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キメラチームの帰還
第15話
しおりを挟むある夜のことです。
来店した馴染みのお客さんが、入ってくるなり暗い顔でドムさんに言いました。
「キメラチームの連中が帰ってくるようだ」
ドムさんが無言で表情を強張らせます。
数人の先客が騒いでいた店内は、急にしんと静まり返る。
独楽のようにくるくる回っていたキントンさんも片足立ちのままピタリと止まりました。
「・・・・・・そうか」
ようやく搾り出されたドムさんの返事。
「今回の出稼ぎは長かったがな。やっぱり戻ってきやがるんだな」
諦めたように言葉を繋ぎます。
「ああ。ペナンの村でキメラが暴れてやがんのを巡礼が見たってよ。今日仕事してきた町で聞いた」
「確かにペナンなら帰途のルートだな」
「ペナンからここまで、途中にある町や村で稼ぎながら帰るんだろうから、到着は2、3日後か?」
「そんなとこだろう。まったく憂鬱なこったなぁ」
居合わせた人達がひそひそと語り合っています。
僕は側にいたルナシーの耳元に口を寄せて尋ねました。
「ねぇ、キメラチームって何?」
さっきまでの笑顔を失ったルナシーがか細い声で答えてくれます。
「盗賊団だよぅ。人殺しも平気な奴ら。この街で結成されて、他の裕福な町や村に出向いては荒らし回ってるの。噂を聞きつけて更に各地の荒くれ者が集まって、どんどん人が増えてるよぉ」
その言葉を受け継ぎ、ドムさんが僕に向かって言います。
「そういうことだ。連中が遠方まで出稼ぎに行っている間はこの街は平和だ。だが、戻ってきたらそうはいかねぇ」
「でっ、でも、貧乏なこの街で盗賊を働くわけじゃないですよね?」
僕は思ったことをそのまま口にしました。
「そりゃそうだ。誰も価値のある物なんて持っちゃいないからな」
ドムさんは苦笑いします。
「ただな、連中はひっそりと貧乏に耐えて生きるこの街の住民が大嫌ぇなんだよ。何かと難癖つけて理不尽な暴力を振るいやがる」
「そんな……」
「とにかく連中に目を付けられないようにしねぇとな」
領内でそんな盗賊団が暴れているなんて僕は初めて知りました。
「王宮の治安隊は? 知らせないと」
「そんなもん役に立つかよ。荒らされてる町だって自警団で対処してんだ。いつも蹴散らされてるがな」
「治安隊が役に立たないなんて、そんな馬鹿な……」
僕はドムさんの言葉が信じられずに、つい食い下がってしまいました。
かつて武勇の誉れも高かった父と共に、凶暴な害竜駆除や賊徒討伐に大活躍していた頼もしい治安隊の勇姿を思い出していたのです。
隊長さんにはよく肩車をしてもらった。「怪獣だ! ゆけ隊長号」と命じると、隊長さんはウォーと叫んで僕を乗せたまま走り出す。それがお約束。
「お前の国じゃどうだったか知らねぇけどよ!」
ドムさんは声を荒げました。
「いや、この国も先王様の頃はちゃんとしてたんだが……」
「い、今は?」
「領民から税を取り立てるのが治安隊の唯一のお仕事になってやがるのさ」
「……え?」
「税の未払いは、国の治安を乱す、反逆に等しい行為だそうだ」
この時僕は、国がどうなっているのかを教えられました。
税は父の頃の三倍となり、領民達は苦しみに喘いでいること。
重税の取り立ては厳しく容赦なく、払えなければ過酷な賦役に徴集されたり家族を連れて行かれたりしていること。連行されるのは女性で、おそらく他国に奴隷として売られているだろうと。
賦役を課せられると体を壊すことも多く、そうでなくとも自分の仕事をする時間がなくなって収入が減り、更に重税に耐えられなくなる悪循環。
そうして一家離散や心中、餓死という痛ましい運命を辿った領民が山ほどいるというのです。
そんな状態なので、国からも見捨てられたこの街に流れてくる人達が年々増えているとも。
そもそもこの貧民街、元々は大疫禍で住民が激減して生存者も去ってしまった王都の隅の小さなゴーストタウン。その放棄されていた廃墟に行き場のない人々が集まって自然と形作られてきた街なのだそうです。
王都だけは国の富が集められて栄えており、故にその周辺地域もまださほど深刻な状況にはないのだと知りました。ですので僕も国の荒廃に気付かずにいた。
僕にはキメラチームの件よりもその事実の方が余程ショックでした。
僕という先王の影を排除し、将来に渡る権力を揺るぎないものとした女王。彼女はもはや誰憚ることなく存分に自分の欲望をあらわにし、本格的な苛政を敷いているんだ。
領内に蔓延する深刻な貧困、飢餓。父の代にはなかったことです。
僕は更に詳しく質問し、以前の見知った治安隊員達は徴税の仕事に異議を唱えて全員解雇されていたことも知りました。
女王の人選で新たに結成された治安隊は、冷酷非情な者ばかりが集まっているといいます。
僕が幽閉されていた4年の間に、国は様変わりしていたのです。
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