たのだけれど、すぐ終わる内容でもない。
話すか、話さないか……そう思っていれば、更に琴子の身体にまとっている神力の輝きが一層強まる。
「今は治療を優先だ!」
「!」
「はい!」
真の怒号で我に返った枢機卿とキィが、すぐに琴子へと意識を向けて神力を流すのを見て、私も流した。
まずは致命傷ともなりえる内臓の損傷と出血が多い傷だ。
「……どうか……」
切実なアンドリューの願いに答えるよう、懸命に四人で神力を流していれば、致命傷だけは治癒できた。
……まだ手足の骨折までは治らないけれど、既に私は満身創痍で眩暈を起こしていた。
「キィ!」
幼いキィは更に疲労を貯め込んでいたらしく、ふらりと身体が揺らぎ、ウィルがそれを受け止めた。
「……今はここまでで、後は交代しながら様子を見て神力を流していきましょう……自己治癒力に期待して」
枢機卿が唇を噛みしめながら終了を宣言した後、私は身体の力が抜けてデイルに支えられた。
真の方へと視線を向ければ、息を吐いて地面の上に手を広げて寝転がっていた。……皆、神力を使い過ぎたのだろう。
それでも、琴子の致命傷だけでも治って……命が助かって良かった。まだ油断は出来ないかもしれないけれど。
私にはこちらの神力での治療知識はないのに、この大怪我なのだ。擦り傷程度の治療とはわけが違う。
「琴子様……」
アンドリューは琴子にそっと上着をかけて、怪我に響かないよう抱きかかえる。琴子のベッドにでも運ぶのだろう。いつまでも地面に寝かせておくわけにもいかない。
「琴子の古傷って……向こうの世界で……だよな」
この世界で贈り人にそんな事をする人なんて居ない。
真の確信的な言葉に、枢機卿と少し意識のあるキィがこちらを向いた。
「なんか知ってる? って、あんま人の過去を詮索するのは良くないかもしれないけど……」
真も言いにくそうに私へと視線を向けたけれど、気になって当たり前だろう。
私は前に話を聞いていたけれど、あそこまでとは思っていなかったのだから。
呆然とした声で枢機卿が呟き、皆が息を飲んだ。
切り傷から火傷の跡。そして……メラニン色素が多数沈着している箇所がある。いくら古傷だと言っても、全身至る所にあれば痛々しさも込み上げる。
命に関わるようなものはないかもしれないが、これほどまでの傷を残されてきたなんて……それはどれほど心も傷つけられてきたのだろうか。
「こ……れ」
キィが呆然とした顔で、こちらに視線を寄越したのと同じように、枢機卿も私へと視線を移した。
その視線は、理由を知りたがっているのだろうと予測出来たのだけれど、すぐ終わる内容でもない。
話すか、話さないか……そう思っていれば、更に琴子の身体にまとっている神力の輝きが一層強まる。
「今は治療を優先だ!」
「!」
「はい!」
真の怒号で我に返った枢機卿とキィが、すぐに琴子へと意識を向けて神力を流すのを見て、私も流した。
まずは致命傷ともなりえる内臓の損傷と出血が多い傷だ。
「……どうか……」
切実なアンドリューの願いに答えるよう、懸命に四人で神力を流していれば、致命傷だけは治癒できた。
……まだ手足の骨折までは治らないけれど、既に私は満身創痍で眩暈を起こしていた。
「キィ!」
幼いキィは更に疲労を貯め込んでいたらしく、ふらりと身体が揺らぎ、ウィルがそれを受け止めた。
「……今はここまでで、後は交代しながら様子を見て神力を流していきましょう……自己治癒力に期待して」
枢機卿が唇を噛みしめながら終了を宣言した後、私は身体の力が抜けてデイルに支えられた。
真の方へと視線を向ければ、息を吐いて地面の上に手を広げて寝転がっていた。……皆、神力を使い過ぎたのだろう。
それでも、琴子の致命傷だけでも治って……命が助かって良かった。まだ油断は出来ないかもしれないけれど。
私にはこちらの神力での治療知識はないのに、この大怪我なのだ。擦り傷程度の治療とはわけが違う。
「琴子様……」
アンドリューは琴子にそっと上着をかけて、怪我に響かないよう抱きかかえる。琴子のベッドにでも運ぶのだろう。いつまでも地面に寝かせておくわけにもいかない。
「琴子の古傷って……向こうの世界で……だよな」
この世界で贈り人にそんな事をする人なんて居ない。
真の確信的な言葉に、枢機卿と少し意識のあるキィがこちらを向いた。
「なんか知ってる? って、あんま人の過去を詮索するのは良くないかもしれないけど……」
真も言いにくそうに私へと視線を向けたけれど、気になって当たり前だろう。
私は前に話を聞いていたけれど、あそこまでとは思っていなかったのだから。
81
あなたにおすすめの小説
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる