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42.リアレス
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「オスティ侯爵令息。どうした」
リアレスが向かったのは、この国の王太子であるダリス・ヴィ・アルヴァンの元だった。襟足まである紫の髪は第二王子であるディアスと同じだが、瞳の色は美しい緑の色だ。
今年十八になるというのに、未だ婚約者の1人も居ない。それは、ダリスの過去に色々あったからなのだが……。
「申し訳ございません。王太子殿下。私では誰1人として止める事が出来ませんでした。ファルス嬢を始めとし、誰1人反省しておりません」
跪き、頭を下げて懺悔のように報告したリアレスの言葉に、ダリスは思わず頭を抱えそうになっていた。
「……何が悪いのか理解していないのか」
「その通りです」
リアレスの即答に、とうとうダリスも項垂れてしまった。王族や、その側近である貴族令息に限ってそんな事あるのかと。それなりの教育を受けている筈だろうと、思わず現実から目をそむけたくなっていた。
「……もっと早く助けてやれなくて済まなかったな」
「いえ……自分の力量というものを知れましたので……。」
リアレスは聖職者だ。つまり結界を張る事に長けてはいるが、言い換えれば、それ以外出来ないのだ。第二王子の側近ともなれば、優秀な者ばかりが集まる中で、悔しさや、どうして自分が選ばれたのかという悲しさがあった。
しかし選ばれた以上はと頑張っていたし、リディア嬢とディアス殿下が必要以上に近寄れば諫める事も多々あった。けれど、皆の目は冷たいもので、お前1人では何も出来ないくせにと、話をマトモに聞いてはくれなかった。
そんな自分にリディア嬢は立派です、なんて言っていたけれど、何かがおかしいと思っていた。うまく言葉に出来ないけれど、全て上辺だけのような。だけど全部見透かされているような。
結局、止められないのは自分の責任でもあるし、1人だけ第二王子を裏切るという事も出来ず迎えた卒業パーティでは、自分が知らされていなかった断罪劇が始まった。
既に、自分が仲間の枠から外れている事に気が付いた時には、全てが遅すぎたのだ。
「……処分は軽いものになるよう言っておこう」
「いえ、これも全て自分の責任ですので」
謹慎処分となって初めて、王太子殿下に声をかけられた。そこで王太子殿下に助言を貰いつつ、リディの教育等を含めて観察し、時に暴走を止めようとしていたのだが……何も変わる事はなかった。
――どうして、あの令嬢に皆が心惹かれたのか。
そんな事を思っていると、バタバタと騒がしい足音が聞こえた。
「王太子殿下!ファルス令嬢が……!」
「なんだと!?」
きっと、もうどうする事も出来ない場所まで来てしまったんだ。
リアレスは、そう思うと、肩の荷が下りたような気になった。もうここまで来てしまえば、側近という肩書も、家名も、全て諦めてしまえる。
疲弊しきった心が、しがみ付いていたもの全てを諦めた事で、少し軽くなったような気がした。
リアレスが向かったのは、この国の王太子であるダリス・ヴィ・アルヴァンの元だった。襟足まである紫の髪は第二王子であるディアスと同じだが、瞳の色は美しい緑の色だ。
今年十八になるというのに、未だ婚約者の1人も居ない。それは、ダリスの過去に色々あったからなのだが……。
「申し訳ございません。王太子殿下。私では誰1人として止める事が出来ませんでした。ファルス嬢を始めとし、誰1人反省しておりません」
跪き、頭を下げて懺悔のように報告したリアレスの言葉に、ダリスは思わず頭を抱えそうになっていた。
「……何が悪いのか理解していないのか」
「その通りです」
リアレスの即答に、とうとうダリスも項垂れてしまった。王族や、その側近である貴族令息に限ってそんな事あるのかと。それなりの教育を受けている筈だろうと、思わず現実から目をそむけたくなっていた。
「……もっと早く助けてやれなくて済まなかったな」
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そんな自分にリディア嬢は立派です、なんて言っていたけれど、何かがおかしいと思っていた。うまく言葉に出来ないけれど、全て上辺だけのような。だけど全部見透かされているような。
結局、止められないのは自分の責任でもあるし、1人だけ第二王子を裏切るという事も出来ず迎えた卒業パーティでは、自分が知らされていなかった断罪劇が始まった。
既に、自分が仲間の枠から外れている事に気が付いた時には、全てが遅すぎたのだ。
「……処分は軽いものになるよう言っておこう」
「いえ、これも全て自分の責任ですので」
謹慎処分となって初めて、王太子殿下に声をかけられた。そこで王太子殿下に助言を貰いつつ、リディの教育等を含めて観察し、時に暴走を止めようとしていたのだが……何も変わる事はなかった。
――どうして、あの令嬢に皆が心惹かれたのか。
そんな事を思っていると、バタバタと騒がしい足音が聞こえた。
「王太子殿下!ファルス令嬢が……!」
「なんだと!?」
きっと、もうどうする事も出来ない場所まで来てしまったんだ。
リアレスは、そう思うと、肩の荷が下りたような気になった。もうここまで来てしまえば、側近という肩書も、家名も、全て諦めてしまえる。
疲弊しきった心が、しがみ付いていたもの全てを諦めた事で、少し軽くなったような気がした。
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