1 / 28
プロローグ
しおりを挟むその大きな城の中では多くの使用人達が働いていた。
一帯を治める領主であるガイデン伯爵の城だ。
武勇に優れた壮年の伯爵は厳つい大男であるが、弱者には優しい。
城内で行き会う住み込みの使用人達にも気軽に労いの言葉を掛ける。
特に若く可愛い娘に対しては、まるで口説いているかのような褒め方をする。
でもそれは伯爵流の気遣いでしかなく、別に深い意味はない。
だが、そんな甘い褒め言葉を賜るのを娘達は心底恐れていた。
廊下で伯爵に行き会った使用人達は壁際に控えて道を空け、深々とお辞儀をした。
その中にいた赤毛の娘に伯爵は声を掛けた。
「君のその長い髪は燃え上がる炎のように赤く美しいね」
「ありがとうございます。伯爵様」
答える娘の笑顔はしかし、引き攣っていた。
伯爵に讃えられた娘の心は皆一様に絶望の淵へと沈む。
その伯爵の言葉は最悪の恐怖をもたらす。
その晩のこと。
赤毛の娘は美しい髪を頭皮ごと全て毟り取られ、城を追い出されてしまった。
奪われた髪は焼かれ、乱舞する炎となった。
極めて極めて嫉妬深い伯爵夫人の差し金によるものだ。
使用人達の中には伯爵夫人の子飼いのスパイが何人も紛れ込んでいる。
伯爵の称賛を受けた若い娘を伯爵夫人は決して許さない。
赤毛の娘はむしろまだマシな方だった。
「頑張ってるね。ほう、君の笑顔から覗く歯は白く輝き、まるで宝石のようだよ」
食事を運んできた娘に伯爵はそう言って微笑みを向けた。
娘はペンチで歯を全て引き抜かれ、娼館に売られた。
白い歯は真珠と混ぜてネックレスにされ、しばらく伯爵夫人の首を飾った。
「ご苦労様。おやっ、君のその小さな唇。全くもって可憐な花のようだ」
伯爵が洗濯物を干していた使用人の娘に甘い賛美を送る。
娘は両頬を切り裂かれて大きな口にされ、自分の村へ帰された。
上下の唇には幾つもの切り込みを入れられ、捲くり上げられている。それがまるで満開の赤い花のように見えた。
「やあ、君はなんて愛らしくつぶらな瞳をしているんだ。値千金。見つめられると吸い込まれてしまいそうだよ」
床を掃いていた娘はそう伯爵に言われ、箒を放り出して平伏した。
伏せた顔は声を押し殺して泣いていた。
娘は二つの眼球を吸引ポンプで吸い出され、貧民窟に捨てられた。
今は気が触れ、春をひさいで得た僅かな小銭を瞼の奥の空洞に貯めて生きている。
伯爵が感嘆した美しい指を全てねじり切られた娘。
つい口ずさんだ鼻唄を褒めそやされ、無惨に喉を潰された娘。
伯爵夫人の所業を誰も伯爵に訴え出る事は出来ない。
そんな事をすれば里に住む自分の家族に難が及ぶだろう。
伯爵夫人のことだ、どれだけ恐ろしい報復をすることか。
そもそも伯爵は夫人によって魅了の魔法をかけられていて、何事も彼女の話を第一に信じる。どんなデタラメを吹き込まれてもだ。
どうにもならない。
伯爵は遠征の戦や王都への召喚で城を離れる事も多い。
そんな時は伯爵夫人の恐怖の支配は領地の町や村にも及んだ。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー
白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。
その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。
人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。
異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ
主人公はあまり戦ったりはしません。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる