何の能力も与えられずに異世界転移してしまった小娘ですけど、残忍な伯爵夫人だけは絶対に許せないので成敗させて頂きます

牧神堂

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第一章

24話 凍りつく

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 お城の中に戻ったあたし達は、厨房のある四階に向かって階段を上り始めた。
 使ったのは中央の螺旋階段ではなく、もっと幅があって真っ直ぐな外壁に沿った階段。大きな荷物など運び入れる時に使用するらしいけど、あたしはこっちの方がいい。敵が攻めてきた時には封鎖されそうだけどね。
 何故かというと螺旋階段って城を防衛しやすいように出来てるんだから、敵にはそっちを上がってきてもらわなきゃでしょ。

 長ぁい階段の二階を過ぎた時、ドヤドヤと上階から下りてくる人声と足音が聞こえてきた。
 あれっ、ここ使う人けっこういるんだ。
 おっと、思ったより大勢いそうだぞ。確かに大人数ならこの階段使う方がいい。

 会話する大声が耳に飛び込んでくる。
「だからよう、あんまりガバガバなんで頭きてそいつの○○○に拳突っ込んでやったのよ!」
「ひゃあはは、それじゃあその女、商売道具がすっかり台無しだねぇ」
「なぁに、これからは巨人相手にやってきゃいいさ」
「ひゃぁーっはっはっはっはっ!!!」
「むしろおめぇのが小人サイズだったんじゃねぇか?」
「んだとう? ざけんな、見せてやらあ」
 うわ、何て下品なんだ。こんな不遜な連中、使用人じゃないよね。まさか、騎士? 不良騎士グループ?

 声の主達の姿が見えてきた。
 あう。
 なっ、何だあ? こいつら・・・・・・。


 階段をおりてきた一団はヒャッハーの群れだった。
 うん、そう表現するのが一番適切な気がする。
 何しろ格好が奇抜だ。見るからにヤバい。傾いてる。

 海賊みたいなアイパッチで片目を隠してオールバック。細身の黒い皮ズボンを穿き、逞しい裸の上半身には無数の傷を持つ男。これはまだまともな方。
 ピンクのモヒカン頭は全身を桃色タイツに包み、土色の汚れたロングコートを肩掛け。その両肩に二本の斧を担いでる。こんな場所で!
 長い鉤爪の付いた籠手にトゲトゲ肩当て、ヘルメットにはバッファローのような角。後は鎖帷子で総身を固めたのっぽもいる。
 真っ赤なプロレスラーみたいなパンツを穿いたおっさんは体中に針金のような太い毛を生やし、顔もビンビン伸びる虎ヒゲに覆われていた。毛深いどころの騒ぎじゃない。
 古代ギリシア風に一枚布を体に巻き付けたマッチョは、露出した肌全面が第三世界のトライバルのようなタトゥーで埋め尽くされている。鮫みたいな眼。
 こいつらだけじゃない。更にその後ろに何人も。
 
 階段を上がってくるあたし達の姿を認めると、ヒャッハーの先頭にいた海賊アイパッチが怒鳴った。
「邪魔だ! どけっ!!」
 はいはい。
 あたしらは黙って石壁に背を押し付け平たくなった。
 どうぞどうぞ。

「おっ、何だ? この女?」
 海賊アイパッチの後ろの剛毛虎ヒゲがあたしの顔を見て素っ頓狂な声を上げた。
「珍しい顔してんな。人と猿のあいのこか?」
 ムカッ。お前が言うな。
 どれどれと、虎ヒゲの横のピンクモヒカンがあたしをガン見してきた。
「でもでも、これはこれで妙に可愛いんじゃなぁい?」
 テヘッ。どうも。
「そうだな。よし、話の種にやっていこうぜ」
 えっ? 何を?
 壁から体を浮かしかけたあたしは電光石火の速さで距離を詰めてきた海賊アイパッチに両肩を掴まれ、再び乱暴に壁に押し付けられた。
「まずは俺からだ」
 えっ、何? 何するつもり? まさかこんな所で・・・・・・。

「ふししっ。やめてくらしゃい」
 海賊アイパッチの太い腕に取り縋ったマドンナさんは軽く振り払われて吹っ飛んだ。階段を転げ落ちていく。
 ああ、マドンナさん・・・・・・。
「「「ひゃっは! ひゃっは! ひゃっは!」」」
 後ろの十数人はいそうな仲間達が手を叩き囃し立てる。
 パン! パン! パン! パン!
「「「やれ! やれ! やれ! やれ!」」」
 嘘。こんないきなり。
「ほーれ!」
 スカートを捲り上げられた。
 どっ、と歓声が轟く。
「おい! 見えねえぞ!」
 最後尾の連中の怒声。
「順番だ! 待ってろ!」
 ちょ。ふざけんな。やめて。

「ひへへっ、まずは味見だ」
 海賊アイパッチは無数の細かい傷のある顔を至近距離までぐいと近づけ、大きな舌を出した。息が臭い。
 歯を食いしばって横を向いたあたしの、頬をべろりと嘗め上げる。
「いいねぇ」
 更に海賊アイパッチはおもむろにあたしの股間に手を滑り込ませ、くじった。
 あああっ! くそっ!
 掻き回したその指を自分の鼻先に持ち上げ、匂いを嗅いだ後ねっとりとねぶる。
「おう、中々だ! 猿味ってわけでもなさそうだ!」

 初めて、初めてあそこを人に触られた。
 こんな奴に。こんなモブ雑魚臭い奴に。
 ちきしょう!
 でもどんなに怒りを滾らせても、あたしは身動きが出来ない。
 プラトンの時とは全然違う。
 本気のこいつの力の前で、あたしの身体は蛇に睨まれた蛙のように萎縮している。
 金的にひざ蹴りなんかかましたら、絶対半殺しにされる予感がある。
 もう悲鳴を上げることすら忘れていた。叫んだところでヒャッハー達の囃す声に掻き消されてしまうだろう。
 悔しい! 悔しい!
 こんな形で・・・・・・。

「「「早くしろっ! 早くしろっ! 早くしろっ!」」」
 唸りを上げる催促の声。
「けっ。分かった、分かったよ」
 海賊アイパッチは片手であたしの顎を押さえ付け、片手でズボンを下ろし始めた。
 い、いやだ!
 いやだ!


「ふししっ。およひっ!!」
 階段を這い上がってきたマドンナさんが、思いがけないほどの大声で怒鳴った。
「ああ?」
 海賊アイパッチが片目でマドンナさんを睨みつける。
 が、マドンナさんはたじろがない。ヨロヨロと立ち上がり、屹然と言った。
「この方は侍女しゃまではありましゅが、遠く東方の国よりはるばるいらしゅた大貴族の姫君、客人でもあらせられましゅ! 手を出しゅたら伯爵しゃまの怒りを得て処刑は免れましぇぬぞ!」
 この言葉にヒャッハー達の動きが止まった。
 黙り込んで互いに顔を見合わせ、戸惑った様子。

「そういやぁそんな女が城に来てると聞いたなぁぁ」
 ピンクモヒカンが呟く。
「じゃホントなのか?」
 海賊アイパッチの腕の力が緩む。
 逡巡した後、ちっ、と舌打ちして海賊アイパッチはあたしを解放した。
「冗談だよ、冗談」
 そう言い残し、ズボンを引き上げぷいと階段をおりていく。
 他のヒャッハー達も白けた様子でぞろぞろとその背中へ続いた。

 後ろの方にいてよく見えなかった奴らもみんな奇怪な姿をしている。
 虎模様の熊としか言いようのない動物の、毛皮一体分を全身に纏った男。恐ろしげな頭の付いた毛皮は爪先まで綺麗に剥ぎ取られていて、纏うというより猛獣の中に入ってるみたいだ。もうリアルな着ぐるみパジャマ親父にしか見えない。
 更に近世イタリア喜劇のハーレクインみたいな派手に道化た格好の奴。
 翼竜のように牙が生えた嘴に後頭部には角が突き出た鳥の仮面を被った紫マント。
 左肩に巨大な鉄の義手を付けた三つ編み男。それが鎧じゃないのは肩から外れそうになっているので分かる。
 中世後期の資料に残る潜水服姿そっくりな出で立ちの大男もいる。鋲打ちの頭の尖った金属製丸ヘルメットは両目の部分がまん丸い窓になっていて、まるでレトロなロボットみたいだ。
 全身黒塗りの男は褌だけ着用して顔に恐ろしげなメイクを施し、小動物の頭蓋骨を連ねたネックレスをカコカコ鳴らしてる。長い舌を出しっぱなしで視線定まらず、なんかイッてる感じ。
 それに顔と四肢と下腹部に汚い包帯を巻いただけの奴。目すら出してない。
 そして、カトリックの修道女に似たスタイルのおやっさん。踊るチンチクリン。ゴブリンもどき。他。
 何だこれ、むしろ仮装行列?


 マドンナさんが連中を避けて、あたしの横に身を寄せてきた。
 ヒャッハー全員の姿が視界から消えた時、あたしはマドンナさんの胸にしがみついて顔をうずめた。
 安心したらなんか、心の奥で何かが崩れたんだ。

「マドンナさん・・・・・・ありがとう」
 涙声になっていた。
「あっ、体、大丈夫ですか?」
 マドンナさんが階段を転げ落ちたことを思い出し、顔を上げ聞いた。
「ふししっ。あてくしは頑丈なんでしゅ」
「そう・・・・・・無理しないで」
 マドンナさんはあたしの涙を優しく指で拭ってくれた。
「ふししっ。あいつらは家令しゃまが外部から招き入れた傭兵達でしゅら」
 傭兵、だったんだ。
「伯爵夫人しゃまが擁する魔女討滅部隊の中核メンバー。彼らは『神の鉄槌』と名乗っておりましゅ」

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