【完結】婚約破棄された悪役令嬢は攻略対象のもふもふ従者に溺愛されます

かずきりり

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88.そして

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「まさか、数年でこんな光景を見られる事になるとは思わなかったわ」
「そうだね」
「聖獣様々ね」
「……」

 王都全部が見渡せる高台で、私はフィンに嫌味を込めた言葉を吐くが、フィンはそっぽ向いてスルーした。
 眼下に広がる王都には、人間と獣人が笑い合い、手を取り合いながら暮らしている。そこに隷属の契約なんて存在せずに。そして魔獣とも戯れていて、完全に今までの固定観念を外し、種族の枠を超えた生活。

 ――昔のようだな。

 祈りを覚えていた頃、感謝をしていた頃。このように種族を超えて手を取り助け合って生きてきたのだろう。

「魔獣のキッカケは、ある意味でワイバーンと国王陛下のおかげだと思うけど」

 ポツリと呟いた私の言葉に、フィンは吹き出し、ワイバーンは肩をすくめた。
 以前、ワイバーンがサラマンダーを連れてきた時に、何故かサラマンダーと国王陛下の気が合ってしまい、そのまま一緒に暮らしているのだ。……サラマンダーは食べ物が美味しいとご満悦な様子で、互いに楽しい生活を送ってるようだ。

 ――そろそろ行かなくて良いのか!?

 慌てたようにワイバーンが言う。今日は両親に呼ばれて王都に来たのだ。邸へ向かう前に、無意味な差別を打破した風景を見たかったのだ。




 そして邸へ向かった先では……。

「おめでとう~!」
「やっと来たか」

 色とりどりの花が中庭を飾り、ガーデンパーティが開かれている。そこには家族だけでなく仲のいい獣人やお世話になった村の人々、更には国王陛下まで居て……。

「これどうぞ」
「これも!」
「え、何!?」

 メイド達にベールと花束を渡され、むしろ混乱状態にしかない。花束はともかく、ベールって……。

「とうとうシアも嫁に行くのか……」
「もう行ってるようなものでしょ」
「え?!」

 両親の会話に思わず突っ込んでしまう。嫁って……何これ花嫁のつもりなの!?

「皆が気兼ねなく参加出来るならって事で、簡易なものだけど……式なんて所詮、形だけのものだし」

 そう言って、フィンが私の前に跪いて手を差し伸べた。確かに前世でも紙切れ一枚で夫婦になり、祝いの場という形で結婚式が設けられる。

「これからも一緒に居てくれる?」

 フィンらしい言葉だと思う。形とか、そういうのでなく、ただ一緒に居るか。心の繋がりは目に見えないもので、目に見える形で安心を得ている。
 人間だからこその形で、犬であったフィンとしては、問いかける事もなく側に居るだけだろう……そう考えたら、今までもずっとそうだった気がするけれど……それが変わるとは思えない。そして変わって欲しくないと願う。

「前世から今世……そして来世でも」

 返した言葉にフィンは嬉しそうな表情を浮かべ私を抱き上げた。
 今まで変わらなかった絆、きっとこれからも変わらない。
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