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大かいじゅうくん、闇を行く
しおりを挟む大かいじゅうくんは海中深く沈み、ゆうらゆうらと漂っています。
泳げはしないけれど水の中でも呼吸はできます。おぼれているうちにそれに気がつきました。
大かいじゅうくんはアゴの付け根にエラを持っていたのでした。
ゆるやかな海流が大かいじゅうくんを運んでいきます。
遠くへ、遠くへ。
長年住み慣れた島から遠くへ。
深海はとても暗い。
真っ暗な闇の世界。
たまに小さな光るものを目にすることはあります。
それが何なのか大かいじゅうくんには分かりません。
それらは発光する生物か、浄土へ向かう死んだ生物のたましいです。
大かいじゅうくんは冷たい水につつまれて長い長い時を過ごしました。
長ぁい時間をかけて移動していました。
海の中をゆっくりゆっくりと進む。
深層の海の流れはとてものんびりとしたもので、かたつむりが進む速さの半分の速度しかありません。
それでもそれはまさに大かいじゅうくんがずっと憧れていた旅です。大かいじゅうくんは世界を旅しているのです。
ただ、くる日もくる日も視界に入ってくるのは何も見えない闇だけ。
いつまで経っても同じ無の景色。
これでは孤島にいた時と何も変わりはしません。いや、むしろダメ度が上がっています。
何もできないこの長い時間を大かいじゅうくんは持て余しました。
せめて頭の中で楽しい思い出にでも浸れれば良かったのですが、島での長い生活も特に何もなかった大かいじゅうくんです。
結局、あの島での空虚な数百年を記憶の中で反復しながら海中での数百年を過ごしました。
ある時、大かいじゅうくんは身震いしました。
冷たい水の中で、ついに大きな体が冷えきってしまったのです。
大かいじゅうくんは深い海の中でくしゃみをしました。
ハァァックショォーーーン!!
でっかいくしゃみをした勢いで、思いがけず大かいじゅうくんの口から炎が吹き出しました。
大かいじゅうくんの炎は不思議と水の中でも普通に存在していました。
それでわずかな間だけ、あたりを照らしだすことができたのです。
その時、大かいじゅうくんが目にした光景。
その様に大かいじゅうくんは心奪われました。
眼下の海底には動物だか植物だか分からないフニャフニャした生き物が、にょきにょき生えて揺らいでいます。
そして、その周囲には、グニャグニャしてたりカチカチしてたり、てんで奇妙な生物達が無数にうごめいていました。その形はどれも自由奔放で、ながめているだけで楽しくなります。
さらには泳ぐ魚や骨なし達。色んな魚が意外とたくさん周りにいることを大かいじゅうくんは知りました。
魚や骨なしは光っていたり、赤かったり、透明だったり、とても綺麗です。
大かいじゅうくんは彼らが舞い踊る様子に魅入られます。
わあ、素敵だなあ。美しいなあ。にぎやかだなあ。
炎は消え、闇が戻ってきました。
華やかな夢の世界から暗い闇へ引き戻された大かいじゅうくん。
まるでマッチ売りの少女みたいです。
大かいじゅうくんは、あんなにいっぱい色んな生物が身近にいるのなら話しかけてみようと思い立ちました。
もしかしたら誰かが答えてくれるかもしれない。
「ねぇ、君たち。ちょっと話し相手になってくれないかな?」
大かいじゅうくんは大声で言って、反応を待ちました。
でも、誰も答えてはくれません。
「ねぇ、君たち、聞こえてる? 話し相手になってよ」
こんな調子で数百回繰り返しましたが、いっさい返事はありませんでした。
それでも大かいじゅうくんはへこたれません。
「ねぇ、誰か一人でもいい。一言だけでも答えてよ」
「「うるさいぞ。黙れえええっっ!!」」
闇の奥から凄まじく荘厳な声が轟き渡りました。
大かいじゅうくんの何千倍も大きな声。
海流が乱れるほどの揺らぎを伴う、重く堅固な大音声。
その声は大かいじゅうくんの体をビリビリと痺れさせます。
大かいじゅうくんは押し黙りました。
大かいじゅうくんは恐怖に打ち震えています。
こんな気持ちは始めてです。
闇の中にいるのが恐いと思い始めました。
だから、炎を吐きます。
一度海中で炎を吐いたので、何となくコツはつかめていました。
もう大かいじゅうくんは地上にいた時と同じように炎を吐けます。
大かいじゅうくんは絶え間なく炎を吐き続けました。
炎で周りをほんのり照らし、浮かび上がる楽しい景観を見て心を落ち着かせます。
「馬鹿ねぇ。うふふ」
そうつぶやいて、ひらめく赤い布をまとった生っ白い小さな肉のかたまりが目の端をよぎっていきました。
大かいじゅうくんは布なんて知りませんから、全部合わせて一つのそういう形の生き物だと思いました。
ようやく話しかけられたのかも知れませんが、大かいじゅうくんは答えることができません。
ただ、ひたすら炎を吐き続けました。
大かいじゅうくんが漂う深層の海の遥かずっと上。
その海面にはたくさんの船が浮かんでいました。
そこは人間達の漁場になっているのです。
漁師達は首をかしげました。
こんがり焼けた深海魚が大量に水揚げされるようになったからです。
まったく不可解な現象です。
食べてみると美味しかったので、普通に売ることにしました。
生鮮焼き魚として市場に卸しました。
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