家出した令嬢は自由気ままに『捕食』する!

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令嬢は仲間と語るようです

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一時間後、予定通り私とトワは合流した。

約束の場所に着くと、トワが高速でやってくるのが見えたので、私はトワに大きく手を振った。
「で、トワの方は、どうでしたか?」

と聞きつつ、トワの右手に持っている大きなクマの様な魔物を凝視する。毛皮は紫で体調は3メートルを超えていたが、熊のシルエットの魔物だ。大きいので、引きずってきたようだ。地面についている方は、摩擦で、毛が擦れている。

「ああ、見ての通りだ。どこまで行っても雪景色。たいした魔物もいなかった。何もなしで帰ろうと思ったときに、こいつがいたからとりあえず、狩ってきた。」

そういって、魔物を掲げた。

「こいつは、セツセキベアだ。セツセキソウを好む」
「そうなんですね」
「だが、妙だ。ここまで先ほども言ったが、ここまで雪が降り積もることもないんだ。セツセキベアも数が少ない。住処を移動したんだろう。サルビアは何かおかしなことはなかったか?」


「そうね。…私は、銀髪の女の子に会ったわ」

私は、少女が私の名前を知っていたことを伏せて、少女と別れた経緯を事細かくトワに説明した。

「女の子?こんな雪の中でか?」
「ええ、首輪をしていたわ。きっと、誰かに買われたか、商品なんでしょうね」

私も報告として、できるだけ淡々と述べたが、いつのまにか、爪が掌に食い込むほど強く握りしめていた。奴隷商。こんな辺境で出会うとは…。
今時こんなことをしている人って、時代遅れではないかしら。本当に許せない。
ただただ無力な自分が悔しくて、何かできないかと思案した。
その子の場所さえわかればいいのですが…せめて。

「そうか…」

トワも私の話を聞いて頷きはしたが、冷たい空気に負けないほど、ピリピリと凍りつきそうな覇気を漂わせていた。

「未だに奴隷商だけはなれねえ」
「…そうね、理解したくもないわ」
「俺の世界には、あったことはあったけど、暮らしの中では無縁だった。そういうものもあるのか…って感じながら生きていたんだ。」
「私も、ある程度、衣食住は、確保してもらっていたわ。それだけでも、幸せなのよね」

少し、遠くを見つめた。


……

グツグツグツグツ…
鍋の煙が景色に溶ける。
悴んだ手を焚き火で温めた。私たちは今、夕飯をとっている。

「トワは、前の世界では、どのように暮らしていたんですか?」
「普通だ。ご飯を食べて、大学行って、 勉強して、バイトして寝る…みたいな生活を日々送っていた」

大学…?バイト?けれども、彼にとっては普通だったんだとスープをスプーンで掬って、飲んでを繰り返しながら考える。
ちなみに、昼にトワが獲ったセキセツベアをメインにこの日は、鍋にした。寒さから身を守るために脂肪を多く含んでたセキセツベアのスープは、コッテリした味だったが、この極寒の中で食べるにはちょうどよかった。

「俺がここに転移した時は、幼馴染2人と一緒に転生したんだ」

トワは、召喚されたことが一瞬、脳裏に蘇った。

……

3人で帰っている時に眩い光に目を瞑ると、豪華な部屋の一角に召喚された。
目の前には、いかにも高級そうな宝石を身につけたおじさんが、こちらをじっと見つめている。
そのおじさんの周りには甲冑を身につけたごつい大男や、ローブを纏った人がいた。彼らはトワたちを囲んでいる。トワは足元を見て、初めて、自分たちが魔法陣の上にいることに気づいた。

「ーー…成功しました」

大学生活から一変して、「勇者」たちと呼ばれたあの時をトワは忘れない。

そして、

「…ごめんなさい」そう彼女に言われて、2人と別れたあの夜をトワは忘れられなかった。



………

「……トワ、…トワ?大丈夫?」
「ああ、ごめん。少し考え事をしていた。」

軽く謝ったトワに私は目を見開いた。

トワが謝るなんて、初めてではないかしら。

「雪でも降るのかしら」
「いや、もう降っているだろ」
「あっ、間違えたわ。熱でもあるのかしら?」

ちょっとからかってみましょう。そう思って、とんすいを置き、そっと自分の手をトワの額につけて確認して気がついた。

やりすぎたと。

トワと目が合う。
トワに当てた指先から一気に熱が回った。

「い!いや、俺だって謝るから!!!な!」

「ええ!そうでしたね。ご、ごめんなさい。」

ギクシャク。
雪の冷たさに触れても熱が引く気配がなかった。



「…サルビアは、どうなんだ?ここで冒険者をする前は何してたんだ?」
「私は…」

私は何から話すべきだろうか?
彼は相当寄り添ってくれているのに私だけ話さないことは失礼にあたらないだろうか?

「…私は名家に生まれました。今も、地位的にはまだ貴族かもしれません。けれども、いろいろあって、家を出たんです。」

私の書庫には、沢山の本があった。世界の陸、海、空がギュッと詰まった本たちを何度も読み返しては、想像の中で冒険した。
ずっと、家を飛び出すきっかけを探していたのかもしれない。

「私は、ただ憧れていたんです。本で読んだ世界みた美しい景色を直接感じて、触れてみたかったんです。」


「そうか」とだけ言ってトワは微笑んだ。トワは私の話を最後まで聞き届けてくれた。
そう思った時、涙腺が緩むのを感じた。

「……ありがとうございます。私は家を出て、1人で生活しなければならないとずっと考えていたんです。でも、ハニカさんの一言でトワさんとパーティーを組めてとても幸せです」

目尻が熱く、零れ落ちそうな雫をこらえて、私も微笑んだ。私は今、かなり醜い顔をしているに違いない。
トワは片手で、顔を覆い、ぐるりと反対に向いた。耳がほんのり紅く見える。

「トワ?…トワさん?」
「いや、何でもねえ。天然かよ」
「…?」

トワが使う言葉は時々よく分からない。


私たちは食事を済ませ、近くにあった洞窟で就寝した。
雪は止み、静かな銀世界が広がった。
月は雲に隠れ、朧げで、風が吹き付ける。そんな夜だった。

だが、

「ヴォオオオオオオオオオオォォォーーー」

突然の魔物の雄たけび。

夜はまだまだ終わらないようだ。












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