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70: 帰宅するまでがデビュタントです。

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揺れる。頭が揺れる。世界が揺れる。

俺の世界に、ジュリアがいる喜び。愛がある歓び。


泥酔ほろ酔いの俺がフワフワとした気分で世界の揺れを楽しんでる間に、ジュリアは俺を抱えて飛ぶように小径を進み、馬車へと飛び込んだ。

「へへへ、じゅりぁ~♪」

「楽しそうだな、ネオン…。はぁ~ぁ…もっと普通のデビュタントにしてやりたかったんだが…まぁ、本人が楽しんだみたいだし、いっかー…。」

何処と無くクッタリと疲れを見せるジュリアの膝に跨がり、俺は馬車の振動をリズムに鼻歌を歌う。

段々楽しくなって、蛍光イエローのメッシュに包まれた手をヒラヒラさせて、スカイブルーの爪が綺羅綺羅煌めくのに背中押されて、どんどん楽しくなって、どんどん踊りは本格的に、鼻歌はすっかり歌になって……。

気が付けば馬車の中、俺はジュリアが支えてくれるのを良いことに、ポールダンスを踊る踊り子達みたいにぐりんぐりんと仰け反って踊っていた。

「あはは♪」

サラリと髪が馬車の向かいのシートを撫で、青い爪先が馬車の床を掠めるのが楽しくて、笑いがこみ上げる。

「うわ、ネオン…!……おいネオン!……ったく、こら!……ネオン!……ネオン!?……ネーオーンー!……」

あっちにダラン、こっちにダラン。俺が仰け反る度に慌ててジュリアが俺の手を掴み、背中に手を回し、首の後ろを掴んで掬い上げる。
俺が右や左にキスを落とす度、嬉しそうに受け入れてくれる。

俺がキスをねだる度、優しくキスを落としてくれる。

君のカタチが好きと歌う俺を見詰めるジュリアの瞳に、俺への欲を感じるのが嬉しい。

俺を捕まえる手が、微かな欲と、宝物を触る様な気遣いに満ちているのが嬉しい。

そっと、俺のフェロモンを肺に満たし、瞳を恍惚に細めるのが嬉しい。

もういっそ、このまま俺の項を噛んでくれても良いのに。
君になら、喩えいつか見向きもされなくなって、噛み痕だけを背負って独りでゆくことになろうとも後悔しない。そう思えるから。

今までだって、一人でヒートを耐えてきたしね。

もう、デビュタントも終わり、貴族として成人的な扱いを受けれる様になった俺は、このまま平民になる気満々だった。
なんなら学園すら、もう卒業しなくて良いんじゃない?みたいな。

そんな考えだったから、てっきりこのままアパートに帰って、俺のハジメテをジュリアにあげる感じなんだとばかり。

所がどっこい、アルコールでマダほわんほわんする俺を優しく馬車から降ろしてジュリアがエスコートしてくれた先は、高級キャバレー"ダンカン"だった。

「ほへ。な、んで…?」

恋心に乙女心、虹の玉にオーロラに玉綴りにビアホップに…踊り子の友人達が勢揃いな上、キャバレー"テルカズヨシダ"のマスターまで居る。

「「ネオン!デビュタントおめでとう!!!」」

ポン!ポーン!!とあちこちでシャンパンが威勢の良い音を鳴らして開けられる。
その、夜会の出来るだけ音を抑える開け方とは真逆の風情に、思わずホッと溜め息を洩らして俺は微笑んだ。

「今日はジュリアがアンタの為にダンカンを貸し切ったのよ!さぁ、アタシらとも踊りましょ!!」

ぐいっと注がれたシャンパンを呷って恋心が弾ける笑顔で手を差し出す。
思わずその手を取れば、もう片側の手を乙女心が引っ張って、他の友達達も俺のあちこちを引っ張って、俺はあれよあれよと言う内にステージの中央に立っていた。

「今日位、アンタも誰かのリズムで踊んなさいヨ♪」

ダンカンのバンドメンバー達が試し演奏を始め、戸惑う俺に虹の玉が笑って言う。他の踊り子達も、ここぞとばかりにダンカンの高級なステージに群がり、あちこちに好きなポーズでスタンバイし始める。

「ネオン♪ほら踊れ踊れー♪」「ねぇねぇ、貴族の躍りって男女がペアになるんでしょ?」「固いコト言わないの♪アタシら貴族の躍りなんて知らないじゃない♪ほらネオン、スポットライトよ!」

ドラムロール。前奏。

曲はキャバレー定番の曲。いつもは弾く側だけど、今日は皆に背中押されて俺も踊り子デビューだ。

「ヘィブラザー♪ソウルブラザー♪ゴー♪ブラザー♪」

皆揃って肩を竦め、見えない帽子を傾ける。

俺を隠すように皆が集まって、艶やかな声で乙女心が歌えば、テルカズヨシダの常連達が手拍子を叩き、ダンカンの本来のショーガール達がツンと顎を上げてシャンパンを舐めながら鋭い視線を寄越す。

「モカショコラータ♪Ya-Ya♪」

そんな厳しい視線をウィンクで相殺して皆でゆっくり腰を下げれば、何だか怖いものなんか何にも無い気がして、俺達はその後も、心行くまで踊り続けた。



「ちょっとジュリア……。ネオン何で酔っ払ってるの?夜会では飲ませないから、代わりにこのパーティを用意したんでショ?泥酔じゃない…。」

「ちょっと目を離した好きに、偶々来てたトランペットのピンキーが飲ましたらしくてな。…まぁ、楽しんでるみたいだから、もう今日は好きにさせることにしたんだ。」

「あらあら…。」

「お仕置きは明日、たーーっぷりしてやろうと思ってな♪」

「あらあら…。」


なんて、心配そうなテルカズヨシダのマスターと何処か不穏な笑みを浮かべるジュリアがホールの端でヒソヒソ会話してるなんて全然気付かずに、俺は沢山踊り、沢山飲み、沢山食べ、沢山祝われ、沢山ハグし、沢山ハグされ、最っ高に楽しく幸せなデビュタントを過ごしたのでした。

エヘヘー!楽しい!ジュリアありがとーー♡

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