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王都の状況

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 王都ベルンの市場は国が内戦中なこともあるが、それにしても活気がなかった。

 商人たちもまばらに点在し、物を売るだけで、呼び込みなどはしていない。ペルセウスを始めとした現政権が、軍備拡張のためにそこかしこで重税をかけているためであった。

 ゆえに街には傭兵や兵士が我が物顔で闊歩し、住民たちは端で歩く始末だ。

 だからであろうか、王都であっても荒くれ者たちのせいでトラブルも絶えなかった。

 その時も王都の路地裏の一角で、力を持て余した兵士たちが一人の女性をからかっていた。

「おいおい、お嬢さん。こんな暗い所で独りであるいていたら危ないぜ? 俺たちが案内してやるよ」

「いえ、そんな結構です......」

「そんなこと言うなよ? 俺らこの辺に結構詳しいんだぜ? なんだったらいい店とかも紹介するからよ? ちょちょっと一緒にご飯でも?」

「なんだったらその先も?」

「いや、離して......」

「お~う、そんな可愛い声聞かされちゃうと、おじさん変になっちゃうかも~」

「ぎゃはっはっは!」

 男たちの下卑た笑い声と少女の嫌がる声が路地裏に響くも、誰かが助けに来る様子はなかった。遠巻きにちらちらと様子を伺うものはいたが、誰も関わり合いになりたくないのである。

「なあ~いいじゃん行こうぜ~」

「いった! 貴様!」

「あん?」

 男たちはぽかんとした。さっきまで無抵抗な少女の様子が急に殺気を帯びたのだ。

「そこまでにした方がいいんじゃないか?」

 急に背後から男の声がした。

「なに?」

 男たちが振り向くと、そこには二人の男がいた。二人とも背が高く、黒の服を着ている。腰に佩いた剣は彼ら剣士であることを示していた。

 男のうちの小麦色頭の軽薄そうな男が、指を差しながら口を開いた。

「言っとくが、あんたらを気遣ってるんだぜ? このままだとひどい目にあうのはあんたらの方だからな」

「いうじゃねえかてめえら。この人数相手にどうにかなるとでも思ってんのか?」

 男たちが剣に手をかける。彼らは5人もいるのだ。たった二人の男なぞ簡単に倒せると思っていた。

「おい、その女が逃げないように抑えてろ」

「あいよ~」

 男の一人が少女の背中に回って羽交い絞めにした。そのとき少女のフードが取れ、銀色の髪が露になった。

「あっ!」

「馬鹿!」

 二人組の男が焦ったように声を出した。

「うごお!」

 突然背後からくもぐった悲鳴が聞こえて、男たちは振り向いた。そこには先ほどまでか弱い様子だった少女に、鳩尾に肘鉄を食らわされて、立ったまま白目をむいている男がいた。

「な......な......」

 あまりの光景に男たちは二の句が継げずにいた。目の前の光景が信じられなかったのだ。

 だが、本来ならぼーっとしている暇なぞないのだ。

「ぐえっ!」

「ぎゃっ!」

 今度は二人組の男たちが動いた。背後から一発ずつ鉄拳を食らわさせて、一撃で鍛えられた男たちを沈めていた。

「てめえら!」

 残りの二人の兵士たちが剣を抜こうとするがもう遅い。黒服の男たちは手際よく素手で兵士たちの腕を抑え、地面に叩きつけ、あるいは殴り倒してしまった。

 黒服たちの男たちは申し訳なさそうに、銀髪の少女に近づいた。

「悪い悪い。助けるのが遅れた」

「まったくだ! 見ろ!」

 少女は自分の腕を見せつけた。

「鳥肌が立ったわ! あんな奴らに触られたなどと、ええい気色悪い!」

「落ち着いてくれ、アイネ」

「お前らが早く助ければこんなことにならんのだ! 何のための変装だ! 私が戦っていては意味ないだろう。レツ! ラング!」

「面目ない」

「ま、気にするな。騒ぎにはならなかったんだ」

「騒ぎになっていたら最悪私たちは殺されてしまうわ! 何のためにこっそりと忍び込んでいると思っているのだ!」

 路地裏で柳眉を逆立てているのはアイネ、怒られている二人組の男は烈とラングだった。彼らはまんまと王都ベルンに忍び込むことに成功していたのだった。
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