何の能力も与えられずに異世界転移してしまった小娘ですけど、残忍な伯爵夫人だけは絶対に許せないので成敗させて頂きます

牧神堂

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プロローグ

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 その大きな城の中では多くの使用人達が働いていた。
 一帯を治める領主であるガイデン伯爵の城だ。
 武勇に優れた壮年の伯爵は厳つい大男であるが、弱者には優しい。
 城内で行き会う住み込みの使用人達にも気軽に労いの言葉を掛ける。
 特に若く可愛い娘に対しては、まるで口説いているかのような褒め方をする。
 でもそれは伯爵流の気遣いでしかなく、別に深い意味はない。
 だが、そんな甘い褒め言葉をたまわるのを娘達は心底恐れていた。



 廊下で伯爵に行き会った使用人達は壁際に控えて道を空け、深々とお辞儀をした。
 その中にいた赤毛の娘に伯爵は声を掛けた。

「君のその長い髪は燃え上がる炎のように赤く美しいね」

「ありがとうございます。伯爵様」

 答える娘の笑顔はしかし、引き攣っていた。
 伯爵に讃えられた娘の心は皆一様に絶望の淵へと沈む。
 その伯爵の言葉は最悪の恐怖をもたらす。

 その晩のこと。
 赤毛の娘は美しい髪を頭皮ごと全てむしり取られ、城を追い出されてしまった。
 奪われた髪は焼かれ、乱舞する炎となった。
 極めて極めて嫉妬深い伯爵夫人の差し金によるものだ。



 使用人達の中には伯爵夫人の子飼いのスパイが何人も紛れ込んでいる。
 伯爵の称賛を受けた若い娘を伯爵夫人は決して許さない。
 赤毛の娘はむしろまだマシな方だった。



「頑張ってるね。ほう、君の笑顔から覗く歯は白く輝き、まるで宝石のようだよ」
 食事を運んできた娘に伯爵はそう言って微笑みを向けた。

 娘はペンチで歯を全て引き抜かれ、娼館に売られた。
 白い歯は真珠と混ぜてネックレスにされ、しばらく伯爵夫人の首を飾った。



「ご苦労様。おやっ、君のその小さな唇。全くもって可憐な花のようだ」
 伯爵が洗濯物を干していた使用人の娘に甘い賛美を送る。

 娘は両頬を切り裂かれて大きな口にされ、自分の村へ帰された。
 上下の唇には幾つもの切り込みを入れられ、捲くり上げられている。それがまるで満開の赤い花のように見えた。



「やあ、君はなんて愛らしくつぶらな瞳をしているんだ。値千金。見つめられると吸い込まれてしまいそうだよ」
 床を掃いていた娘はそう伯爵に言われ、箒を放り出して平伏した。
 伏せた顔は声を押し殺して泣いていた。

 娘は二つの眼球を吸引ポンプで吸い出され、貧民窟に捨てられた。
 今は気が触れ、春をひさいで得た僅かな小銭を瞼の奥の空洞に貯めて生きている。


 伯爵が感嘆した美しい指を全てねじり切られた娘。
 つい口ずさんだ鼻唄を褒めそやされ、無惨に喉を潰された娘。



 伯爵夫人の所業を誰も伯爵に訴え出る事は出来ない。
 そんな事をすれば里に住む自分の家族に難が及ぶだろう。
 伯爵夫人のことだ、どれだけ恐ろしい報復をすることか。
 そもそも伯爵は夫人によって魅了の魔法をかけられていて、何事も彼女の話を第一に信じる。どんなデタラメを吹き込まれてもだ。
 どうにもならない。


 伯爵は遠征のいくさや王都への召喚で城を離れる事も多い。
 そんな時は伯爵夫人の恐怖の支配は領地の町や村にも及んだ。


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