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第一章
20話 お昼の惨劇
しおりを挟む廊下の向こうから賑やかな人声が近づいてきた。再び扉が開く。
ドヤドヤと入ってきたのは男性陣。一挙五人。
「やー、僕のハーレムのレディ達! 待たせちゃったね。寂しくて泣いてたの?」
甲高い声で放たれたうざい台詞の主はもちろんプラトン。
「死ね」とネメアが小さく呟いた。
うん、同意しとこう。
「ミチルさん」
ランマルさんがあたしに声を掛けてきた。
ランマルさんの顔やっぱまともに見れんわ。
「プラトンとはもう会ったんですよね。他の三人を紹介しておきましょう」
「はっ、はい!」
あたしは立ち上がり、テーブルを離れて前へ出た。
「右からヘラクレス、サムソン、アケボノですよ」
ランマルさんがそれぞれの人を手で指し示しながら名を教えてくれる。
「ミチルです。よろしくお願いします」
あたしは例のスカート摘み上げるポーズで挨拶。もちろん細心の注意を払って。
「「「うっす!! よろしくっ!!」」」
三人は声を合わせて豪快に答えた。
うん、でさあ、何なのその名前? ネタなの? 名は体を表すなの?
何しろ三人ともガタイがいい。力持ちを絵に書いたような男達。年齢は不詳。
ヘラクレスさんのコタルディは赤。ランマルさんより頭半分背が高い筋肉ダルマ。仁王のような顔をしていて、短いオレンジ色の髪はクルクル無数に渦巻いている。
サムソンさんはヘラクレスさんより更に頭一つ大きな巨人。コタルディは黄緑色。超人ハルクみたいな体型で、大きな顎が割れているのが目を引く。赤い髪は坊ちゃん刈りだ。目も赤いのは単に充血してるからみたい。
アケボノさんは背はサムソンさんよりもやや低いけど横幅が凄い。腹も突き出てて要するにデブ。ただし、恐らくは脂肪の下は筋肉の塊。コタルディは茶色。濃い顔で毛深いんだけど、頭はスキンヘッド。
「彼らはいずれは騎士として活躍することになると思いますよ」
ランマルさんの言葉にあたしは頷く。いかにも武闘派だもんね。
伯爵の後ろにこの三人が控える図はすごく絵になりそう。暑苦しい意味で。
「あと三人は互いに愛し合ってるから惚れても無駄だよ。僕の方がいいよ」
プラトンが口を差し挟む。
アホか。
つまんない冗談。
・・・・・・冗談だよね。
なぜ誰も否定しない。
ここでは男色は中世ヨーロッパみたいな死罪案件とは違うんかな。
あたし達10人が席に着くと食事が運ばれてきた。
ドリンクにサラダ、スープ、柔らかな白いパン、煮物、揚げ物、焼き物、茹で物、炒め物、干物、乳製品、その他諸々すごい量。昼間っからお酒もきちゃうか。食材は穀物、野菜、キノコ、果実、卵、魚介、そして肉。普通に馴染めるものばかり。
魚介類は川で豊富に獲れるとカリンから聞いた。海は見たことないんだって。肉は玉虫ではなく、鳥や動物のものね。
料理の多くは大皿から取り分けるスタイルで、それは給仕さん達がやってくれた。
給仕さんらは地味な色のゆったりしたズボンと膝上丈のチュニック姿。腰には細いベルトを巻いている。
ところで・・・・・・あれっ?
「もう一人いるんじゃなかった?」
あたしは隣のカリンの耳元に口を近づけ囁いた。
「いるよー。スキュラちゃんはいつも遅いから先に食べてていいの」
カリンはニコニコと答える。
ふうん。
和やかに賑やかに食事は進む。
で、今日の主役はやっぱりあたしみたい。事実上、歓迎会みたいになってる。
皆が入れ替わり立ち替わりお酒を注ぎに来るので否応なしに飲みまくるはめに。
けど、次々に飛んでくる質問には酔いに負けず無難に答えていった。ボロは出せない。何にしろ異邦人として孤立する不安はあったから、この暖かい雰囲気は嬉しい。
それにしてもまだ皿が運ばれてくるけど、あたしはもう食べられないよ。お腹ぱんぱんだあ。なのにまだこれからメインディッシュが来るらしい。香草をふんだんに使った肉料理だとか。
給仕さんが空になった皿を集めて部屋を出ようと扉を開けた。
バン! と大きな音がした。
「うわあっ、す、すみません!」
給仕さんは部屋の外にいる誰かに謝っている。開いたドアにぶつかったんだ。
「何てことありませんわ。気にしなくてよろしくてよ」
鈴を転がすような女の子の声。
廊下に落ちた覆面を拾い、すぐにその声の主は部屋に入ってきた。
額が赤くなり、目に涙を溜めている。
「来ましたわよ」
彼女の第一声はそれだった。
「スキュラちゃん、今日は一段と遅かったねぇ。食べるもの無くなっちゃうよ」
プラトンがへらへらと声を掛ける。
「それで良いのですわ」
スキュラという子はカツカツと靴音鳴らして空いている席へ向かい進む。それはつまり、あたしの左隣の席。
「ここよろしいかしら?」
あたしに聞いてきた。よろしいも何もない。
「はっ、はい、どうぞ」
「ははぁん、あなたが新しく入った東方のお嬢さんですわね? すぐに分かりましたわ」
いや、それは分かるでしょ。いいけど。
スキュラのメイド服はピンク色がベースだ。
卵型の顔して大きな猫目、鼻は可憐に小さく、艶やかな唇には色気を宿す。漫画みたいに華やかな美形。
あたしは彼女の背後に乱れ咲く花々を幻視した。だけど、上品な笑顔の前歯が一本欠けているのが惜しい。
背はあたしよりも少し高そうで、足の長い素敵体型。長いメタリックパープルの髪を姫カットにしてる。歳はやっぱり同年代かな。
「それでは皆が揃ったところで改めてミチルへ歓迎のご挨拶! えーと、ポーラがやりまーす!」
カリンが明るく大声で言った。
「ひああっ?! わ、私??」
びっくりしたポーラが弾けるように立ち上がり、その拍子につまずいてテーブルの上に半身をダイブさせた。
今置かれたばかりの魚のパイの皿へ顔面直撃!
かと思った刹那、隣に座っていたアシェリさんが素早く片手を伸ばして寸前のところで下からピタリとその顔を止めた。
何という反射神経と力。ポーラは変な体勢で顔を掴まれてジタバタしている。
「もうっ、カリン、無茶ぶりしないの」
たしなめるアシェリさん。
「ごめーん」と、悪びれず舌を出すカリン。
顔を掴まれたまま後ろへ押され、席へ戻されるポーラ。
「そんな感じでこれからよろしくねー!」
カリンがあたしの肩に触れながらウインクしてきた。
「う、うん、皆さんよろしくお願いします!」
どんな感じなんだとは思うけど。
一方、左隣では給仕さんが来たばかりのスキュラの皿に料理を盛り始めていた。
「あっ、もうそれくらいでいいですわよ」
スキュラはすぐにストップをかける。
ん? えらい少ないな。
あたしの不審げな顔を見て、向かいの席にいたプラトンがクスクスと笑った。
「スキュラちゃんはねぇ、太りやすいのを気にしてるんだよねぇ」
スキュラがプラトンを軽く睨みつける。プラトンはどこ吹く風で黙らない。
「だから食事にもわざと遅く来てあまり食べられないようにしてるのさ。早くからいると誘惑に負けてバンバン食べちゃうからね」
「余計なこと言わなくてもよろしくてよ?」
「僕はスキュラちゃんが今の三倍太っても喜んでお嫁さんに迎え入れるのに」
あっけらかんと言うプラトンの無邪気な笑み。
「ばっ、馬鹿ね」
瞬時にスキュラは顔を真っ赤にした。
「とっ、ところで東方のお嬢さん」
あたふたとあたしに話し掛けてくるスキュラ。
「はい、あ。あたしミチルといいます」
「ミチルさん、あなた東方の上級貴族の家柄なんですってね?」
「えっ、えー・・・・・・はい」
そう答えるしかない。
「ふん。上級貴族。いかにものほほんと生きてきたのが顔に現れてるよ。吸血鬼め」
いきなりネメアが吐き捨てるように言った。
「ちょ、ちょっと、何言ってるの! ゴメンねー、ミチルー」
カリンが笑顔のまま焦った様子でフォロー。
あたしは別に怒りはしない。
思えば確かにのほほんと生きてきたんだ。一人で放浪してても何とかなる世界で。帰るところがある保険付きで。
でも吸血鬼って何で?
「吸血鬼?」
聞いてみた。
「人があくせく働いて得たものを吸い上げて贅沢してたんだろ? 貴族さん」
そういう意味か。そこはちょっと違うけど、否定しても仕方ないや。それより・・・・・・。
「あなたも貴族の家の出なんじゃないの?」
あたしは聞いた。ここの侍女は違うんだろうか。
「貴族は貴族でも最下級の貴族の家柄ですわよ。皆さんは」
スキュラが言った。
「お前もそうだろ」とネメア。
「わっ、わたくしの家は元々上級貴族で・・・・・・」
「没落したわけだ」
ネメアの容赦ない一言に、スキュラは黙り込む。
「先祖から引き継いだのは太りやすい体質だけか。ろくに食うものもない生活に堕ちてもそれは変わらなかったなんて何の呪いだよ」
スキュラはまた目に涙を溜め込み、俯いて肩を震わせる。やがて微かに嗚咽し始めた。
「ネメア!」
ついにカリンは声に怒気を孕ませる。
「血筋に縋って無駄にお高くとまってるからだろ。くだらねぇ」
ネメアは富裕層に対して相当反感を抱いてるみたいだ。
ひい、あたしのことイジメないでね。あたし平和にやってきたいの。
さて、困ったことに場はしんと静まり返ってしまった。
「どうしたのぉ? みんな楽しくやろうよぉ。僕が出世したら全員まとめて面倒見るからさ!」
こんな状況になるとプラトンの軽口はありがたい。しかし、誰も反応しない。
「ははっ、みんなそれぞれ苦難に耐える親の背中を見ながら育ってるからね。でも卑屈になってちゃ前に進めないよ」
アシェリさんがしみじみと言う。
そっか、おしなべて下級貴族の生活は経済的に相当苦しいものなんだ・・・・・・。
空気が沈んだまま時は流れる。気まずい。
ほとんど会話が絶えてしまった。
うう、あたしの上級貴族設定がこんなに波紋を広げるなんて。
ムードメーカーのカリンも黙っちゃったし、ポーラは何が起こってるのか分からない様子で目を点にしてぶんぶん首を振って左右を見回してる。
ランマルさんはというと静かに考え込んでるし、ガチムチ三人組に至っては・・・・・・食べるのに夢中だ。
どうしよう。
この重苦しい雰囲気を吹き飛ばすネタ、何かないか?
えと、えと、そうだ!
歓迎の返礼として歌うか、東方の歌を。明るいやつ。アカペラで。
そういう思い切ったことしなきゃダメだ。
いや、待て。それならむしろ・・・・・・。
よし! こうなりゃやる!
あたしは立ち上がった。
「いきなりやってきたあたしをあらららく迎え入れて下さってありがとうございます!」
あれ? けっこう酔いが回ってるかな。なに、こんくらい平気だ。
「余興に東方のダンスを踊りますのでご覧下さいっ!!」
あたしは空いてる場所へと進み出る。
おもむろにくるりと振り向き、鋭く決めポーズ。そして、踊り始めた。
得意のヒップホップダンスだ。
お酒の勢いもあって大胆にやれた。
とにかく無心に、曲を口ずさみながら身を躍らせる。
これで空気変えてやるんだっ!
踊る、踊る、踊る。
どうよ? どうよ、どうよ。
攻めに攻めた振り付け。
ね、こんな激しい踊り、この世界にないよね?
ねね、キレッキレだろ!
盛り上がれー!!
みんな目を丸くしてポカンと口を開け見入ってる。
ガチムチさん達も食べるの忘れて見とれてる。
給仕さん達も立ち尽くして食い入るように見てる。
プラトンは飛び跳ねて大興奮。
ふふ、驚いたかい?
記憶に刻み込むがいい。
あ。
あたしミニスカノーパンだった。
もう・・・・・・バカ・・・・・・。
お城での初日の午後はずっと部屋に篭ってた。
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恥ずかしくて誰とも顔を合わせたくない。
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