モラトリアムは物書きライフを満喫します。

星坂 蓮夜

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会談―午前―

05

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「俺はむしろ、お前について聞きたいんだけど……柚希」
「英雄様ってば、お兄さんに質問? いいよいいよ、何でも聞いて」

 アルビオンがピクピクと顔を引きつらせながら言う。

「その姿が前世の姿という事は、今はスライムが本体という解釈でいいの?」
「そーそー。前世の自分をイメージして、その姿に変身してるの」

 柚希がコクコクと頷く。
 この大きなリアクションは確かにあの賑やかしいスライムだ。

「だから、ほら」

 柚希がクルンと回ると、手品のように彼の姿が一変した。

 クセのない肩まで伸ばした長い黒髪をハーフアップにして、金色の瞳に美しいけど冷酷な印象の悪人面。
 白い司祭服にストラを纏った俺……ヴァニタス・アッシュフィールドの姿へと、柚希の姿は変わった。
 どう見ても鏡に映った俺の姿だった……喋り出すまでは。

「お兄さんが見てる人や知ってる人ならこんな風に変身しちゃえるよ。スピルス君見て見て、ヴァニタス君だよ。惚れちゃう? 欲情しちゃう? お兄さん困っちゃうなぁ……」

 たちまち冷酷な悪人面が破顔して、ほにゃらっとした表情になる俺に変身した柚希。

「ヴァニタス、わかりますか? 同じ外見でも中身がコレだったら、私は貴方に惚れ込みません。魔王のご機嫌取りの役目も貴方に全部押しつけて、私はラスティル王国を離れます。外見はあまり関係がないんですよ。中身が貴方だから、私は貴方を愛しているんです」

 スピルスは俺に変身した柚希を指差しながら、良い笑顔で熱弁する。
 しかも真っ正面からの告白も込みで。
 俺は恥ずかしくて、顔が熱くて堪らなかった。

「俺……も。中身がお前だから好き。お前に会えない間に柚希がお前の姿に変身してくれたとしても、やっぱり俺が好きなのは、中身も含めてスピルス・リッジウェイだから」
「あれ、お兄さんダシにされてる? 惚気話のダシにされてる?」

 柚希は再びくるりと回ると、前世の自分の姿に戻る。

「スライムは不定形だからね。決まった形はないし、逆に言えば、中身の俺が見知っていれば、どんな姿にもなれる」
「この前の雨の日は、腕を刃に変えたってこと?」
「アルビオン君は頭が良いね。そーそー、右腕が透明になって消えたように見えたかもしれないけど、あの時は右腕を透明な刃に変えたんだ」

 スッと柚希の姿が消える。
 スライムの姿もない。

「今お兄さんは前世の人間の姿のまま、透明化してる。もちろんスライムの姿でも透明化は可能だし、片腕や両腕を透明化したまま刃に飼えて攻撃することも可能。スライム状態だと触手みたいに刃をウニュッと伸ばして攻撃したりもできちゃう」

 パチンと指を鳴らすと柚希は姿を現した。

「透明化は他のスライムでも出来るよ。変身は多分お兄さんじゃないと出来ないかなぁとは思うけど」
「隠密行動にはピッタリのスキルなんだけど……中身が伴ってないなー」
「ちょ……3人揃ってお兄さんの中身全否定? お兄さん泣いちゃうよ。ワンワン泣いちゃうよ」
「むしろこの程度のいじりで済むだけ感謝してください。ヴァニタスの服の中に入っていたというだけで、刺身にされたって仕方がない大罪人だと思っていますよ、私は」

 柚希とアルビオンの会話に、笑顔を貼りつけたスピルスが割り入って行く。

 そ、そうか。
 俺の服の中に入っていた時はスライムだから仕方ないなーと思っていたんだけど。
 だからアイツが俺の身体を這い回ったりしても仕方がないなーと思ってたんだけど。
 でもアレはよく考えたらこの柚希なワケで……。

 気づいた俺が真っ赤になって俯いて顔を伏せ、ソファの上で体操座りをすると、スピルスが多分何かすごい魔法を詠唱しかけて、慌てたアルビオンに止められていた。

 想像してた緊張感溢れる会談と違う。
 それもこれも、だいたい柚希のせい。


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