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唐突なる別離
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しおりを挟むその発想はなかった。
というか、言われてみればその通りだった。
転生前の世界でも、悪魔と呼ばれる存在の中には、他の宗教の神や、著名な王が名を連ねていた。
つまり、信仰の邪魔となる存在は悪魔だと、人間側の都合で決めたということだ。
「つまり、スピルスが人間の敵であったとしても、話が通じないとは限らない……と」
顔を上げてメモリアとアルビオンに尋ねると、2人はにっこりと笑った。
「スピルスがヴァニタスの話を聞かないとか、ないない。絶対ない。俺はアイツのこと好きじゃないけど、それだけはないって誓って言うよー」
「スピルスの場合、むしろどんな我儘でもヴァニタスの我儘なら聞いちゃいそうなのが怖いところだけどね」
つまり、話し合いの席を設ければ、応答してくれる可能性がある……が。
「それにはセオドアを何とか説得しなくちゃいけないのか……」
それが一番難問かもしれない。
セオドアに正論で説き伏せられたら、俺は反論できない。
かといって、俺はこの屋敷を離れられない。
「あのさ、前にヴァニタス言ってたじゃん。『暴力は大抵のことは解決する』って」
それはうっかり口走ってしまった転生前のネットスラングだよアルビオン。
「あの王様と決闘してみたらどう? 勝ったらスピルスとの話し合いの場を設けるという約束で」
け……決闘!?
「場所は此処を提供するわ。いいじゃない、本来であれば殺されてる男でしょ? うっかり殺しちゃっても誤差よ誤差」
メモリア、君がゴーストだったことを忘れてたよ……最近。
「俺が殺される可能性は!?」
「もちろんゼロじゃない。ヴァニタスの領域魔法がないと自分が困るから、適度に加減はするだろうけど……カッとなりそうだからな、あの王様」
メモリアがふわふわと飛んできて、冷たい両手で俺の頬を包む。
「ヴァニタス。大人しくしてちゃダメよ。たまには噛みつかなければダメ。相手はかつてこのラスティルを統べた王様よ。油断したら支配されるわ」
あー。
今の状況って、もしかして、アレか。
何があろうが定時で帰る。
繁盛期だろうが人手が足りなかろうが休みたい時は休む。
休日出勤とか絶対にしないA。
サービス残業やサービス早出は当たり前。
休日出勤は笑顔で引き受け、人手が足りない時は率先してシフトに入ってくれるB。
AとBが同じ日に休みたいという申請を出した時、
「Bはいつも頑張ってくれるからBを優先して……」
ということは、残念ながら……ない。
支配しやすいのも、説得しやすいのもBだからだ。
上司はAに休みを譲るよう、Bを説得する。
そして、いつまでもBの不遇は改善されない。
上司はBを完全に支配下に置いていると思っているし、Bの方も良い子と言えば聞こえはいいが、奴隷根性が染みついてしまっている。
確かに俺は、セオドアが王様であることに萎縮していたし、前世での非正規雇用の奴隷根性が姿を見せてしまっていた気がする。
「それに、このままスピルスに会えないままでいいの? あんたもスピルスのことが……」
「うん……好き、だ」
こうなってみて、やっと気づいた。
俺はスピルスが好きだ。
スピルスが魔物だろうが悪魔だろうが関係なくて……スピルスはスピルスだから、好きなのだ。
俺はギュッと拳を握り締める。
「俺、やる。セオドアに決闘を申し込む。このまま、スピルスと会えないまま、話せないまま物語が終わってしまうのは絶対に嫌だ。だったら殺される可能性があっても、俺は戦う」
メモリアとアルビオンは俺の言葉を聞いて笑った。
「それでこそヴァニタスだよ。誰かに従順に従ったままなんてヴァニタスらしくない」
「私に立ち向かってきたように、勇敢に強敵に立ち向かうヴァニタスが、私は好きよ」
俺は間違っていた。
望むものがあるならば、お姫様のように大人しく待っていちゃダメだ。
俺自身の手で勝ち取らなければ……。
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