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第三章
17.一難去ったらまた波乱
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「……え……?」
「それはどういう……?」
呆気に取られたキィと、私の真意を測りかねるように首を傾げる枢機卿。
いや、デイルやアンドリュー、そしてウィルも首を傾げている。
私、そんなおかしなこと言ったかな。
「あ、なるほど!」
琴子は理由が分かったのか、パンッと手を叩いた。
「戸籍なんてもう関係ないし! 今日からキィの本名は希望よ!」
全く同じ意見を出した琴子の言葉に、私は何度も頷く。
向こうの世界で何があったとか、どうだったかとか、もはやこちらの世界では関係ない。否、関係なくはないか、私という存在を作り上げた世界ではあるから。
でも、身分証明書なんて言うものは通用しないのだ。嘘を言ったとしても、それを証明する方法もない。
キィの名前が何であろうと、それすらもう調べようがないものなのだから。
「……あ……」
呆れから驚きに、そして希望に満ちた表情へと。キィの瞳に光が宿ったように見えた。
「幼いキィでも頑張っている。それは私達にとっての希望よ」
琴子が優しく、まるで母親のようにキィへと語り掛ける。
「そうだな! 知らない世界でも努力して実力を身に着ける! それは希望だ!」
ウィルも便乗するように、握りこぶしをして力強くキィへと叫ぶ。
「……生きている事が希望ですよ。どんな困難も乗り越えて……生きていてくれたからこそ、こうして出会えているのですから」
枢機卿の言葉に、キィは更に涙を流しながら、嬉しそうに微笑み、小さく「ありがとう」と口にした。
ここから始まる。
ここから始めれば良い。
小林希生という名前を捨てて、小林希望として。
「ほら、少しは目を冷やさないと、明日腫れるわよ」
「え……」
小言の多い母親のように、琴子はキィの瞼へと手を近づけて神力を流し込んだ。
あれだけ泣いていたのだから、放っておいたら瞼がパンパンに腫れあがっていただろうなぁとは確かに思う。
そんな和やかな空気が部屋に満ちていたのだけれど、それを壊すような慌ただしい足音が部屋に向かってきた。
「枢機卿! 枢機卿!! 大変です!!」
「何事だ、想像しい。キィ様のお部屋だぞ」
ノックもなく、ドアを破るような勢いで転がり入って来た神官は、汗をぬぐう事もなく枢機卿へと一目散に駆け寄った。
枢機卿は厳しい口調で注意をするけれど、一体何があったと、キィから離れると神官の前へと立った。
「り……隣国が……隣国が攻めてきました!!」
「は?」
「え?」
攻めて来た。なんて馴染みのない言葉だけれど、それが意味するものなんて一つだ。
私達の国で、私達の世代では経験した事のない……戦争だ。
「それはどういう……?」
呆気に取られたキィと、私の真意を測りかねるように首を傾げる枢機卿。
いや、デイルやアンドリュー、そしてウィルも首を傾げている。
私、そんなおかしなこと言ったかな。
「あ、なるほど!」
琴子は理由が分かったのか、パンッと手を叩いた。
「戸籍なんてもう関係ないし! 今日からキィの本名は希望よ!」
全く同じ意見を出した琴子の言葉に、私は何度も頷く。
向こうの世界で何があったとか、どうだったかとか、もはやこちらの世界では関係ない。否、関係なくはないか、私という存在を作り上げた世界ではあるから。
でも、身分証明書なんて言うものは通用しないのだ。嘘を言ったとしても、それを証明する方法もない。
キィの名前が何であろうと、それすらもう調べようがないものなのだから。
「……あ……」
呆れから驚きに、そして希望に満ちた表情へと。キィの瞳に光が宿ったように見えた。
「幼いキィでも頑張っている。それは私達にとっての希望よ」
琴子が優しく、まるで母親のようにキィへと語り掛ける。
「そうだな! 知らない世界でも努力して実力を身に着ける! それは希望だ!」
ウィルも便乗するように、握りこぶしをして力強くキィへと叫ぶ。
「……生きている事が希望ですよ。どんな困難も乗り越えて……生きていてくれたからこそ、こうして出会えているのですから」
枢機卿の言葉に、キィは更に涙を流しながら、嬉しそうに微笑み、小さく「ありがとう」と口にした。
ここから始まる。
ここから始めれば良い。
小林希生という名前を捨てて、小林希望として。
「ほら、少しは目を冷やさないと、明日腫れるわよ」
「え……」
小言の多い母親のように、琴子はキィの瞼へと手を近づけて神力を流し込んだ。
あれだけ泣いていたのだから、放っておいたら瞼がパンパンに腫れあがっていただろうなぁとは確かに思う。
そんな和やかな空気が部屋に満ちていたのだけれど、それを壊すような慌ただしい足音が部屋に向かってきた。
「枢機卿! 枢機卿!! 大変です!!」
「何事だ、想像しい。キィ様のお部屋だぞ」
ノックもなく、ドアを破るような勢いで転がり入って来た神官は、汗をぬぐう事もなく枢機卿へと一目散に駆け寄った。
枢機卿は厳しい口調で注意をするけれど、一体何があったと、キィから離れると神官の前へと立った。
「り……隣国が……隣国が攻めてきました!!」
「は?」
「え?」
攻めて来た。なんて馴染みのない言葉だけれど、それが意味するものなんて一つだ。
私達の国で、私達の世代では経験した事のない……戦争だ。
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