何の能力も与えられずに異世界転移してしまった小娘ですけど、残忍な伯爵夫人だけは絶対に許せないので成敗させて頂きます

牧神堂

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第一章

4話 ノーパンワールド

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 道々チドルからこの世界のことを聞き出した。

 技術・文化レベルに関しては、第一印象通り中世から近世前半のヨーロッパに近いと感じる。ま、もちろん何もかもを聞けるわけじゃないから、確証バイアスかかってる可能性は否定しない。そもそもヨーロッパの中世なんてそれだけで千年あるし、近世の最初まで含めるともっと長い。そして国は多く、民族も文化も多種多様。一つのイメージで語れるもんじゃないんだよね。だから、あたしは自分の限られた知識を尺度に、この世界と中世ヨーロッパを比べてるだけだ。

 国の名は新生ドーマ帝国。長い動乱の後、体制を新たに生まれ変わった国って意味らしい。国体は広範な地域を統べる皇帝がいて、その下で多くの諸侯がそれぞれの領地を統治。ここの伯爵もその一人というわけね。ただどうも皇帝の求心力は衰えているようで、各地で次々と反乱が起こっている様子。悪い隣国とやらもその反乱勢力の一つみたい。

 あと魔女狩りの件で予想はしたけど、案の定ビザ教という巨大な宗教が国全体を精神的に支配してた。その権威は皇帝を上回るようで、ビザ教の教皇こそが実質的な最高権力者と言えそう。
 そのビザ教は一神教で、身分の貴賎に関わらず国内の人民に対し唯一の神への服従を強いる。当然チドルも盲目的に神を信じてる。

 ざくっと教えてもらった感じではこんなとこ。
 前近代的な世界の子供としては、チドルはよく知ってる方じゃないかな。
 あ、そうそう、残念ながら超常の力を振るえる人間は神話や伝説の中にしか存在しないみたい。魔女の魔法もチドルは見たことはないと言うし、身近に実際に見たって人もいないという。
 異世界つっても実際はやっぱそんなもんだ。

 それから帝国の外には違う信仰を持つ人々の国があったり色々みたいなんだけど、その辺はチドルはよく知らなかった。
 ま、だからあたしも地球の世界史を元ネタにして適当にでっちあげた外国の話をしてあげられたわけで。随分喜んでくれたな、うん。


 それにしても平原は広いなぁ。
 集落まで遠かったもんなぁ。
 放浪生活で歩き慣れてるからいいけどさ。
 チドルにとってもこんくらいの距離を歩くのは当たり前のことみたいだ。

「ひぎゃうっ!!」

 いきなりチドルが前のめりに転んだ。
 衣の裾が捲れ上がる。
 落ちていた腕につまずいたんだ。

 腕・・・。
 いや、この際それはスルー。
 それより。

 お尻。

 お尻だあ。
 チドルのぷるんと可愛いお尻。

 そっか、この世界じゃ女は多分みんなノーパンだ。
 平民の子供だけがノーパンって可能性もないわけじゃないけど・・・。
 地球人類の歴史と照らし合わせてみてもノーパン率は高いと思うなぁ。

 あたしはちゃんとこの世界に溶け込めるんだろうか。


 それにしても平原広すぎだって!
 早くこんなとこ抜けたいのに。
 どんだけ死体あるのよ。
 ああ、暗くなるのも早い。
 完全に夜になるよ。
 こんな所で?
 やだ。嫌すぎる・・・。
 チドルの前で安易に懐中電灯を使うわけにはいかないし。
 地球と同じような月は出てるけどさ。
 月明かりだけじゃちょっとねぇ。

「ねぇ、チドル。急ごうよ、暗くなるから走ってこうよ」
 あたしは提案した。
「えー。バラバラになった骨とかよく落ちてるから、走ったら躓いて転びやすくなるよ」
 立ち上がったチドルの返事にあたしは身震い。
「ちょっと待って」
 チドルは衣に付いてる胸ポケットをまさぐった。

 チドルが取り出したのはピンポン球大の石ころ。
 それを両手の平に挟んで擦り出す。
 何してるんだろ?

 しばらくそうしてるとチドルの手の平の間から光が漏れ出してきた。
 石がぽうっと輝き始めたんだ。
「ええっ? ちょっと何、それ?」
 あたしは驚嘆の声を上げる。
「太陽石だよ。ミチルの国にはないの?」
「え、うん、・・・ないね」

 チドルの説明によると太陽石は自然に採れる石。
 擦ると光るので簡易照明として使われてるんだって。
 ううむ、そんな物があるとはさすが異世界。
 ただの中世ヨーロッパのパチもんってわけでもなさそうだ。


 とりあえず異世界補正で明かりの問題は解決した。
 ではさて先へ進もうかと前方に目をやった時。
 あたしは遠くにおっとろしいものを見て硬直した。

「どうしたの? 行こうよ」
 チドルが促すが、アレ見ちゃ足は前になんて出ない。
 どうすればいい?
「ミチル??」
 アワアワしてるあたしにチドルは不審顔。
 まさかチドルには見えてないのか、アレ?
 あたしは前方を指差した。
「ほら、アレ、分かんない・・・・・・?」
 前方の闇に浮かび、乱舞するもの。揺らぎ、尾を引き流れる陰鬱な光。
 それはぼうっとした淡黄色の丸い発光体。その数、十? いや、二十近い?
 大きさはまだ距離があるのではっきりしないが、人の頭くらいはあるんじゃないか。

「人魂だよっ!!」
 遂にあたしは叫んだ。
 なのにチドルの反応は鈍い。
 あたしが指差すものを見て、クールに言った。
「人蛍に驚いてるの?」
 へ?
 蛍?
「・・・・・・アレ、普通にいる虫なの?」
 気が抜けたあたしは聞いた。
「そうだよ。人の魂が無念と未練で天国に行けずに彷徨い出てきた姿なの」
 やっぱりそっちかい!
 いや、ま、それは伝承だろ。
 蛍でパニクった自分が恥ずかしい。
「あの、あたしの国には光る虫なんていないもんで・・・びっくりしたの」
 シレッと嘘つくあたし。
「ふぅん。この辺じゃ珍しくないよ。じゃ、行くよ?」
「うん、行こう」
 あたしらは足を踏み出した。
 そして、二、三歩も行かないうちに。

「誰かぁ! 誰かおらぬかぁぁ!!」

 人の、男の声が遠くから聞こえてきたんだ。
 今し方歩いてきた森の方角からだ。
 チドルと顔を見合わせる。
「あれ、森の中からだよ」
 チドルは言う。
 おそらくチドルは文明人なあたしよりか余程耳はいい。

「困っておる! 近くに誰かおらば来てくれい!!」
 再びおらぶ声。
 森からここまではっきり届くとは相当な大音声だいおんじょうだ。
「どうする・・・チドル?」
 あたしの問いにチドルは迷いなく答える。
「行こっ! ミチル」

 うん、そうだよね。
 人として行くよね。
 ようやくここまで来た死体の森をまた戻って・・・。

 明かりを手に駆け出したチドルの後をあたしは追った。
 結局走るのか。

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