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第一章
2話 チドルちゃんは可愛かった
しおりを挟む振り向いたあたしの目に映ったのは十歳前後っぽい小柄な女の子の姿。
半袖膝上丈のベージュ色した貫頭衣を纏い、その腰を赤い細紐で縛っただけの格好。側面は縫ってある筒型の衣。
生足には灰色の布靴。
肩まで覆う長い髪はブロンドで、豊かにウェーブが掛かっている。
肌は白く、日に焼けまくったあたしとは対照的。
顔はというと西洋人の少女風。ぱっちり大きな蒼い目にあどけない唇・・・・・・何か天使みたーい。あたしらと変わらない人間の姿に心底ホッとした。
「変なかっこした人いる」
女の子は開口一番そう言った。
あたしはその言葉の衝撃にのけ反った。
いや、変なかっこて言われたことにショック受けたわけじゃないよ。
そりゃ向こうから見ればあたしは変なかっこした不審人物でしょうよ。
じゃなくって、普通に言葉が分かったことに驚いた。
ここが人の住む異世界だと確信した時、脳裡を過ぎった不安がある。
仮に人里に向かったとして、住んでる人達とどんな方法でコミュニケーションを取ればよいのか。異世界人の習慣や文化をどう学ぶか。これはもう基本的な大問題。
だから、言葉が理解できるのはチート能力を得たくらい嬉しいのだ!
何で分かるのかなんて疑問はこの事実の前では些細なことに思える。
しかも最初に出会ったのがこんないたいけな女の子なのも幸運すぎる。
どう見たってこの子があたしに害を及ぼせるわけがない。
この子にいきなり組み伏せられたりはしない。はず。
ここは彼女と仲良くなってこの世界の情報を引き出す手だろ。
森に戻るかどうか決めるのはその後でいい。
が、まず確認しておかなきゃならない問題がある。確かにあたしは女の子の言葉が分かったけど、果たしてあたしの言葉は向こうに通じるのかどうか。そこ重要。
「あたしの、言葉分かる?」
あたしはストレートに聞いた。
「分かるよー。外人さん? ちゃんと話せてるよ」
なんと嬉しい答え。
「あー、うん、そう、外人。あたし旅しててね、遠い外国から来たばっかなの」
あたしは女の子の台詞に合わせて適当に吹いた。この異世界にも色んな国があるのは確かなようだ。
「わぁ、そなんだ! 外国の話聞かせてー」
女の子は目を輝かせる。
むふっ、可愛いね、無邪気だね。疑うことを知らない人慣れした子猫みたい。
「いいよー。その代わりあたしにもこの国のこと聞かせてね?」
あたしは屈んで目線の高さを合わせ、満面の笑みを湛えて言ってみた。
「うんっ!」
素直な返事。
簡単に攻略出来た。
それにしても問題なく会話できるのは不思議だけど助かる。助かるけど不思議。
女の子の言葉は日本語でも英語でも、耳にしたことのある他のどんな言語でもない。なのに意味がすっと頭に入ってくる。対してあたしは自分の言語、つまり日本語を話してるつもりなんだ。でもそれが口から出る時、言葉は女の子と同じ現地の言葉になっている。まるで究極の自動翻訳機能が自分の中に出来たみたいに。
知らない言語をスラスラ話せるなんてどういうことだろうね。
ま、考えたって分かりゃしない。
女の子と自己紹介し合った。
あたしの自己紹介は名前以外は虚言に満ちたものだけどね。
知り合った彼女の名前はチドル。
森に木の実を拾いに来たという。手に持つ麻っぽい素材の袋はもうパンパンだ。
遠くに見えた人家の集まりがチドルの住む集落らしい。
木の実拾いを終えてこの森前の広場をぶらぶらしてる時に『変なかっこした』あたしを見かけたというわけだ。
「とりあえずもう暗くなるから帰ろ」
チドルが言う。
一緒に行こうってことだろう。
「え、でも・・・」
あたしは戸惑う。
集落に宿はあるんだろうか。そもそもあたしの財布の中のお金が使えるわけもない。
「夜になると怖い森の獣が出てくるし・・・」
チドルは本当に怖そうに森の方を振り返った。
「玉虫を捕りに来た村の人がね、夜中に襲われてたくさん死んでるんだよ」
何っ、じゃ森に二泊して無事だったのは運が良かっただけなのか・・・。
「でもさ、その人達、何でわざわざ夜中に虫なんか?」
ふと疑問に思ったんで聞いてみた。
「明かりに集まってくるから夜じゃないと捕れないよ」
あー、灯火採集か。しかし、村には昆虫マニアが多いんだろか?
「たくさん死んだって言うけど、何で虫なんか命懸けで捕るのよ?」
つっこんで聞いてみた。
「だって玉虫捕れなかったらお肉食べられなくなるし」
は? 何か主要な食料なの? あたしの思った玉虫と全然違うものかもしんない。
「それより早く行こうよ」
チドルは促す。
「ん、で、でも、あたし家が・・・」
あたしは躊躇う。
「うちに泊まればいいでしょー」
チドルはそうするのが当然のことのように言った。ちょっとじれったそうに。
「えっ、マジ? 親は反対しない?」
「チドルは一人で住んでるからだいじょぶだよ」
ふえっ? こんな女の子が一人暮らしなのかー。
でも悪いけど好都合ではある。
あたしはチドルについて行くことにした。
ゆっくり歩きながらチドルのことを聞く。
両親は流行り病で早くに亡くなり、歳の離れた姉とずっと二人で暮らしていたという。
その姉がお城で使用人として住み込みのお勤めをすることになったのが半年前。お城の使用人は稼ぎが良く、庶民にとっては憧れの職業なんだそうだ。大きなお城なので多くの人が様々な部署で働いているらしい。
あ、時間の流れはあたしの世界とほぼ同じみたい。
一日の過ぎ方が変わらないのはこの二日間で確認したし。
で、お城って、あたしが美しいと思ったあのお城ね。
ここはガイデン伯領ってとこで、お城には領主さんの伯爵夫妻が住んでるんだって。
やっぱどうも封建社会のようだね。
「寂しいね。でもお姉さん、たまには帰ってくるんでしょ?」
あたしは聞いた。
「お姉ちゃんは二か月前に死んじゃったの。お城で事故に遭って・・・」
顔を上げずにそう言ったチドルの横顔は、涙をこらえているように見えた。
「あうっ・・・ごめん、そうなんだ・・・」
この子、これからずっと一人で生きてかなきゃならないのか。
「大きな斧が二つ落ちてきたの」
「斧が??」
チドルが何を言っているのか、最初分からなかった。
「お姉ちゃんが塔の下を歩いてた時、塔の屋上でお仕事してた職人さんが二人、手を滑らせて斧を落としちゃったんだって」
塔の屋上で斧を振るう作業っていったい何だろ。で、二人同時に?
「その斧がお姉ちゃんの胸を二つとも削ぎ落としたんだよ」
感情を押し殺したように淡々とチドルは言う。
「そ、それは・・・・・・お気の毒だったね」
どう言ってあげればいいんだろう。
きっとご遺体は酷い状態だったに違いない。
「お姉ちゃん、綺麗で大きな胸してたから、当たっちゃったんだね」
チドルは無理に笑顔を作って言った。
「チドルみたいに平たいおっぱいだったら当たんなかったのに」
うーん。そんな超レアな事故で亡くなるなんて。
本当に言葉もない。
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