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帰還への道

episode 1

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                                                     僕は君がいればいいと思っていた。

 生まれつき両目の視力がない俺は、幼いながら特別支援学校へ通い、授業を受けていた。「かわいそう」と隣人が噂する声を聞かぬふりを続けるだけの日々。ただ、目が見えないというだけなのに。
 そんな中、隣の家に住む従姉妹の薫だけは違った。

 幼い頃から、僕にたわいのない話をしてくれる。学校のこと、家のこと。その当たり前の世界の片隅を薫の話を通して見ることができた。だから、たとえ、目が見えなくても君が困ったらいつでも駆けつける。そう、心の中では決意を固めていた。

 しかし、高校1年の夏、飲酒運転のトラックが信号を渡る僕にぶつかってきた。それはあっけない死だった。受験を生き抜き人生の目標を見つけた矢先の死だった。
一瞬の時の中で、冴え切った脳内で一生分の思い出が駆け巡った。走馬灯のように今までの人生がフラッシュバックし、血か涙かわからないものに視界が遮られる。
 僕は死ぬ間際まで、彼女のことがただ頭の中に流れてきた。彼女の顔は見たことがないから、彼女の声から想像した顔だけど。「好き」と言ってくれた葵。それを受け取るだけで何も返してはこなかった。最低だ。
 
 (僕も好きだと伝えられればよかったのに)

 もし、生きながらえることができたならば、真っ先に彼女に会いに行きたい。彼女の声をもう一度聞きたい。そんな幻想を抱いた。どうか、神様。
 もし本当に、神様がいるならば、死ぬだけの未来を変えてくれませんか。お願いします。
 
 くそ………たらればばかりだな。
 
 もう何も聞こえない。真っ暗な世界にひとりぼっち。そんな感覚だった。




・・・そのはずだった。


 たくさんの声がきこえる。
 僕は全体を見渡す。いや正確には目を開けなくても見えるというべきか。
 見渡すと世界中のおよそ800人の人々が煌びやかな一室に密集していた。
 その中心には、豪華なひとりがけのソファーがあり、そこに座っていた中年の男性は自信を「国王」と名った。そして彼から、一室に集まった僕たちへ告げた。

「一ヶ月に1回現れるボスを倒し、レベル100までクリアすることで君たちを元の世界へ帰そう。」

 わけがわからない。
 静まった一室が皆が騒然となる中、誰かが言った。

「この世界はバーチャルリアリティー型のゲームじゃなかったのかよ。ログアウト機能が完全に消滅しているし、気がついたらここに飛ばされてるし、わけがわからねえよ。」

 多くの人々が同意した。ゲームからログアウトできなくなり、強制的にこの空間に転送されたと言っている。
明らかに外国人も日本語ペラペラに聞こえるのはこの世界の強制力が働いているのだろうか。ラグもなく、スラスラと聞こえる現実に違和感を隠せないぞ。

 確かに、地球ではバーチャルリアリティーのゲームが流行っていた。クラスメイトの一人も持っていて、仮想現実のため、脳自体とコネクトしているから、目が見えなくても、ゲームの世界を楽しむことができると言っていた。実際にもゲーム空間が見えるらしい。
 けど、高いんだよな。最新の技術を全部注ぎ込んだようなゲーム機なので通常の人が買える値段じゃないだ。ゲーム機本体だけで、数十万、あるいは数百万する世界なのだ。

「………だから、これくらいしかいないのか。」

 ゲームプレイヤーが集められたにしては、少ない理由も説明がつく。ここに呼ばれたプレイヤーは国王が召喚した時間にゲームをしていたのだろう。

 この世界はゲームのようだが仮想空間などではないことは一目瞭然。
 バーチャルリアリティーは仮想世界で飲食やそこに存在するオブジェクトに触れることができるが、その感覚全てが本物とは異なる違和感を秘めているらしい。まあ、僕は動画で聞いただけなんだけどね。
 この世界のオブジェクトはまるで本物の変わらない。リアルなのだ。従者や王もNPCで片付けることができないリアリティーを帯びている。
 現に国王は用意された言葉を述べているわけではなく、彼自身の主観で話しているのだろう。話し方も、一度言い換えたり、一度考えてから語る口調など、人間そのものに感じる。
 そして、国王は引き続きこの世界の情勢と共に僕たちに課せられた使命を説明する。

 「………君たちには一ヶ月に一回、この世界に出現する魔物を討伐してもらいたい。レベル1からレベル100までの魔物が出現し、一ヶ月ごとに出現する魔物のレベルが上がる。そしてレベル100まで倒した時、君たちを元の世界へ転送するゲートが現れる。それまで、君たちには自信を強化してこの国に尽くしてほしい。逆を言えば、地球という世界へと帰還したければ、魔物を討伐するしかない。もちろん、君たちが帰還する時、君たちは転送された当時と同じ世界、環境、時間に戻ることになると思う。君たち自身の体も、成長することはなく、転送する前の状態だろう。安心したまえ。
 ただし、この世界で死んだ場合、どうなるかはわからん。あちらの世界に戻ることなく、死ぬかもしれない。………すまないが、なるべく死なないように頼む。君たち自身の為にも………」

 楽しそうに聴いていたものも、「死」と言う言葉に恐怖した。王室は、怒るもの、震えるもの、さまざまな感情で混沌とした。

 「今の話のどこまでが真実か。」

 納得はしたが、理解はしていない。国王は、100レベルの魔物まで倒したら、帰還できると言っていたが、果たして確かなのだろうか。確証がない今、安易に信じることができない。
 彼らは僕と違って、一度も死んでいない。………多くの人々が転送されたと言っていたし。

 しかも、この世界では目を閉じているのに、状況がわかる、見える。まるで魔法のように。
 もしかしたら、この世界には魔法が存在するのかもしれない。
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