【完結】異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり

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第三章

16.キィの過去

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 ――そして吐き出される、キィの過去。

 母親は、まだ27歳だと言う。
 若い母親に憧れて、キィを作ったらしく、それを隠す事なく自慢のように話していたと。
 だけれど、キィが2歳の時に離婚。物心つく前だったからキィは父親の顔すら知らないと。
 気が付けば、母親は男の所へ入り浸っており、常に家で一人。自立できず、誰かに依存し、縋らないと生きていけない母を軽蔑していたと。
 都合の良い時だけ母親ぶって、SNSに良い親を演じたい時だけ顔を出すのも嫌で、アクセサリー感覚で使われていたとしか思えないと。
 ご飯が出てくるだけ、異世界の方がマシ。食べるのもなくて、ずっとお腹がすいていた時もあったと言う。
 小学校にあがったら、給食があって助かったと。

「ひでぇ……」
「何それ……」

 ここまで吐き出したキィの言葉で、ウィルと琴子が手で口を覆い、驚愕の表情をした。
 私だって……微動だにする事が出来ない程、驚いている。
 あまりにも衝撃的で……そして辛く悲しい。子どもが子どもを産んで、育てる事が出来ていない状態ではないのか。
 ネグレクトという言葉が頭に浮かんだと同時に、生きていてくれて有難うとさえ思えた。
 だから、こうして出会えている。

「……よく生き延びて下さいました」

 枢機卿の優しい声で、キィは驚いたように顔をあげてから、またも涙を溢れさせた。
 枯れ果てる事を知らない涙のせいで、もうキィと枢機卿の服は濡れてぐしゃぐしゃだ。

「そんな……こと……偽善だと思ってた!」

 それでもキィの胸にはまだ何かあるのだろう。更に言葉が紡がれる。

「生きている事が希望だなんて……冗談じゃない! 何で産んだの!? SNSに載せる時しかご飯くれないくせに!」

 それは名前も嫌いになるわ、と思ってしまった。
 キラキラだとか、クラスメートから馬鹿にされたとか、そんな理由より心の傷が大きいのではないだろうか。
 言っても、対してキラキラネームだとは思えない。
 そこに込められている意味に嫌気が刺したのだろう。
 生命と書いて「みこと」
 生美と書いて「きみ」
 候補にあった名前は全部嫌だ気持ち悪いとキィは吐き捨てた。

(……名づけセンスがある意味で……どうよ)

 ここまで来ると、シワシワネームと言われている名前の方が余程良い。
 だって読み方がすぐわかるもの。
 それに……そこまで「生」に拘るのも、確かに気持ち悪いと、人の母親だけれど思ってしまった。

「希望でのぞみとかのが全然普通じゃない! どうしてそういう名前にしてくれなかったの!」
「じゃあ、もうこっちでは希望で良いんじゃない?」

 キィの叫びに対して、突発的に出た素直な言葉だった。
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