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帰還への道
episode 2
しおりを挟むどうして、僕だけが、ゲームもしていないのにこの世界にいるのだろうか。その理由を考えてもわからない。王が状況を事細かく説明する最中にひたすら考える。
薫は………まあこの世界にはいないだろう。僕には薫さえいればいいのだ。
僕は薫に「愛している」と死ぬ前に伝えたかった。この世界では見える。
力がなくてもいい、もし、向こうに戻れたら、薫の姿を見ることができるのではないだろうか。
目が見えなかったとき、僕は視力以外の感覚を研ぎ澄ませて生きてきた。聴覚は嫌な囁きを拾うほど地獄耳かつ、音域を聞き分けられるほど繊細になった。吐息一つ聞き漏らさない。
ちょっときもいな。
今は聴覚情報だけでなく、五感全てで感じることができる。大人数で埋め尽くされている宮殿の一室しかまだみていないが、真っ暗な世界で生きていた僕には、その光景でも十分に美しかった。
「君が見ていた景色は、世界は、こんな感じだったんだね。」
真っ暗な世界から鮮やかなものへと広がる。
ただ、ここには君がいない。君がいないのか。
その現実を唐突に突きつけられ、絶望した。
悲観的な想像で脳内が埋め尽くされてしまう。そんな中で突然として嗅いだことのないお香の匂いが漂い、視界が真っ白に染まった。
ここはどこだ。
この空間は場所全体が把握できないくらい霧がかかっている。
「よくきたな。君はもう死んでいる。いや、お前はもう死んでいる。」
そう何度も言わなくていいよ。
「あれ、通じないのか。もう古いか。」
「いや、わかるが」
見た目は白髪に数十センチほどの白髭を生やした爺さんが僕の目の前にいる。何やらアニメカルチャーにどっぷり浸っているようだ。
「ははあ、君は情報不足だな、アニメカルチャーは義務教育だぜ。加えて、君が神という概念をどう捉えているかでわしの見た目が変わるんじゃ。君にはおいぼれ爺さんに見えているのか。わしはぴちぴちじゃ。」
「そうかよ。今は関係ないだろ。」
「釣れないな。」
「てかここはどこだよ。」
「えーここは、神の世界。それしかあるまい。君とこうやって会話できるのはこの領域じゃないと無理なんじゃ。しかも、君は一度死んでいる。」
「そうだ。なんで死んだ僕が、ゲームやっている奴らと転生、いや転移してんだ。わけわかんねえよ。」
「いや、転生であっとるぞ。他のものは転移じゃがな。君が死んで、向こう側の魂がこちらへきたという感じじゃ。ここは仮想ゲームをモチーフに作られた第7の世界じゃ。
お主の体を再現することは造作もなかったわい。こうやって、お主と喋れているのも、言語がお主のわかる言語に情報が脳内で書き換えられているんじゃ」
「……まあ、そうだろうな」
「でも、俺がこの世界に来た理由がわからないんだ。それにこの世界では目が見える。見えるんだ。」
「そう興奮すな。わかるぞ、初めての経験はどんなことでも心浮き立つじゃろう。うんうん。だが、それはわしにもわからぬ。」
何言ってんだこのジジイは。
「おい、聞こえとるぞ。少年。」
チッ
「今舌打ちしたな。神様に向かって。神じゃなくとも年配者には優しく接しておくれ。すぐ死んでしまう。いやもう、死んでるのか。かかかっ。ちなみにわしはまだまだ神の中では若いからな。」
「ほんと何言ってんだ。」
僕には爺さんに見えているので、悪あがきだと言えなくもない。
けど、この世界に生を受けたということは何か意味があるのかもしれない。一握りもないチャンスを無駄にはできない。意味を僕自身が、見出してやるんだ。
「何やら嬉しそうじゃな」
僕自身でこの世界でなぜか死ぬ前の姿で転生した意味、そして、地球に戻る方法をきっと見つけてやる。
「あー大事なことを忘れておった」
神はおっとりとした印象から、モノ言えぬ迫力の気が漂っていた。立てない。
「な、なんだよ」
「君は他のものと違って、死んでいる。クリアしたからといって元の世界へ帰れると思うな。「王」が言っていた帰還できる人に君は含まれていない。」
「ああ。」
「なんだか余計なことを言ってしまったかのう。」
「いいや、薄々勘付いてはいたよ。僕は、この世界で人生をやり直せるだけでもありがたいことだと思っている。でも、もう一度、薫に会いたい。だから、何年経ってでも帰る道を探すよ」
「そうか」
「うん」
だんだんと意識が朦朧となる。目の前の人物の人物の認識も朦朧となる。
爺さんから、女性に、犬に、狐に………。認識するごとに揺らいでいる。
「もう時間のようじゃのう。」
最後に一つだけ伝えなければならないことがあった。もう言葉が音となっているかもわからない。どうやって話すっけ。話し方は、えと。………でも、これだけは伝えないと。
「………ありがとう……」
神様が笑った。…気がした。
「わしはいつでも君たちを見守っておる。君はここに来られる条件が整っている。また、機会があればきっと………」
「………」
………ありがとう。
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