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大かいじゅうくん、雲を見る
しおりを挟む広い広い広い海のまんまんなかに小さな小さな島ひとつ。
島とは言っても草も生えないただの岩のかたまりです。
大かいじゅうくんはその岩島に住んでいます。
他には誰もいません。
大かいじゅうくんはでっかい体と太くて長ぁいしっぽを持っています。
そんな大かいじゅうくんにとって小さな小さな島はとってもきゅうくつ。
なにしろ島の左の端から三歩歩いたら右の端に到着してしまうのですから。
散歩にもなりゃしない。
大かいじゅうくんは泳げません。
だから海を渡って他の大きな島に移り住むのは無理でした。
それに卵のころからそこにいたので島に対する愛着もあります。
大かいじゅうくんにとって小さな小さな島は不便だけど愛しい我が家。
大かいじゅうくんはオオサンショウウオのような丸い大きな頭の持ち主です。
がっしりした二本の足で立ち、洋梨のような体型をしています。
恐竜みたいなしっぽは強いはかい力を持ち、怒ると口から火をふきます。
大かいじゅうくんが人の住む町へやって来て暴れたら、その町はきっと滅んでしまうことでしょう。
大かいじゅうくんは孤独です。
流れつく果実を食べながら何百年も小さな小さな島に一人でいます。
親の顔も知りません。
ある日のこと、大かいじゅうくんはあおむけに転んでしまいました。
うつぶせに転んだことはありますが、あおむけに転んだのは初めてです。
太くて長ぁいしっぽが支えになって、後ろに倒れることがなかったからです。
ところがその日はどうしたはずみか、しっぽが股をくぐってするりと前に出てしまい、そのいきおいでひっくり返ってしまったのです。
大かいじゅうくんの目は顔の両横についていて、目の上にはひさしのようにトゲトゲが突き出ています。
そして頭が重いのでいつもうなだれた格好で立っていました。
だから、だから、大かいじゅうくんはその日初めて空を見たのです。
大かいじゅうくんは目を丸くして頭の上にあった世界に見入ってしまいました。
広い広い広い青い世界。
島のまわりの海に似ていますが波立ってはいません。
何より違うのは、白いふわふわしたものがぽかりぽかりと浮かんでいること。
大かいじゅうくんは雲を見るのも初めてでした。
雲は大きいのも小さいのもあり、ゆっくりと動いていきます。
見ていると少しずつ形が変わっていくようです。
ふしぎだなぁ。あれはいったい何だろう。
「おおい。おおい」
大かいじゅうくんはすぐ上の雲にむかって大声で呼びかけました。
「なんだい? 呼んだかい?」
雲が答えます。
「きみは誰だい? どこへ行くんだい?」
「ぼくは雲さ。どこへ行くかは風と相談」
「どこへでも行けるのかい?」
「風さえふけば地球上のどこへだって行けるさ」
「いいなぁ。うらやましいなぁ。ぼくはどこへも行けないんだ」
「そうかい。あいにくだったね」
「ねぇ、よかったらここに来ないかい? ゆっくり話をしたいんだ」
「行ってもいいのかい?」
「うん。招待するよ」
「みんなで行ってもいいのかい?」
「うん。にぎやかな方がいいね」
「わかった」
大かいじゅうくんは、雲はどうやっておりてくるのかなと見ていました。
すると今しがた話していたその雲に向かって、四方から風がびゅうびゅう吹きつけはじめました。
まわりにいたたくさんの雲たちがみんな、風に乗って大かいじゅうくんの真上の雲の方へと寄ってきます。
集まってくる、集まってくる、とあおむけのまま大かいじゅうくんはワクワクしました。
驚いたことに集まってきた雲たちはどんどんどんどん合体し、大きな一つの雲になっていきます。
うわあ、すごいなぁ、と大かいじゅうくんは感心しました。
でもあんなに大きいと島に乗りきらないぞ、と心配にもなりました。
そのうち雲の色が変わってきました。
灰色になり、そしてやがて真っ黒に。
気づいた時には、青かった頭の上の世界そのものが薄暗く変貌していました。
とつぜん、雨が降ってきました。
お客様が来る予定なのに雨だなんて困ったなぁ、と大かいじゅうくんは思いました。
しかもだんだん雨足は強くなります。
しまいにとんでもない大豪雨になりました。
あおむけのまま動けない大かいじゅうくんは落ちてくる強い雨にびしびしびしびし打たれます。
腕が短いので起き上がれなかったのです。
早く雨なんかやんで、雲くん来てくれないかなぁ。
息もしづらいほどの量の大雨に正面から打ちすえられながら、大かいじゅうくんはふわふわの雲くんとの楽しい語らいを想像していました。
びしびしびしびしびしびしびしびし。
自分と地面を打つ雨音の中に、何やら声がまぎれているような気がしました。
びしびしびしびしびしびし来たよびしびしびしびし来たよびしびしびし。
大かいじゅうくんは集中して耳をすませました。
今度ははっきり聞き取れます。
来たよ来たよ来たよ来たよ来たよ来たよ来たよ来たよ。
大かいじゅうくんは何か言おうとしましたが、口を開くと中に大量の雨が流れ込んできて言葉が出ません。
自分を取り巻く謎の声に包まれながら、ただ雨に体を冷やしていくだけです。
来たよ来たよ来たよ来たよ来たよ来たよ来たよ来たよ来たよ来たよ。
来たよ来たよ来たよ来たよ来たよ来たよ来たよ来たよ来たよ来たよ。
声は大きくなったり小さくなったり、遠くなったり近くなったり、エコーがかかったように無数にこだましながらえんえんと同じ言葉を繰り返しています。
雨はいつまでも降りつづき、小さな小さな島の上には雨水が渦巻き、川のような激しい流れが起こりました。
そうして大かいじゅうくんは押し流され、海に落ちておぼれてしまったのでした。
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