何の能力も与えられずに異世界転移してしまった小娘ですけど、残忍な伯爵夫人だけは絶対に許せないので成敗させて頂きます

牧神堂

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第一章

1話 あたしは異世界転移した。何ここ怖い

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 異世界転移ってやつが、あんな風に日常の中で突然さりげなく起こるものだとは夢にも思わなかった。
 あたしの場合、土手でうつ伏せにすっ転んで、起き上がったらそこはもう異世界だったんだもん。

 最初は何が起こったのか訳が分からずパニくった。当然よね。
 夢なら目覚めろと自分を拳で殴った。痛いだけで無駄な足掻き。
 もう一度転び直せば元に戻ってるんじゃないかと試してみる。やっぱり痛いだけの骨折り損。派手に転び過ぎてマジ折るかと思った。

 そうやってジタバタした後、諦めて自分なりに状況を咀嚼そしゃくする。
 何とか運命を受け入れるまでに二日かかってしまった。
 これはもう自然災害による事故に遭ったと諦めるしかないのだ。
 神隠しってこんな感じなのかな。

 ところで異世界転移したなら何か凄い能力の一つくらい貰えるのが筋だろうと思うんだけど、現実は厳しい。
 だって誰かに召喚された訳でもないし、使命を与えられて来たんでもない。
 あくまでもただの自然現象による異世界転移。そう解釈するしかない成り行きだもの。えらく不自然な自然現象だけどね。

 つまり、あたしはあたしのまま。自分自身は転移前と何も変わんない。
 ちょっと期待して異能力ないかって色々試してはみたよ。けど全部徒労に終わったし。そんなだから、まずどうやってこの世界で一人生きていくかが大問題となる。




 当然ながら身一つの転移だった。
 幸い持っていた物、身につけていた物は全て一緒に異世界へ持ち込めた。
 これはホント助かった。

 あ、因みに転んで起き上がったあたしが居たのは鬱蒼と木々繁る森の中だった。
 その一瞬前まで周りに立ち並んでいた建物は跡形もなし。河もなし。

 だからと言って、すぐにここが異世界だと思った訳じゃない。
 転んだ拍子に気を失って時間感覚が混乱してるんじゃないかという仮説も立てた。
 で、失神中に何者かに拉致され森に連れて来られて捨てられた、とか。
 これはこれで、あるか、そんなん? って話だけど。

 思案していると奇妙な小鳥が飛んできて木の枝にとまった。
 蟹みたいに目玉が突き出し、尻尾がトカゲみたいな奴。ケケケと鳴きながら目玉を引っ込ませ、またにゅうと出す。
 そんな生物、あたしの世界にはいない。

 更に虫。鳥に驚いて腰を抜かし、尻餅ついたあたしの手に地面を這う何かが触れた。見るとバナナ大のぬめぬめした芋虫っぽい生き物。そいつが体を七色に光らせてサイレンのような音を発した。威嚇したんだと思う。
 さすがに悲鳴を上げた。

 その後も幾つか奇天烈きてれつな生物を目にして、ここは異世界ではないのかと疑い始めたあたし。
 つか絶対異世界だろ。もうそう考えるしかない。
 他にこの状況の説明がつかず、あたしは決めつけた。ここ異世界。
 不安でめちゃくちゃ泣いた。
 ショートボブの頭を掻きむしって地面をゴロンゴロンした。
 恥ずかしい。


 少し落ち着くと、取り敢えず背負っていたデカいリュックの中身をチェックした。

 まずスマホ・・・やっぱ電話やネットには繋がらない。
 モバイルバッテリーはあるのでオフラインゲームなんかはできそう。
 それから財布、筆記具、文具、マーカー、歯磨きセット、ブラシ、コスメ、爪切り、香水、アクセサリー、タトゥーシール、カラーコンタクト、ウイッグ、手鏡、印鑑、トイレットペーパー、割り箸、紙コップ、ちょっとした工具、お気に入りの漫画と文庫本、生理用品、救急セットに体温計など医療機器、マスク、各種お薬・・・風邪薬に鎮痛薬、向精神薬とかね。
 はい、あたし微妙に心が不安定な人間ですともさ。
 でもって、ローターとバイブ、媚薬。えと、一人で愉しむ為のラブグッズです! あたしにとっては必需品です!
 更に何となく集めてるガチャガチャ。河原で一人遊びしようと思ってた花火セット。トランプにタロットカード。サングラス。殺虫剤。イヤホン。交通安全グッズのLEDアームバンドや蓄光テープ。
 護身用の防犯グッズ各種。レーザーポインターに護身棒、催涙スプレー、スタンガン、防犯ブザー、サイリュームペイント、カラーボールとてんこ盛り。この辺はやたら充実。
 それに寝袋、アイマスク、耳栓、折り畳み傘、雨合羽、ハイパワー懐中電灯、電池、ライター、お裁縫の道具、接着剤、テープ、ハサミ、カッター、十徳ナイフ、石鹸にシャンプー、芳香剤、ビニール袋、安全ピン、輪ゴム、お守り、お香。趣味のビーズアクセサリー作りに必要なテグス、ピン、目打ち、ピンセットなんかもある。
 あとその他日用品とお菓子や保存食。香辛料やチューブ調味料、サプリメント諸々。そして着替えのTシャツと下着、靴下・ストッキング、趣味的な衣類。

 真夏だったからね。格好は白い半袖Tシャツとデニムにスニーカーだったんだけど、こちらの季節は秋っぽくて肌寒かった。


 ん? 持ち歩いてる物が意味不明すぎる?
 あー、それがね、実はあたし、ホームレスしてたんだ。
 名前は千路流ちじる魅散みちる。二十歳。O型。うお座。
 女一人、リュックの中に生活に必要な物全部詰め込んで放浪してた。
 さすらい始める前にめっちゃ働いて、何とか貯めたお金は多少あったよ。
 でもそれもほぼなくなりかけてて、そのタイミングでの転移。

 そんなワケで野宿には慣れてるし、普通の人は持ち歩かないような物も食料を始めいっぱい持って来れた。
 だから、当面は何とかなると思った。



 二日経ち、あたしは森の外へ出てみる事にした。
 保存食だって限りがあるし、人がいれば生きるすべも見つかるかも知れない。
 そう考え、あたしは歩いて歩いて森の出口を探した。

 それまでに目にしていた自然の光景はあたしの世界とそんなに変わらなかった。木々も、空も、地面も。小川が流れてて水も飲めた。
 虫や鳥や小動物がみんな見たことのない姿をしてただけ。

 うーむ、そもそもここが異世界だなんて誰かに言われた訳じゃない。もしやあたしの勝手な思い込みでは・・・?
 そうそう、リアルに異世界なんかあるかっつーの。
 むしろ謎の組織の秘密研究施設の中ってのはどう?
 バイオテクノロジーで生物の改造を行っているような。
 え? じゃ、あたしも改造される? 異世界とどっちがマシ?
 などと歩きながらまたまた考え始め、頭の中では思考がぐるぐる行ったり来たり。
 そのうち不意に森の外へ出た。急に視界がひらけた。

 森は高台にあって、森の前の広場を端まで行くと一帯を良く見渡せた。
 目の前に広がるのは平原。
 遠くには道路や街路樹、田畝、そして茅葺き屋根風の家々が見える。その造りは人の家として違和感はない。中には屋根の尖んがった少し大きな建物もあり、集落を横断して細い川が流れてる。
 更に遠くには中世ヨーロッパのお城みたいな巨大な建築物がそびえ立っていた。長大な城壁があって、その奥に。たなびく雲を背に夕日に照り映えるその荘厳な佇まいは幻想的で美しい。
 で、それはそれとして・・・。

『やっぱ異世界じゃん・・・』

 そう思った。
 問題は眼前の平原なのだ。
 そこには何かあちこち、地面に無数の大きな杭が打ち込んであって・・・。

 その全ての杭に赤色の塊や汚い何かが突き刺さってた。
 で・・・それはよく見ると裸の人間だったんだ。
 串刺しにされてたの。お尻から口まで杭で貫かれて。
 そんな無惨な死体が数えきれないほど晒されてる。
 さすがにこんな光景は今の地球上では見られないはずだ。
 少なくとも日本には絶対ない。

 風に乗って腐臭が漂ってきた。
 そうか、森の中で時々臭ってきてたのはこれか。

 あたしは思い切り嘔吐した。
 ああ、貴重な保存食が・・・と思いながら。
 
 この異世界、ハズレだろ。めっちゃやばいって。
 うん、もう森の奥でひっそりと生きていくことにしよう。
 森は思ってたよりもかなり広い。そこそこ快適に生活できる場所も見つかるんじゃないか。そういえば木の実とか色々ってたし、多分あれ食べられるに違いない。そういうことにしてくれ。
 そんなわけでもう森から出ないぞ。
 そう決心し、森の入り口へ取って返す。
 再び森の中へ入ろうとした時。

 背後で、何かの気配が動いた。

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