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第3章 サフォケイション
3-3 ドライブ
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「ところで、お前達やけに大荷物だが、峡峰に行ってきた帰りだったか? 旅行だったのか?」
ラウディさんが腕を組んだ姿勢で聞いてきた。僕らを乗せた車はファルさんの運転で進む。行き先はまだわかっていない。夜の街中をただただ走る。
「はい、3泊4日で行ってました。シルベーヌさんという方と一緒に行ってたんですが、知ってますか?」
僕の質問にラウディさんは首を捻るだけだった。
「シルベーヌと一緒だったのか!?」
運転席から声が聞こえた。先程、怒りを露わにしていたファルさんだったが、もう収まっていたようだ。ラウディさんは口を尖らせ、眉を顰めている。
「あいつだよ。静寂。あいつ女になっちゃってんだよ! いつだったかな? 2年くらい前にロンドンでばったり会ったんだ。と言うか、たまたま声をかけた女性があいつだったんだよ。『あらぁ、ファルちゃんじゃない』とか言ってさ」
よかった、いつものファルさんだ。そして、そのファルさんの話を聞いて、ラウディさんは「oh……」と頭を抱えた。
「何かの間違いだろ? えぇ? あのミスターブシドーシジマが? 女に? ちょっと待ってくれ、俺はあいつのファンだったんだぞ」
ファンだったのか。あぁ、確かに当時のシルベーヌさんには女性のファンも殺到していたが、その強さに男性も魅了されていたらしい。姉が言っていた。
ラウディさんは知らなかったんだな。静寂さんがシルベーヌさんになった事を。昔から知る人にとっては、さぞ衝撃的だろう。
「いや、本当だぜ。俺たちゃ、ついさっきまで女だと思ってたんだ。いや、まぁ確かに今は女なんだけどよ。静寂さんの時の事も俺は知ってるから、あの強さを目の当たりにしたらもう同一人物だとしか思えねぇんだ」
ドドが半ば興奮気味に語った。
「峡峰でシルベーヌと一緒だったって事は、あいつも戦ったのか? あいつ昔からとんでもなく強いからな! それであの火災か。相当ヤバい戦いだったんだな」
ファルさんは笑いながらそう言った。火災か。あの火災も捏造されている物だろう。もしくは、カーネイジ達の遺体や痕跡を消滅させるために奴らが手を下したのか? だとしたら、やはりサターンズ・リングはまだ生きているのか?
「峡峰では一体何があったんだ? 弟、聞かせてくれるか?」
ラウディさんは先程から僕を「弟」呼んでいる。全然構わないけど。
そして、僕は峡峰での一連の出来事を語った。うまく纏められたかは分からない。奴らが「実験」と称していた公害の事、そして、熊を操る女、イナゴを操る男、土星の環を操る男、燃える狼、猟奇殺人犯の巨人について。後半の方は興奮気味に語ってしまったが。
「殺人鬼ルシッドか。確かに奴は、いつの間にかあの牢獄からいなくなっていた。終身刑を食らっていたのにな。奴を匿っていた上に、薬物、そして実験か。これは間違いなく国家問題だ。放置するわけにはいかない」
ラウディさんが話した直後、それを制する様にファルさんが声を上げる。
「おいおい、待て待て待て待て。嘘だろ、おい……」
ラウディさんが不機嫌そうにファルさんを見る。
「なんだどうしたチビ! ションベンか?」
「違う! ヘリだ! 後ろから追って来てる!」
なんだと!? 僕の心の声と同じ言葉を発したラウディさんがアサルトライフルを持ち、後方を確認する。
確かに、30m後方にヘリが迫ってきている。先程、駅の上空を飛んでいたヘリだ。こんな街中で僕らを追い詰める気か? 下手したら大惨事で、関係ない人も巻き込み兼ねない。
「くそ。街中だぞ。冗談じゃねぇ」
ラウディさんは再び窓から身を乗り出そうとしたが、後部座席からでは位置が悪く、後方に銃を向ける事が出来ない。
「くそ。あー、ミスイブキ? 済まないが、弟の方に行ってもらってもいいか?」
ラウディさんが一颯さんに向けてそう言ったので、一颯さんは慌てて僕の方へと来る。そして2人で一人分の座席になんとか座る。僕はほぼ立つような姿勢で。しかし、ラウディさんが、席を立とうとした瞬間。
――――ダダダダダッ!
「Shit! 撃ってきやがったか!」
後方のヘリから機関銃が撃たれ、ラウディさんは少し体勢を崩した。
「運転はまかせとけ! おっさん、悪いが今はあんたしかいねぇ! 頼む!」
こんな状況だからこそ、ファルさんは素直にラウディさんに告げた。
「あぁ。撃ち落とす」
揺れる車内でも素早く席を移動したラウディさんは、僕の隣、左側の窓から身体を出し、後方のヘリに向けてアサルトライフルを撃つ。
しかし、後方のヘリは頑丈なのか、アサルトライフルの銃弾をものともしない。
「手榴弾で撃ち落とした方が早いか?」
冗談ともつかないような事をラウディさんは言い出した。そして、交差点に差し掛かった時、
「まずい! もう1機きたぞ!」
ファルさんが叫んだ。交差する車線の方からもう1機のヘリが現れ、それはこの車の右側に並走する様に飛んでいる。つまり、僕の目の前にいる。
そのヘリの窓から特殊部隊の人間がマシンガンを構えている。ヘビーマシンガンタイプだ。
「くそっ、どうにかできないのかチビ!」
「これでも飛ばしてんだ! 振り切れない! この先もう曲がれる所もないぞ!」
ラウディさんは背後と右側のヘリを交互に見て叫び、ファルさんも焦っていた。
「ラウディさんに助けられっぱなしになるわけにはいかない。ここは僕に任せてください」
「なんだと? 何をするって言うんだ弟!」
ラウディさんは僕を見て呆れ気味に叫んだ。その声を僕は無視し、窓を開ける。そして、バックパックからある物をとりだす。
目の前のヘリからマシンガンを構えている男は何か叫んでいるようだったが、全く聞こえない。しかし、今にも銃を撃とうとしていた。
僕は後方のヘリも確認する。そして、それを並走するヘリに向かって投げた。樹海突入時に万が一の為に用意していた、長いロープを。
グラインドの力でロープの端を目の前のヘリコプターのローターに何重にも巻き付け、もう一方のロープの端を後方のヘリコプターのローターに何重にも巻き付けた。ロープが絡み合い2つのヘリコプターはお互いに惹かれ合うように接触し、僕らの車の後方で爆発した。
「Jesus Christ……!? おい、弟! なんだ今のは!? 普通にロープを投げてあんなに綺麗に絡まるわけないだろ!」
呆然としていたラウディさんが、僕の両肩を掴み揺さぶる。その間に一颯さんを挟んだ状態で。
「Toll! 想! まさか、今の、グラインドってやつなのか……!?」
ファルさんが運転をしながら片手を上げ、はしゃぐ様に驚いていた。
「はいー。そーですーうー」
僕はまだラウディさんに揺さぶられながらも答えた。そして、ラウディさんはようやくその手を止めた。
「なんて事だ。グラインドか……、まさかレンビーの弟がその力を使うとは。たまげたぜ」
ラウディさんは呆れた様に笑っている。
「全くだぜ。話には聞いた事あったが、まさかこうしてお目にかかれるなんてな! しかも、俺の友達の想が? 最高だぜ!」
ファルさんは心無しかアクセルを踏む力を強め、クルマのスピードは上がったように思えた。
「あぁ、想はすごいんだぜ? 俺も何度も助けられたんだ。俺の自慢のダチだ」
ドドが自慢そうに言ったが、僕が助けた事なんてほとんどない。むしろ助けられっ放しだ。隣に座る一颯さんもニコニコしながら頷いている。
「そうか、わかったぞ。そのグラインドでルシッド達を倒したのか? 可笑しいと思った。いくらあのサムライボーイが強いからと言っても1人じゃ無理だ。2人のタッグプレイか? 最高にクールだな」
ラウディさんはそう言うと、再び僕に握手をしてきた。さっきよりも力強い。カーネイジとの戦いではシクスも協力してくれたのだが、彼の事を説明するとややこしくなるため、敢えて口に出さない事にした。
「って、おい! おっさんいつまでミモザちゃんの隣にいんだよ! さっさと後ろ下がれよ! ミモザちゃんに加齢臭がつくだろが!」
ファルさんが片手で、しっしっとやるようなジェスチャーをした。それに対し、サングラスの上からでも分かるくらいに、睨みを効かしているラウディさん。
「ミスイブキ、済まなかったな。ありがとう。ただ、あのナンパ野郎には気をつけてくれよ」
そう言ってにこっと笑い、元の後部座席へ帰っていった。ファルさんは、ふんと鼻を鳴らし、運転に集中し始めた。
「私、こんなに賑やかなのちょっと楽しいです。危険な状況なのに、変ですよね。シルベーヌさんと一緒だった時とはまた別の楽しさです。こうして公共以外の車でドライブするのも初めてなので」
一颯さんはそう言って微笑んでいる。そうか。確かにすごく賑やかだな。犬猿の仲の2人がいるおかげで。ラウディさんが犬で、ファルさんが猿かな? そう考えていたらなんだか僕も笑ってしまった。
「想、なーにニヤニヤしてんだよ?」
一颯さんの話を聞いて自分だってにやけていたくせに、ルームミラー越しに僕が笑っているのを目敏く見てファルさんは言った。
「いや、2人ってなんか犬と猿みたいだなって。でも、2人が来てくれて本当に助かりました。すごく心強くて」
一颯さんも、犬猿の仲ですもんねと笑い始めた。当の二人は納得がいかないように、顔を顰めていたが、僕ら2人とそしてドドも笑い始めるとやがて笑顔になった。
「ところで、ファルゼンさん。さっきから気になってたんだが、これからどこに向かうんだ?」
後部座席のドドが運転席のファルさんに向かって話し掛けた。
「おう! 百々丸さん、だったよな? とりあえず高速に乗って、サービスエリアで1回休憩を取ろうと思う。と、その前にやっとく事がある」
そう言ってファルさんは車を路肩に停車させ、運転席から降り、車の前方と後方に素早く回り込んでいた。そして、運転席に戻り、すぐに車を再び発進させた。
「ほれ。こういうわけなんだ。奴ら、たぶんナンバー記録してただろうからさ」
そう言ってファルさんは手に持つ物を見せた。それはナンバープレートのステッカーだった。
「お前、ナンバー偽装してたのか」
ラウディさんが呆れたように笑った。そんな犯罪に近い事をしてたなんて。それもこれも僕らの安全を確保するため。ファルさんは昔からそうだ。能天気そうでいて、いつも万全の準備をしている。変わらぬ彼に僕は安堵する。
「はは、まぁステッカー貼ったのはあの駅に突っ込む前だったしな。これから高速に入るから、3人は休んでろよ? 疲れてるだろうしな。おっさんは起きてろよ? ちゃんと周り見張っとけ!」
「あぁ、わかってる。そのつもりだ。弟、ちゃんと休めよ? ミスタードドマル、お前もだ。ひどい傷みたいだしな」
ドドは笑って返したが、それでも僕らは少しでも睡眠を取っておこうと、2人の厚意に甘える事にした。本当に、心強い人達だ。
ラウディさんが腕を組んだ姿勢で聞いてきた。僕らを乗せた車はファルさんの運転で進む。行き先はまだわかっていない。夜の街中をただただ走る。
「はい、3泊4日で行ってました。シルベーヌさんという方と一緒に行ってたんですが、知ってますか?」
僕の質問にラウディさんは首を捻るだけだった。
「シルベーヌと一緒だったのか!?」
運転席から声が聞こえた。先程、怒りを露わにしていたファルさんだったが、もう収まっていたようだ。ラウディさんは口を尖らせ、眉を顰めている。
「あいつだよ。静寂。あいつ女になっちゃってんだよ! いつだったかな? 2年くらい前にロンドンでばったり会ったんだ。と言うか、たまたま声をかけた女性があいつだったんだよ。『あらぁ、ファルちゃんじゃない』とか言ってさ」
よかった、いつものファルさんだ。そして、そのファルさんの話を聞いて、ラウディさんは「oh……」と頭を抱えた。
「何かの間違いだろ? えぇ? あのミスターブシドーシジマが? 女に? ちょっと待ってくれ、俺はあいつのファンだったんだぞ」
ファンだったのか。あぁ、確かに当時のシルベーヌさんには女性のファンも殺到していたが、その強さに男性も魅了されていたらしい。姉が言っていた。
ラウディさんは知らなかったんだな。静寂さんがシルベーヌさんになった事を。昔から知る人にとっては、さぞ衝撃的だろう。
「いや、本当だぜ。俺たちゃ、ついさっきまで女だと思ってたんだ。いや、まぁ確かに今は女なんだけどよ。静寂さんの時の事も俺は知ってるから、あの強さを目の当たりにしたらもう同一人物だとしか思えねぇんだ」
ドドが半ば興奮気味に語った。
「峡峰でシルベーヌと一緒だったって事は、あいつも戦ったのか? あいつ昔からとんでもなく強いからな! それであの火災か。相当ヤバい戦いだったんだな」
ファルさんは笑いながらそう言った。火災か。あの火災も捏造されている物だろう。もしくは、カーネイジ達の遺体や痕跡を消滅させるために奴らが手を下したのか? だとしたら、やはりサターンズ・リングはまだ生きているのか?
「峡峰では一体何があったんだ? 弟、聞かせてくれるか?」
ラウディさんは先程から僕を「弟」呼んでいる。全然構わないけど。
そして、僕は峡峰での一連の出来事を語った。うまく纏められたかは分からない。奴らが「実験」と称していた公害の事、そして、熊を操る女、イナゴを操る男、土星の環を操る男、燃える狼、猟奇殺人犯の巨人について。後半の方は興奮気味に語ってしまったが。
「殺人鬼ルシッドか。確かに奴は、いつの間にかあの牢獄からいなくなっていた。終身刑を食らっていたのにな。奴を匿っていた上に、薬物、そして実験か。これは間違いなく国家問題だ。放置するわけにはいかない」
ラウディさんが話した直後、それを制する様にファルさんが声を上げる。
「おいおい、待て待て待て待て。嘘だろ、おい……」
ラウディさんが不機嫌そうにファルさんを見る。
「なんだどうしたチビ! ションベンか?」
「違う! ヘリだ! 後ろから追って来てる!」
なんだと!? 僕の心の声と同じ言葉を発したラウディさんがアサルトライフルを持ち、後方を確認する。
確かに、30m後方にヘリが迫ってきている。先程、駅の上空を飛んでいたヘリだ。こんな街中で僕らを追い詰める気か? 下手したら大惨事で、関係ない人も巻き込み兼ねない。
「くそ。街中だぞ。冗談じゃねぇ」
ラウディさんは再び窓から身を乗り出そうとしたが、後部座席からでは位置が悪く、後方に銃を向ける事が出来ない。
「くそ。あー、ミスイブキ? 済まないが、弟の方に行ってもらってもいいか?」
ラウディさんが一颯さんに向けてそう言ったので、一颯さんは慌てて僕の方へと来る。そして2人で一人分の座席になんとか座る。僕はほぼ立つような姿勢で。しかし、ラウディさんが、席を立とうとした瞬間。
――――ダダダダダッ!
「Shit! 撃ってきやがったか!」
後方のヘリから機関銃が撃たれ、ラウディさんは少し体勢を崩した。
「運転はまかせとけ! おっさん、悪いが今はあんたしかいねぇ! 頼む!」
こんな状況だからこそ、ファルさんは素直にラウディさんに告げた。
「あぁ。撃ち落とす」
揺れる車内でも素早く席を移動したラウディさんは、僕の隣、左側の窓から身体を出し、後方のヘリに向けてアサルトライフルを撃つ。
しかし、後方のヘリは頑丈なのか、アサルトライフルの銃弾をものともしない。
「手榴弾で撃ち落とした方が早いか?」
冗談ともつかないような事をラウディさんは言い出した。そして、交差点に差し掛かった時、
「まずい! もう1機きたぞ!」
ファルさんが叫んだ。交差する車線の方からもう1機のヘリが現れ、それはこの車の右側に並走する様に飛んでいる。つまり、僕の目の前にいる。
そのヘリの窓から特殊部隊の人間がマシンガンを構えている。ヘビーマシンガンタイプだ。
「くそっ、どうにかできないのかチビ!」
「これでも飛ばしてんだ! 振り切れない! この先もう曲がれる所もないぞ!」
ラウディさんは背後と右側のヘリを交互に見て叫び、ファルさんも焦っていた。
「ラウディさんに助けられっぱなしになるわけにはいかない。ここは僕に任せてください」
「なんだと? 何をするって言うんだ弟!」
ラウディさんは僕を見て呆れ気味に叫んだ。その声を僕は無視し、窓を開ける。そして、バックパックからある物をとりだす。
目の前のヘリからマシンガンを構えている男は何か叫んでいるようだったが、全く聞こえない。しかし、今にも銃を撃とうとしていた。
僕は後方のヘリも確認する。そして、それを並走するヘリに向かって投げた。樹海突入時に万が一の為に用意していた、長いロープを。
グラインドの力でロープの端を目の前のヘリコプターのローターに何重にも巻き付け、もう一方のロープの端を後方のヘリコプターのローターに何重にも巻き付けた。ロープが絡み合い2つのヘリコプターはお互いに惹かれ合うように接触し、僕らの車の後方で爆発した。
「Jesus Christ……!? おい、弟! なんだ今のは!? 普通にロープを投げてあんなに綺麗に絡まるわけないだろ!」
呆然としていたラウディさんが、僕の両肩を掴み揺さぶる。その間に一颯さんを挟んだ状態で。
「Toll! 想! まさか、今の、グラインドってやつなのか……!?」
ファルさんが運転をしながら片手を上げ、はしゃぐ様に驚いていた。
「はいー。そーですーうー」
僕はまだラウディさんに揺さぶられながらも答えた。そして、ラウディさんはようやくその手を止めた。
「なんて事だ。グラインドか……、まさかレンビーの弟がその力を使うとは。たまげたぜ」
ラウディさんは呆れた様に笑っている。
「全くだぜ。話には聞いた事あったが、まさかこうしてお目にかかれるなんてな! しかも、俺の友達の想が? 最高だぜ!」
ファルさんは心無しかアクセルを踏む力を強め、クルマのスピードは上がったように思えた。
「あぁ、想はすごいんだぜ? 俺も何度も助けられたんだ。俺の自慢のダチだ」
ドドが自慢そうに言ったが、僕が助けた事なんてほとんどない。むしろ助けられっ放しだ。隣に座る一颯さんもニコニコしながら頷いている。
「そうか、わかったぞ。そのグラインドでルシッド達を倒したのか? 可笑しいと思った。いくらあのサムライボーイが強いからと言っても1人じゃ無理だ。2人のタッグプレイか? 最高にクールだな」
ラウディさんはそう言うと、再び僕に握手をしてきた。さっきよりも力強い。カーネイジとの戦いではシクスも協力してくれたのだが、彼の事を説明するとややこしくなるため、敢えて口に出さない事にした。
「って、おい! おっさんいつまでミモザちゃんの隣にいんだよ! さっさと後ろ下がれよ! ミモザちゃんに加齢臭がつくだろが!」
ファルさんが片手で、しっしっとやるようなジェスチャーをした。それに対し、サングラスの上からでも分かるくらいに、睨みを効かしているラウディさん。
「ミスイブキ、済まなかったな。ありがとう。ただ、あのナンパ野郎には気をつけてくれよ」
そう言ってにこっと笑い、元の後部座席へ帰っていった。ファルさんは、ふんと鼻を鳴らし、運転に集中し始めた。
「私、こんなに賑やかなのちょっと楽しいです。危険な状況なのに、変ですよね。シルベーヌさんと一緒だった時とはまた別の楽しさです。こうして公共以外の車でドライブするのも初めてなので」
一颯さんはそう言って微笑んでいる。そうか。確かにすごく賑やかだな。犬猿の仲の2人がいるおかげで。ラウディさんが犬で、ファルさんが猿かな? そう考えていたらなんだか僕も笑ってしまった。
「想、なーにニヤニヤしてんだよ?」
一颯さんの話を聞いて自分だってにやけていたくせに、ルームミラー越しに僕が笑っているのを目敏く見てファルさんは言った。
「いや、2人ってなんか犬と猿みたいだなって。でも、2人が来てくれて本当に助かりました。すごく心強くて」
一颯さんも、犬猿の仲ですもんねと笑い始めた。当の二人は納得がいかないように、顔を顰めていたが、僕ら2人とそしてドドも笑い始めるとやがて笑顔になった。
「ところで、ファルゼンさん。さっきから気になってたんだが、これからどこに向かうんだ?」
後部座席のドドが運転席のファルさんに向かって話し掛けた。
「おう! 百々丸さん、だったよな? とりあえず高速に乗って、サービスエリアで1回休憩を取ろうと思う。と、その前にやっとく事がある」
そう言ってファルさんは車を路肩に停車させ、運転席から降り、車の前方と後方に素早く回り込んでいた。そして、運転席に戻り、すぐに車を再び発進させた。
「ほれ。こういうわけなんだ。奴ら、たぶんナンバー記録してただろうからさ」
そう言ってファルさんは手に持つ物を見せた。それはナンバープレートのステッカーだった。
「お前、ナンバー偽装してたのか」
ラウディさんが呆れたように笑った。そんな犯罪に近い事をしてたなんて。それもこれも僕らの安全を確保するため。ファルさんは昔からそうだ。能天気そうでいて、いつも万全の準備をしている。変わらぬ彼に僕は安堵する。
「はは、まぁステッカー貼ったのはあの駅に突っ込む前だったしな。これから高速に入るから、3人は休んでろよ? 疲れてるだろうしな。おっさんは起きてろよ? ちゃんと周り見張っとけ!」
「あぁ、わかってる。そのつもりだ。弟、ちゃんと休めよ? ミスタードドマル、お前もだ。ひどい傷みたいだしな」
ドドは笑って返したが、それでも僕らは少しでも睡眠を取っておこうと、2人の厚意に甘える事にした。本当に、心強い人達だ。
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