何の能力も与えられずに異世界転移してしまった小娘ですけど、残忍な伯爵夫人だけは絶対に許せないので成敗させて頂きます

牧神堂

文字の大きさ
6 / 28
第一章

5話 もう死体はかんべんしてえ

しおりを挟む

 チドルは歩いてきた方向からちょっと進路をずらした方角へ走っていった。
 声のする場所への最短距離を一直線に進んでるみたいだ。
 や、それにしても速い。身軽だしね。
 大荷物背負ったあたしのことも少しは気遣ってあげて下さい。
 うわあ、明かりがどんどん遠くなるう。
 さっき走ってこうなんて提案したあたしは楽天的すぎたな。

 あたしはこけた。
「ぎゃーーーーーーーっ!!」
 思わず漏れる悲鳴。
 絹を裂くような可憐な悲鳴ではございません。
 濁った絶叫ですみません。
 だってさ、地面には人の欠片だと思われる肉片骨片がゴロゴロ転がってるんだもん。
 暗くてよく見えてなかったけど、目線低くなると月明かりでもよく分かる。
 ジグソーパズルのピースかよ。
 ちゃんと組み合わせてあげると人の形になるのかな。
 ああ、比較的通りやすくなってたさっきまでの道のりに比べ、こっちのルートは基本的に人が歩くような所じゃないでしょ。

 前方の明かりが止まり、引き返してきた。
 戻ってきたチドルは、硬直したままうずくまるあたしを見下ろして言う。
「もうっ。困ってる人がいるんだよ? 急ごうよ」
 チドル・・・あんた鬼か。親切な鬼か。

 とりあえずチドルはじれったそうにあたしの歩調に合わせてくれた。
 進んで進んで、やがて巨大な黒い影となった高台の森が眼前に現れる。
 途中何度もあの男の人が助けを呼ぶ声が聞こえてきてた。
 何に困ってるんだろう。あたしらにどうにか出来ることなんだろうか。
 とりあえず見に行って状況を把握し、場合によっては改めて人を呼びに行くしかないね。その場合、あの死体の森を行ったり来たりすることになるのか? ひぃ。

 あたし達は草を踏み踏み森への斜面を上っていく。
 上りきると少しひらけた場所に出た。
 そこもあたしがチルドで出会った所と同じように森の入り口になってるみたいだ。
 そして、目の前の木には一頭の馬が繋がれていた。
 
 うん、馬だよね。
 多少ウロコはあるけど馬だ。
 鶏冠生えてて尻尾はワニみたいだけど馬だ。
 だってほら、鞍付いてるし。大人しいし。

 チドルはさっさと森の中に入り、あたしはその後に付いていく。
 あのう、この森には何か恐ろしいケモノがいるんですよね・・・。大丈夫なのかな。
 あれっ、チドル震えてる?
 そっか、口数少なくなったと思ったらチドルも必死に勇気を奮い起こしてたんだ。
 この子抱きしめたくなった。

「助けにきましたよー! どこー?」
 チドルが森の奥に向かって可愛い声を張り上げた。
「おおっ! まさか人がいたか! ありがたい、こっちだ!」
 すぐに反応がある。
「今いきまーす!」
 あたし達は声がした方へザクザク進んでいった。

 密生する木々の枝葉が暗がりで肌に擦り傷を作る。
 でもこんくらいの傷はすでに森泊してた時にいっぱいこさえてるし平気。
 それより季節が良かったのか分からないけど、蚊やヒルみたいな刺したり血吸ったりしてくる虫がいないのがありがたいんだよね。
 少し行くと木が刈られているのか、広場っぽい場所へ出た。小さな公園くらいの広さかな。漠然とそう思う。
 その広場の向こう端あたりに何やら蠢く大きな固まりの影が見えた。何か横たわってる?
 何しろ頭上に繁る枝葉に月明かりは遮られてるし、チドルの太陽石の淡い光はそこまでは届かない。
 何がいるのか分かんないんで緊張した。

「来てくれたか!」
 その、人にしてはやけに大きな固まりが声を発した。
「何と! お嬢さん方の二人連れかね!」
 チドルの明かりで向こうからはこっちが見えてるんだ。
「どうしましたかー?」
 チドルが近づくのをやめて声を掛けた。
 やっぱりちょっと警戒してるみたい。
「うむ。動けなくなって困っておるのだ。お嬢さん達が立っている近くに太陽石がないかね?」
 男の声に言われてチドルが腕を突き出し、握った太陽石で周りをぐるりと照らしていった。
「あった! ありました!」
 チドルの目線の先の地面にでっかい石がある。ビーチボールくらいの大きさ。
 あれも太陽石なんだ。持てんだろ、あれ。据え置き型?
「よし、擦って明かりをつけてくれんか。悪いね」
 男に指示され、チドルは振り向いてあたしを見た。
「ミチルも手伝って!」

 荷物を置いて石のそばにしゃがみ込み、あたしとチドルはその表面を手の平で擦りだした。
 必死こいて擦る。万遍なく擦る。
 けっこう大変。デカい太陽石は使い勝手が悪いぞ。
 やがて石はぼんやりと淡く光りだした。
 そして、なおも擦り続けていると・・・。

 パアアアアーーーーーーーッ!

 すんごい強烈な光を放ち始めた。
 辺りは昼間のように明るくなる。
「わあっ、高級品だあ!」
 チドルの感嘆の声。

 あたしはというと呆然としていた。
 男に背を向けていたチドルに対し、向かい合うあたしは男のいる方へ顔を向ける位置にいる。
 だから明るくなった時、すぐに目に飛び込んできたんだ。
 恐ろしい光景が。

 広場の真ん中で地面に仰向けになった男の人。黒いガウンみたいな服着てる。
 はだけた部分は裸で、そのお腹は大きく裂けてて・・・・・・はらわたが引きずり出されてた。
 平原の腐臭が漂ってきてるから血の臭いに気づかなかった。
 血は乾いてない。まだ濡れてるように見える。死んでからそんな時間経ってないんだ。
 そして、その人の向こう、声のしてた辺りには・・・・・・。
 長い牙を剥き、真っ赤な大口を開けた牛ほどの大きさの灰色の獣がこっち向きにうずくまっていた。
 あたしらを睨む眼は縦の瞳を持つ猫科の動物のそれ。けど可愛げはなく禍々しい。
 第一印象はサーベルタイガーとライオンとグリズリーのキメラ。
 顔つきと豊かなタテガミはライオン。短刀状の二本の牙はサーベルタイガー。盛り上がった肩と太い腕、ボリュームある身体はグリズリーを思わせる。もう怪物だ。
 そいつが目を怒らせながら、ぐいと身を起こしかけた。
 来る!

「チドルーーーーーッ!!」
 あたしは叫んだ。
 チドルが後ろを振り返り、奴を見て悲鳴を上げる。
 絹を裂くような悲鳴だった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ 主人公はあまり戦ったりはしません。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...