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第十二話 この国の王子様も、噂通りユニークな人で出会えて感激だよ
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「哲朗おじさんも参加してみたら?」
「俺なんかが参加したら邪魔になりそうっていうか絶対ちょっかい出してヤバいことになりそうなんで、やめておきまーす」
次の休日、コリルとコスヤはコキアダワさんのパン作り教室に参加。
哲朗は一人でロブウトツネの中心街をぶらぶらすることにした。
ここ最近、俺がよく着るサロペット姿の人が増えてる気がするなぁ。オーバーオールってのもあってサロペットとは微妙に違うみたいだけど俺にはその違いよく分からないなぁ。
若者に人気のお店が多く集まるという、原宿竹下通りのような感じの通りを歩き進んでいると、
「あっ! 哲朗だ!」
「ぃやぁ~ん、マジじゃん」
「きゃあああああっ~、ヤバいヤバいヤバぁい」
「ヤバいよヤバいよ」
いろんな種族のサロペット姿な、食べ歩き用のドリンクやお菓子なんかも持っていた女子高生達(この世界ではギム女生と呼ぶ方が相応しいだろう)が哲朗の周りに群がってくる。似顔絵も描かれてしまった。
「やっほー哲朗っち、今ね、哲朗っちのおかげでロブウトツネはサロペットが超流行ってるんだよ」
「うちら向けやもっと年下向けのファッション誌にもヤバいくらい特集されてたよ、スイカヘルメット被った哲朗のイラスト付きで」
「動きやすくて普段着にも農作業用にもどっちにも快適だから最高♪ 魔物狩り用の服にも最適ってパパもママもお祖父ちゃんお祖母ちゃんも喜んでた。マジヤバい」
「そりゃ嬉しいな」
「哲朗の日本でもサロペ流行ってんの?」
「いやぁ、流行ってるってことはないけど、俺みたいに愛用してる奴はわりといるよ。俺の芸人仲間で、料理食った時『まいう~』が口癖の石塚英彦、愛称いっしゃんとか」
「何それ? その人会ってみた~い」
「哲朗っち、その人の似顔絵描いてみて」
「俺絵は下手だから無理だよ。まあ、でぶが売りのおっさんだよ」
「超気になるぅ」
「想像で描いてみた♪」
ギム女生の一人がイラストを手渡してくれる。
「おう! わりとそっくりっすよ。こんな感じ、動物みたいな耳はついてないけど。ところでお嬢さん達、日本ではタピオカドリンクっていうのが女子高生、きみ達くらいの年の子に人気なんだけど、ここでも似たような感じの黒い粒が入ったドリンクが人気みたいだね」
「この黒い粒はね、マーボーの卵なんだ。甘くて超美味しいよ。あそこのお店で売ってる」
「哲朗っち飲んだら絶対ヤバいよヤバいよって言っちゃうくらいの美味さだよ」
「そうなんだ、飲んでみたいな」
「蝙蝠の干物入りチョコドーナッツやパンケーキやクレープも最高だよ。それも同じ店に売ってるぅ~♪」
「カムラオの目玉入りマカロンもおススメだよ。噛みごたえ最高♪」
あのグロテスクなカエルの卵に、蝙蝠の干物に、カムラオの目玉とか。日本の女子高生と同い年くらいの子達が平然と飲んで食べてるって、食文化が違い過ぎてヤバいよヤバいよ。でもきっと美味いんだろうな。
超ご機嫌な哲朗、ギム女生達に別れを告げると、そのお店に向かったが、
女子高生、じゃなくてそれと同年代の子達やカップルが並んでる中で、おっさんが一人で並ぶのもちょっと恥ずかしいなぁ。
後ろめたさを感じて購入を諦め、引き続き通りを歩き進んでいく。
「かき氷とかアイスも売られてるじゃん。すみません、店員のお姉さん、この氷はどこから入手してるんっすか?」
「高山の洞窟に、年中溶けない場所があるから、そこからドラゴンにここまで運んでもらって、この店の地下にある氷室で貯蔵してるの。哲朗さんの出身地は、冬以外の氷って珍しいんですか?」
「いやぁ、俺のいた世界には冷蔵庫っていうより便利なものがあるんっすよ。電気で動く機械なんっすけど、冷凍室に水を入れておくだけで年中いつでも氷が出来ます」
「へぇ。どんなものか想像出来ないけど、ヤバいものがあるんだね」
リスのような耳と尻尾の付いたお姉さんは興味深そうにしていた。
哲朗は店員さんおススメのフルーツアイスを購入。
「めっちゃ美味いじゃん♪ アイスの美味さは日本より上だよ」
哲朗はご満悦でさらに通りを歩き進んでいく。
ロブウトツネの観光ガイドブックによると、この通りには休日ともなると地元のみならずワガデ王国中から多くの若者達や家族連れ、観光客が集まって来るという。
平日昼間でも学校をサボって屯している悪い子達も多いらしいが。
ゴミ箱に食べかけのパフェとかアイスとかドリンクとか、無造作に捨てられてるな。一部はみ出して散乱してるし。あっ、あれはダメだろ。
「こらーっ、おまえら。食べ物を粗末にしちゃダメだろ」
マナーの悪い行為を目撃した哲朗は、さっそく注意する。
髪の毛をピンクや緑や金や銀に染め(この世界のことだから地毛かもしれないが)、マニキュアが塗られ、可愛らしいキーホルダーなんかが付けられたバッグやリュックを背負い、靴もデコられていて、派手な服装をしていたいろんな種族のギム女生らしき若い女の子達の集団がスイーツやドリンクを食べかけ飲みかけでポイ捨てしたのだ。
「ヤッバ、哲朗だ」
「きゃぁ~ん、ヤバいよヤバいよぉ~♪」
「これ、イラスト映えするからそれ目当てだし」
「絵に描いたらもう用ないよね」
「食べ切れないよ、こんないっぱい。哲朗と同じで喉が赤ちゃんだもぉん」
「スイーツカベマさん監修のやつ特にボリューム凄いよね、超美味しいけど」
「みんなやってるよ、なんであたしらだけ注意されなきゃなんないの? 理不尽~」
「哲朗だって顔パイ芸やって食べ物粗末にしてるじゃん。スイーツカベマさんにお仕置きされてたじゃん」
「「「そうだ、そうだ」」」
「あれはな、あのあとちゃんと拭き取って全部美味しくいただいてるんだよ」
「哲朗、犬か猫か猿みたぁい♪」
「とにかく、日本でもインスタ映え目当てで買ったタピオカミルクティーとか、飲みかけでポイ捨てするきみらくらいの子達がいて社会問題になってるんだよ」
「うちら日本のうちらくらいの子達と共通ってわけか。嬉しい♪」
「喜んじゃダメなんだよ。恥ずかしいことだと思わなきゃ」
「恥ずかしいなんて、全然思わなぁい。むしろ誇りだよね。じゃあね、哲朗」
「ヤバイバーイ♪」
女の子達はキャハハハッと嘲るように笑いながら立ち去っていく。
この世界にも、ギャルっぽい若い女の子達もいるんだな。
哲朗はちょっぴり不愉快になりながらも、通りをさらに歩き進んでいく。
すると何者かに群がる若者達の人だかりを発見した。
「有名人が来てるみたいだな。まあ、俺も有名人だけど」
近づいてみると、そこには、お団子頭にカラフルな髪飾りを付け、スポーツブラにホットパンツ姿な若い女性が。
「うわっ! フワちゃんじゃないっすか! フワちゃんも異世界に飛ばされてのか」
「うちの名前はワフちゃんですけどね。あなたは哲朗のてっちゃんですね。イラストそっくり。おはぴよ~」
「しゃべり方もフワちゃんそっくりじゃないっすか」
「てっちゃんの出身地にもうちと似たような子がいるんですね。お会いしたいなぁ」
「ワフちゃんは超人気芸人みたいっすね」
哲朗が朗らかな表情で呟くと、
「超有名人ですよ。この通りによく出没するの。鏡と自描き棒を使って描くイラストも大人気なんだ」
「どんな大物にも初対面なタメ口で話すのも芸風になってるの」
「ワタシらの世代では人気ナンバーワンクラスの芸人さんだよ。哲朗よりも人気」
群がっていた少女達が楽しそうに伝える。
「そうか。俺より人気なのか。ひょっとして、いろいろ問題起こして芸能事務所追い出された経験あるとか?」
「はい、てっちゃん勘が鋭いね。以前はベタナワエンタテインメントっていう芸能事務所に所属してたんですけど、事務所の看板に落書きしたり、ライブ出ずに漫画読んでたりしてたらクビになって現在はフリーです」
「ハッハッハ、そこもフワちゃんそっくりだな」
「そのフワちゃんって子、ますます共感持てちゃいました。てっちゃんは、今日ここに来てるのは何かの企画っすか?」
「いや、今日は完全プライベートだよ。この街まだまだ知らない所ばかりだから、いろいろ散策してるんだよ」
「そうでしたか。ロブウトツネは観光名所も多くて散策が楽しい街ですよ。てっちゃん、またどこかでお会いしましょう。これプレゼントです」
「おう! サンキュー。めっちゃ上手いな」
哲朗は似顔絵イラストを受け取り、上機嫌でワフちゃんと別れを告げて、引き続き通りを歩き進む。
水着も売られてるじゃないっすか。この世界にも海水浴やプールの習慣はあるっぽいな。それも熱湯とか、あり得そうだよな。最近暑くなって来たし、この世界はこれから夏に向かう時期なんだな。スク水っぽいのやパレオっぽいのや、大胆なビキニらしきのまで種類豊富だな。尻尾穴が開いてるのもあるのが斬新だよ。選んでる子達もめっちゃかわいいじゃん。ってじっくり眺めてたら俺、不審なおじさんに思われちゃうよ。
ふと我に返って、そそくさその店の前から離れていく。
するとほどなく、
「きゃあああああっ~」
後方から女性の悲鳴が。
ひょっとして俺か? ヤバいよヤバいよ。
「どうかしましたか?」
哲朗は焦り気味に後ろを振り返る。
「助けて下さい哲朗さん、この王子さん、変なんです」
ウサギのような耳と尻尾の付いた、若い女性がいた。今にも泣き出しそうな表情でお願いしてくる。
「なんだキミは?」
よかった。俺じゃなくて。焦ったぁ~とホッと一息つきながら、哲朗はその女性の差す方をくるりと振り向く。
そこには、
「なんだチミはってか!? え!? なんだチミはってか! そうです。わたしが変な王子さんです。変な王子さんだか~ら変な王子さん♪ 変な王子さんだか~ら変な王子さん♪ 脱穀だ」
オタマジャクシ模様のホクロやシミ、青々とした髭、サロペットを身に纏い、黄金の王冠を被った見るからに怪しいおっさんの姿が。
ひょうきんな歌声で変な踊りも踊っていた。
「………………あっ、あなたは、“志村けん”さんじゃないっすか! 異世界に転生してもコメディアンとしてご活躍されてたんっすね!」
哲朗は興奮気味に駆け寄り、ぽろりと涙を流す。
「おれ、ワガデ王国王子のラムンケシだけど」
「そうでしたか。あなたが、ユニークで面白いと噂の、王子様でしたか。人違いではありますけど、そっくりじゃないっすか」
ラムンケシと名乗ったお方は、素早く化粧を落とし、付け髭を取って素顔になった。
「これはこれは哲朗様、お会い出来て光栄です。哲朗様のこと、父から聞いておりますよ。志村けんさんというお方、尊敬されているようですね」
すると先ほどまでとは打って変わって真面目な紳士的対応に。
「ラムンケシさん、素顔も志村けんさんと瓜二つっすね。出会えて嬉し過ぎてヤバいよヤバいよ。志村けんさんは俺のいた世界ではお笑いの神様なお方でして、俺もバカ殿様という志村けんさんの大人気番組にゲスト出演させていただいたこともありまして、とても残念なお亡くなり方をされてしまいましたけど、異世界でそっくりなお方に出会えるなんて、感激だよ、最っ高だよ♪」
「芸人の哲朗さんなら、先ほどのコント、いい突っ込みをされると思ってたけど、予想外の反応」
助けを求めた女性は若干呆気にとられる。
「王宮を訪れた時、王族の方々にも何人かお会いしましたが、皆楽しい方達でしたね。厳格な感じでもなく、親しみやすく感じました」
「そう言ってもらえて、大変ありがたいです。ワガデ王国民の皆様は、今は平穏に暮らせておりますが、私が子どもの頃は戦争、自然災害とそれに伴う飢饉、疫病と暗い時代もありました。そんな時代でも、人々に楽しく笑って希望を持って過ごしてもらえるよう、王族の方々は芸を嗜むようになったわけです」
「とても素晴らしい行動ですね」
「王族の方々は、芸人を目指す方々が増えることを大歓迎してはいるのですが、芸人を生業にすることに、あまりいい顔をされない親御さんも多いのは、残念なところでございます」
ラムンケシ王子は苦笑いする。
「俺もそう思いますよ」
哲朗は深く共感出来た。
「楽器、絵画、彫刻、料理、手芸、曲芸、お笑い、動物芸、手品、コントなどなど、芸の道も様々な種類がありますが、おれは色々挑戦した結果、自分に一番向いていると思ったコントの道を究めようと決心しました。王族の子は真面目で礼儀正しくしなければならないと世間から見られて、窮屈に感じていた反動からか、私は子どもの頃から人を笑わすふざけたことをするのが大好きでして。ちなみに先ほど披露いたしました、おれの持ちネタの変な王子さんの芸のオチで、『脱穀だ』と言っているのは、飢饉から脱し、また農作物がたくさん獲れるようになった喜びと感謝の気持ちも込められているのです」
「深いっすねー」
「おれはコントだけをずっとやり続けております。芸人は不器用でいいのです。器用になる必要がない。自分の好きなことだけをやり続けた方がいいと思うから、哲朗様も今までリアクション芸をやり続けて来たのであれば、これからもリアクション芸を続けてさらにその道を極めていくべきです。おれもコントをやり続けますので」
「誠に素晴らしい助言、ありがとうございます!」
志村けんがおっしゃられていたことと、よく似てるよ。ラムンケシ王子は志村けんさんの異世界転生者で間違いないよ。
哲朗は深々とお辞儀し、感謝の気持ちを込めて王子様を見送ったのだった。
「あっ、王子様だ! 久し振りだね」
「きゃあああああっ~ん♪ 王子様ぁ」
「ラムンケシ王子ぃーっ♪」
「王子様マジ王子様なんだけど。ヤバいヤバいヤバぁい」
「「「ラムちゃ~ん♪」」」
「バカ爵様やってぇ~」
「ラムちゃんラーメンって、発売されてからもう何年も経ってますけど、いつまで新発売なんですか?」
ラムンケシ王子は行き交う人々に声を掛けられると、手を振ったり、握手したり、質問に答えたりと快く応じてあげたのだった。
同じ頃、
「このように、生地を放っておくだけで、弾力がわたくしのように、強くなってくれるざます。こねたあとはしばらく辛抱強くお待ち下さいませ。焼いた時の味に、癒されますよ~」
アハハハハハハハッ!
パチパチパチパチパチッ!
「コキアダワさんのあんな絶妙なこね方は、真似出来ませーん」
コリルの通う学校の調理実習室にて催されていた、コキアダワさんのパン作り教室もわいわいガヤガヤ賑わっていた。
☆
哲朗はお昼ご飯にギム女生や女子大生に大人気だという、サラマンダーホットドッグを食べ歩き。
素晴らしいデザインの建物が多いけど、ここに来る一部のマナーの悪い子達のせいで不衛生な感じになっちゃってるのは勿体ないよなぁ。捨てられた食べかけの食べ物、巨大なネズミが漁ってるよ。日本でも原宿とかでポイ捨てされたタピオカドリンクとかをネズミが漁りに来るって聞いたけど、ここのは日本のネズミより遥かにでかいし顔が凶悪だよ。噛まれたら大怪我しそうだよ。
きちんと完食したあと、哲朗が体長五〇センチ以上はあるそいつを興味深さそうに少し離れた所から眺めていると、
驚くべき出来事が。
「やったぁ。良い魔物発見♪」
「ちょっと、ワタシが先に見つけたのよ」
なんと、十代後半のおしゃれな服装のギム女生らしき可愛らしい女の子二人がそいつをほぼ同時に掴み取ったのだ。犬っぽい耳と尻尾の付いた子と、猫っぽい耳と尻尾の付いた子だった。
「あたしが先よ。晩御飯のシチューの具に使うつもりなんだけど」
猫っぽい子が後ろ足を持ち、
「ワタシもパパに丸焼きにしてもらうつもりなのっ!」
犬っぽい子が頭の方を持っていた。
チュッ、チュッ、チュー。
巨大ネズミは苦しそうに鳴き声を上げる。
UFOキャッチャーのぬいぐるみ感覚で掴んでるよ。あれ食うつもりなのかよ。まあ、あんな必死になって獲り合ってるってことは美味いんだろうな。
この世界での生活も長くなった哲朗、もはや食文化の違いにはあまり驚かない。
「ヤるつもりなの?」
猫っぽい子、
「うん、殴り合いで決めましょう」
犬っぽい子。
睨み合い、目には見えない火花を散らす二人。
「まあまあまあ、二人とも、ケンカはダメだよ。掴んだのはほぼ同時だったし、ここは公平に、平和に、じゃんけんで決めましょうよ」
哲朗は仲裁に入る。
「あっ、哲朗さんだぁ~!」
猫っぽい子も、
「ヤバいよの芸人さんじゃん」
犬っぽい子も。
二人とも尻尾をふりふりさせて嬉しがっていた。
「じゃんけんでいっか?」
猫っぽい子と、
「うん、哲朗さんがそう言ってるからそれで決めましょう。哲朗さんが伝承してくれた新しい遊び、たまにやるけどけっこう便利よね」
犬っぽい子。
一見仲直りをしてくれたかのように思えた。
「この子が逃げ出さないように、絞めておくね」
犬っぽい子は巨大ネズミの頭を慣れた手つきで捻り、首の骨をコキッと折って昇天させた。
平然とやってるよ。この世界の女子高生世代の子達、サバイバル能力もかなり高そうだよ。
哲朗は苦笑い。
「「最初はグー、じゃんけんぽん」」
二人は共にグーののち、犬っぽい耳と尻尾の付いた子はパー、猫っぽい耳と尻尾の付いた子はチョキを出して勝った。
「やったぁ♪」
猫っぽい子は尻尾ふりふり。
「あ~ん、残念」
犬っぽい子は悔しそうな表情。
「この世界でも、じゃんけんは『最初はグー』から始めるのか」
哲朗は微笑み顔で呟く。
「これはね、ラムンケシ王子が考案したんだって。居酒屋さんで誰が奢るか決める時に、皆酔っぱらって『グー』『チョキ』『パー』を出すタイミングがなかなか合わないから、ラムンケシ王子が“最初はグー! で合わせましょう!”って言ってやってみたら、タイミングが上手く合ったらしくって、国民にも広めたんだって。このやり方、後出しとかのズルも防げて便利だよね。この街にはまだ広まってないのかな?」
犬っぽい子が説明すると、
「やはり、ラムンケシ王子は志村けんさんの異世界転生者だよ」
哲朗は感激の涙を流した。
「なんで泣いてるの?」
猫っぽい子は不思議そうに見つめる。
「きっとワタシ達には分かんない何かがあるんだよ」
犬っぽい子はふふっと微笑む。
「あっ、ネズッちもう一匹いたよ」
猫っぽい子が見つけて伝えると、
「ほんまや♪」
犬っぽい子は、その巨大ネズミをすばやく捕獲。そして慣れた手つきで即絞めた。
「べつに奪い合うことなかったね」
猫っぽい子、
「そうだね」
犬っぽい子、てへっと笑い合って仲直り。
「これで一件落着だな。二人とも、仲良くしろよ」
哲朗はそう忠告しておき、サインと番組オリジナルシールをプレゼントして、別れを告げた。
☆
あれが公衆浴場か。風呂上がりの女子高生や女子大生らしき子達が建物の前にいっぱいいるよ。男もいるけど。熱湯風呂なんだろうな。
引き続き通りを歩いていた哲朗、事前に観光ガイドブックで確認していた巨大な石造りの建物を楽しそうに眺めていると、
「あっ、哲朗だ」
「ヤバいよの芸人さんだよね。雑誌や新聞のイラストそっくり♪」
「生で会えた。超嬉しいーっ♪」
「シール下さぁい」
またしても一〇代後半くらいのいろんな種族の女の子達に囲まれて似顔絵を描かれてしまう。みんなお風呂上がりのようだった。
「この国の若い子達って、みんなで風呂入るの流行ってるの?」
「めっちゃ流行ってるっていうか、普通だよね」
「学校帰りとか、遊びに行った帰りとか、スポーツした帰りとか、みんなでお風呂に入ってくつろぐのがこの国の若者だけじゃなく全国民の嗜みだよ」
「やっぱそうなんだ。日本人以上の風呂好き国民なんだな。ちなみに俺の充電バイクの旅番組は毎回俺とかゲストのおっさん達の全裸風呂シーンが見られるぞ。この国じゃ残念ながら見る方法がないけどな」
「うげぇ~。おっさんの全裸は見たくないよぉ~。お風呂上りにマボ卵ドリンクとかスイーツとかアイスとか買い食いするのはうちら世代の子達が多いかな。年配の方は行儀が悪いって考えの人多いみたいで。老害ウザいよね。今までいろんな芸人さんが熱湯風呂芸やって来たけど、哲朗のリアクションが最高に面白かったよ」
「それは嬉しいな。これからも依頼されたらどんどんあの芸披露していくよ」
哲朗は上機嫌でこの子達に別れを告げて、通りをさらに歩き進んでいく。
するとほどなく、
「きゃあああああっ~」
後方から女性の悲鳴が。
俺なわけないよな? 猥褻なとこは一切してないし言ってないし。
「どうしましたか?」
哲朗は堂々たる態度で後ろを振り返る。
「助けて下さぁい哲朗さん、このおじさん、変なんです」
ネコのような耳と尻尾の付いた、若い女性がいた。今にも泣き出しそうな表情でお願いしてくる。
「なんだキミは?」
あの王子様とまた再会か? と思った哲朗はその女性の差す方をくるりと振り向く。
そこには、
「なんだチミはってか!? え!? なんだチミはってか! そうです。わたしが変なおじさんです。変なお~じさんだか~ら変なお~じさん♪ 変なお~じさんだか~ら変なお~じさん♪」
オタマジャクシ模様のホクロやシミ、青々とした髭。ラクダシャツ・ももひき・腹巻っぽいものを身に纏い、禿げ散らかした頭に、尻尾穴の付いた水玉模様の女性用ショーツを被っていた、見るからに怪しいおっさんの姿が。
ひょうきんな歌声で変な踊りも踊っていた。
「いや、あなた、変な王子さんじゃないでしょ。顔が全然違うよ」
哲朗は微笑み顔で眺める。
「そうです。変な王子さんではなく、変なおじさんです。脱穀だ♪」
その怪しいおっさんはてへっと笑ってこんな台詞。
そしてそそくさ走り去っていく。
「哲朗さぁ~ん、その人、コントではなく本当に怪しい変なおじさんなんですぅ。風呂覗かれた挙句、パンツも盗まれちゃいましたぁ~」
さっきの女の子が泣き顔で伝える。
「マジで!」
この国の俺の知らない芸人のコントかな? っと思った哲朗はちょっぴり驚き顔。
「わたしも胸とお尻と尻尾思いっ切り触られましたぁ~」
「うちもや」
「ワタシ耳に息吹きかけられたよ。あんな所に隠れてたなんて、まるで手品師だよ」
被害を訴える若くてかわいい女の子達続々。
「またあいつかぁ。待てーっ!」
「止まりなさぁーいっ!」
女性警察官らしき屈強なおば様達がそのおっさんを追いかけていく。
「大丈夫?」
「あのおっさん、今度姿見たらぶっ殺してやるわ」
風呂にいっしょにいた女の子達が、泣きじゃくる被害者の女の子を慰めていた。
「リアルガチに変なおじさんだったってわけかぁ~」
哲朗は苦笑い。
ちなみにリアルガチに変なおじさんは、あのあとすぐに捕まって、ドラゴン風の生き物に乗せられて警察署の方へ連れていかれたのであった。
「脱穀だぁ~」
「ラムンケシ王子様の全然似てないモノマネなんかしてふざけてないで、真面目に答えなさい!」
「すっ、すみません。ムラムラしてやりました」
取り調べにも素直に応じたという。
「俺なんかが参加したら邪魔になりそうっていうか絶対ちょっかい出してヤバいことになりそうなんで、やめておきまーす」
次の休日、コリルとコスヤはコキアダワさんのパン作り教室に参加。
哲朗は一人でロブウトツネの中心街をぶらぶらすることにした。
ここ最近、俺がよく着るサロペット姿の人が増えてる気がするなぁ。オーバーオールってのもあってサロペットとは微妙に違うみたいだけど俺にはその違いよく分からないなぁ。
若者に人気のお店が多く集まるという、原宿竹下通りのような感じの通りを歩き進んでいると、
「あっ! 哲朗だ!」
「ぃやぁ~ん、マジじゃん」
「きゃあああああっ~、ヤバいヤバいヤバぁい」
「ヤバいよヤバいよ」
いろんな種族のサロペット姿な、食べ歩き用のドリンクやお菓子なんかも持っていた女子高生達(この世界ではギム女生と呼ぶ方が相応しいだろう)が哲朗の周りに群がってくる。似顔絵も描かれてしまった。
「やっほー哲朗っち、今ね、哲朗っちのおかげでロブウトツネはサロペットが超流行ってるんだよ」
「うちら向けやもっと年下向けのファッション誌にもヤバいくらい特集されてたよ、スイカヘルメット被った哲朗のイラスト付きで」
「動きやすくて普段着にも農作業用にもどっちにも快適だから最高♪ 魔物狩り用の服にも最適ってパパもママもお祖父ちゃんお祖母ちゃんも喜んでた。マジヤバい」
「そりゃ嬉しいな」
「哲朗の日本でもサロペ流行ってんの?」
「いやぁ、流行ってるってことはないけど、俺みたいに愛用してる奴はわりといるよ。俺の芸人仲間で、料理食った時『まいう~』が口癖の石塚英彦、愛称いっしゃんとか」
「何それ? その人会ってみた~い」
「哲朗っち、その人の似顔絵描いてみて」
「俺絵は下手だから無理だよ。まあ、でぶが売りのおっさんだよ」
「超気になるぅ」
「想像で描いてみた♪」
ギム女生の一人がイラストを手渡してくれる。
「おう! わりとそっくりっすよ。こんな感じ、動物みたいな耳はついてないけど。ところでお嬢さん達、日本ではタピオカドリンクっていうのが女子高生、きみ達くらいの年の子に人気なんだけど、ここでも似たような感じの黒い粒が入ったドリンクが人気みたいだね」
「この黒い粒はね、マーボーの卵なんだ。甘くて超美味しいよ。あそこのお店で売ってる」
「哲朗っち飲んだら絶対ヤバいよヤバいよって言っちゃうくらいの美味さだよ」
「そうなんだ、飲んでみたいな」
「蝙蝠の干物入りチョコドーナッツやパンケーキやクレープも最高だよ。それも同じ店に売ってるぅ~♪」
「カムラオの目玉入りマカロンもおススメだよ。噛みごたえ最高♪」
あのグロテスクなカエルの卵に、蝙蝠の干物に、カムラオの目玉とか。日本の女子高生と同い年くらいの子達が平然と飲んで食べてるって、食文化が違い過ぎてヤバいよヤバいよ。でもきっと美味いんだろうな。
超ご機嫌な哲朗、ギム女生達に別れを告げると、そのお店に向かったが、
女子高生、じゃなくてそれと同年代の子達やカップルが並んでる中で、おっさんが一人で並ぶのもちょっと恥ずかしいなぁ。
後ろめたさを感じて購入を諦め、引き続き通りを歩き進んでいく。
「かき氷とかアイスも売られてるじゃん。すみません、店員のお姉さん、この氷はどこから入手してるんっすか?」
「高山の洞窟に、年中溶けない場所があるから、そこからドラゴンにここまで運んでもらって、この店の地下にある氷室で貯蔵してるの。哲朗さんの出身地は、冬以外の氷って珍しいんですか?」
「いやぁ、俺のいた世界には冷蔵庫っていうより便利なものがあるんっすよ。電気で動く機械なんっすけど、冷凍室に水を入れておくだけで年中いつでも氷が出来ます」
「へぇ。どんなものか想像出来ないけど、ヤバいものがあるんだね」
リスのような耳と尻尾の付いたお姉さんは興味深そうにしていた。
哲朗は店員さんおススメのフルーツアイスを購入。
「めっちゃ美味いじゃん♪ アイスの美味さは日本より上だよ」
哲朗はご満悦でさらに通りを歩き進んでいく。
ロブウトツネの観光ガイドブックによると、この通りには休日ともなると地元のみならずワガデ王国中から多くの若者達や家族連れ、観光客が集まって来るという。
平日昼間でも学校をサボって屯している悪い子達も多いらしいが。
ゴミ箱に食べかけのパフェとかアイスとかドリンクとか、無造作に捨てられてるな。一部はみ出して散乱してるし。あっ、あれはダメだろ。
「こらーっ、おまえら。食べ物を粗末にしちゃダメだろ」
マナーの悪い行為を目撃した哲朗は、さっそく注意する。
髪の毛をピンクや緑や金や銀に染め(この世界のことだから地毛かもしれないが)、マニキュアが塗られ、可愛らしいキーホルダーなんかが付けられたバッグやリュックを背負い、靴もデコられていて、派手な服装をしていたいろんな種族のギム女生らしき若い女の子達の集団がスイーツやドリンクを食べかけ飲みかけでポイ捨てしたのだ。
「ヤッバ、哲朗だ」
「きゃぁ~ん、ヤバいよヤバいよぉ~♪」
「これ、イラスト映えするからそれ目当てだし」
「絵に描いたらもう用ないよね」
「食べ切れないよ、こんないっぱい。哲朗と同じで喉が赤ちゃんだもぉん」
「スイーツカベマさん監修のやつ特にボリューム凄いよね、超美味しいけど」
「みんなやってるよ、なんであたしらだけ注意されなきゃなんないの? 理不尽~」
「哲朗だって顔パイ芸やって食べ物粗末にしてるじゃん。スイーツカベマさんにお仕置きされてたじゃん」
「「「そうだ、そうだ」」」
「あれはな、あのあとちゃんと拭き取って全部美味しくいただいてるんだよ」
「哲朗、犬か猫か猿みたぁい♪」
「とにかく、日本でもインスタ映え目当てで買ったタピオカミルクティーとか、飲みかけでポイ捨てするきみらくらいの子達がいて社会問題になってるんだよ」
「うちら日本のうちらくらいの子達と共通ってわけか。嬉しい♪」
「喜んじゃダメなんだよ。恥ずかしいことだと思わなきゃ」
「恥ずかしいなんて、全然思わなぁい。むしろ誇りだよね。じゃあね、哲朗」
「ヤバイバーイ♪」
女の子達はキャハハハッと嘲るように笑いながら立ち去っていく。
この世界にも、ギャルっぽい若い女の子達もいるんだな。
哲朗はちょっぴり不愉快になりながらも、通りをさらに歩き進んでいく。
すると何者かに群がる若者達の人だかりを発見した。
「有名人が来てるみたいだな。まあ、俺も有名人だけど」
近づいてみると、そこには、お団子頭にカラフルな髪飾りを付け、スポーツブラにホットパンツ姿な若い女性が。
「うわっ! フワちゃんじゃないっすか! フワちゃんも異世界に飛ばされてのか」
「うちの名前はワフちゃんですけどね。あなたは哲朗のてっちゃんですね。イラストそっくり。おはぴよ~」
「しゃべり方もフワちゃんそっくりじゃないっすか」
「てっちゃんの出身地にもうちと似たような子がいるんですね。お会いしたいなぁ」
「ワフちゃんは超人気芸人みたいっすね」
哲朗が朗らかな表情で呟くと、
「超有名人ですよ。この通りによく出没するの。鏡と自描き棒を使って描くイラストも大人気なんだ」
「どんな大物にも初対面なタメ口で話すのも芸風になってるの」
「ワタシらの世代では人気ナンバーワンクラスの芸人さんだよ。哲朗よりも人気」
群がっていた少女達が楽しそうに伝える。
「そうか。俺より人気なのか。ひょっとして、いろいろ問題起こして芸能事務所追い出された経験あるとか?」
「はい、てっちゃん勘が鋭いね。以前はベタナワエンタテインメントっていう芸能事務所に所属してたんですけど、事務所の看板に落書きしたり、ライブ出ずに漫画読んでたりしてたらクビになって現在はフリーです」
「ハッハッハ、そこもフワちゃんそっくりだな」
「そのフワちゃんって子、ますます共感持てちゃいました。てっちゃんは、今日ここに来てるのは何かの企画っすか?」
「いや、今日は完全プライベートだよ。この街まだまだ知らない所ばかりだから、いろいろ散策してるんだよ」
「そうでしたか。ロブウトツネは観光名所も多くて散策が楽しい街ですよ。てっちゃん、またどこかでお会いしましょう。これプレゼントです」
「おう! サンキュー。めっちゃ上手いな」
哲朗は似顔絵イラストを受け取り、上機嫌でワフちゃんと別れを告げて、引き続き通りを歩き進む。
水着も売られてるじゃないっすか。この世界にも海水浴やプールの習慣はあるっぽいな。それも熱湯とか、あり得そうだよな。最近暑くなって来たし、この世界はこれから夏に向かう時期なんだな。スク水っぽいのやパレオっぽいのや、大胆なビキニらしきのまで種類豊富だな。尻尾穴が開いてるのもあるのが斬新だよ。選んでる子達もめっちゃかわいいじゃん。ってじっくり眺めてたら俺、不審なおじさんに思われちゃうよ。
ふと我に返って、そそくさその店の前から離れていく。
するとほどなく、
「きゃあああああっ~」
後方から女性の悲鳴が。
ひょっとして俺か? ヤバいよヤバいよ。
「どうかしましたか?」
哲朗は焦り気味に後ろを振り返る。
「助けて下さい哲朗さん、この王子さん、変なんです」
ウサギのような耳と尻尾の付いた、若い女性がいた。今にも泣き出しそうな表情でお願いしてくる。
「なんだキミは?」
よかった。俺じゃなくて。焦ったぁ~とホッと一息つきながら、哲朗はその女性の差す方をくるりと振り向く。
そこには、
「なんだチミはってか!? え!? なんだチミはってか! そうです。わたしが変な王子さんです。変な王子さんだか~ら変な王子さん♪ 変な王子さんだか~ら変な王子さん♪ 脱穀だ」
オタマジャクシ模様のホクロやシミ、青々とした髭、サロペットを身に纏い、黄金の王冠を被った見るからに怪しいおっさんの姿が。
ひょうきんな歌声で変な踊りも踊っていた。
「………………あっ、あなたは、“志村けん”さんじゃないっすか! 異世界に転生してもコメディアンとしてご活躍されてたんっすね!」
哲朗は興奮気味に駆け寄り、ぽろりと涙を流す。
「おれ、ワガデ王国王子のラムンケシだけど」
「そうでしたか。あなたが、ユニークで面白いと噂の、王子様でしたか。人違いではありますけど、そっくりじゃないっすか」
ラムンケシと名乗ったお方は、素早く化粧を落とし、付け髭を取って素顔になった。
「これはこれは哲朗様、お会い出来て光栄です。哲朗様のこと、父から聞いておりますよ。志村けんさんというお方、尊敬されているようですね」
すると先ほどまでとは打って変わって真面目な紳士的対応に。
「ラムンケシさん、素顔も志村けんさんと瓜二つっすね。出会えて嬉し過ぎてヤバいよヤバいよ。志村けんさんは俺のいた世界ではお笑いの神様なお方でして、俺もバカ殿様という志村けんさんの大人気番組にゲスト出演させていただいたこともありまして、とても残念なお亡くなり方をされてしまいましたけど、異世界でそっくりなお方に出会えるなんて、感激だよ、最っ高だよ♪」
「芸人の哲朗さんなら、先ほどのコント、いい突っ込みをされると思ってたけど、予想外の反応」
助けを求めた女性は若干呆気にとられる。
「王宮を訪れた時、王族の方々にも何人かお会いしましたが、皆楽しい方達でしたね。厳格な感じでもなく、親しみやすく感じました」
「そう言ってもらえて、大変ありがたいです。ワガデ王国民の皆様は、今は平穏に暮らせておりますが、私が子どもの頃は戦争、自然災害とそれに伴う飢饉、疫病と暗い時代もありました。そんな時代でも、人々に楽しく笑って希望を持って過ごしてもらえるよう、王族の方々は芸を嗜むようになったわけです」
「とても素晴らしい行動ですね」
「王族の方々は、芸人を目指す方々が増えることを大歓迎してはいるのですが、芸人を生業にすることに、あまりいい顔をされない親御さんも多いのは、残念なところでございます」
ラムンケシ王子は苦笑いする。
「俺もそう思いますよ」
哲朗は深く共感出来た。
「楽器、絵画、彫刻、料理、手芸、曲芸、お笑い、動物芸、手品、コントなどなど、芸の道も様々な種類がありますが、おれは色々挑戦した結果、自分に一番向いていると思ったコントの道を究めようと決心しました。王族の子は真面目で礼儀正しくしなければならないと世間から見られて、窮屈に感じていた反動からか、私は子どもの頃から人を笑わすふざけたことをするのが大好きでして。ちなみに先ほど披露いたしました、おれの持ちネタの変な王子さんの芸のオチで、『脱穀だ』と言っているのは、飢饉から脱し、また農作物がたくさん獲れるようになった喜びと感謝の気持ちも込められているのです」
「深いっすねー」
「おれはコントだけをずっとやり続けております。芸人は不器用でいいのです。器用になる必要がない。自分の好きなことだけをやり続けた方がいいと思うから、哲朗様も今までリアクション芸をやり続けて来たのであれば、これからもリアクション芸を続けてさらにその道を極めていくべきです。おれもコントをやり続けますので」
「誠に素晴らしい助言、ありがとうございます!」
志村けんがおっしゃられていたことと、よく似てるよ。ラムンケシ王子は志村けんさんの異世界転生者で間違いないよ。
哲朗は深々とお辞儀し、感謝の気持ちを込めて王子様を見送ったのだった。
「あっ、王子様だ! 久し振りだね」
「きゃあああああっ~ん♪ 王子様ぁ」
「ラムンケシ王子ぃーっ♪」
「王子様マジ王子様なんだけど。ヤバいヤバいヤバぁい」
「「「ラムちゃ~ん♪」」」
「バカ爵様やってぇ~」
「ラムちゃんラーメンって、発売されてからもう何年も経ってますけど、いつまで新発売なんですか?」
ラムンケシ王子は行き交う人々に声を掛けられると、手を振ったり、握手したり、質問に答えたりと快く応じてあげたのだった。
同じ頃、
「このように、生地を放っておくだけで、弾力がわたくしのように、強くなってくれるざます。こねたあとはしばらく辛抱強くお待ち下さいませ。焼いた時の味に、癒されますよ~」
アハハハハハハハッ!
パチパチパチパチパチッ!
「コキアダワさんのあんな絶妙なこね方は、真似出来ませーん」
コリルの通う学校の調理実習室にて催されていた、コキアダワさんのパン作り教室もわいわいガヤガヤ賑わっていた。
☆
哲朗はお昼ご飯にギム女生や女子大生に大人気だという、サラマンダーホットドッグを食べ歩き。
素晴らしいデザインの建物が多いけど、ここに来る一部のマナーの悪い子達のせいで不衛生な感じになっちゃってるのは勿体ないよなぁ。捨てられた食べかけの食べ物、巨大なネズミが漁ってるよ。日本でも原宿とかでポイ捨てされたタピオカドリンクとかをネズミが漁りに来るって聞いたけど、ここのは日本のネズミより遥かにでかいし顔が凶悪だよ。噛まれたら大怪我しそうだよ。
きちんと完食したあと、哲朗が体長五〇センチ以上はあるそいつを興味深さそうに少し離れた所から眺めていると、
驚くべき出来事が。
「やったぁ。良い魔物発見♪」
「ちょっと、ワタシが先に見つけたのよ」
なんと、十代後半のおしゃれな服装のギム女生らしき可愛らしい女の子二人がそいつをほぼ同時に掴み取ったのだ。犬っぽい耳と尻尾の付いた子と、猫っぽい耳と尻尾の付いた子だった。
「あたしが先よ。晩御飯のシチューの具に使うつもりなんだけど」
猫っぽい子が後ろ足を持ち、
「ワタシもパパに丸焼きにしてもらうつもりなのっ!」
犬っぽい子が頭の方を持っていた。
チュッ、チュッ、チュー。
巨大ネズミは苦しそうに鳴き声を上げる。
UFOキャッチャーのぬいぐるみ感覚で掴んでるよ。あれ食うつもりなのかよ。まあ、あんな必死になって獲り合ってるってことは美味いんだろうな。
この世界での生活も長くなった哲朗、もはや食文化の違いにはあまり驚かない。
「ヤるつもりなの?」
猫っぽい子、
「うん、殴り合いで決めましょう」
犬っぽい子。
睨み合い、目には見えない火花を散らす二人。
「まあまあまあ、二人とも、ケンカはダメだよ。掴んだのはほぼ同時だったし、ここは公平に、平和に、じゃんけんで決めましょうよ」
哲朗は仲裁に入る。
「あっ、哲朗さんだぁ~!」
猫っぽい子も、
「ヤバいよの芸人さんじゃん」
犬っぽい子も。
二人とも尻尾をふりふりさせて嬉しがっていた。
「じゃんけんでいっか?」
猫っぽい子と、
「うん、哲朗さんがそう言ってるからそれで決めましょう。哲朗さんが伝承してくれた新しい遊び、たまにやるけどけっこう便利よね」
犬っぽい子。
一見仲直りをしてくれたかのように思えた。
「この子が逃げ出さないように、絞めておくね」
犬っぽい子は巨大ネズミの頭を慣れた手つきで捻り、首の骨をコキッと折って昇天させた。
平然とやってるよ。この世界の女子高生世代の子達、サバイバル能力もかなり高そうだよ。
哲朗は苦笑い。
「「最初はグー、じゃんけんぽん」」
二人は共にグーののち、犬っぽい耳と尻尾の付いた子はパー、猫っぽい耳と尻尾の付いた子はチョキを出して勝った。
「やったぁ♪」
猫っぽい子は尻尾ふりふり。
「あ~ん、残念」
犬っぽい子は悔しそうな表情。
「この世界でも、じゃんけんは『最初はグー』から始めるのか」
哲朗は微笑み顔で呟く。
「これはね、ラムンケシ王子が考案したんだって。居酒屋さんで誰が奢るか決める時に、皆酔っぱらって『グー』『チョキ』『パー』を出すタイミングがなかなか合わないから、ラムンケシ王子が“最初はグー! で合わせましょう!”って言ってやってみたら、タイミングが上手く合ったらしくって、国民にも広めたんだって。このやり方、後出しとかのズルも防げて便利だよね。この街にはまだ広まってないのかな?」
犬っぽい子が説明すると、
「やはり、ラムンケシ王子は志村けんさんの異世界転生者だよ」
哲朗は感激の涙を流した。
「なんで泣いてるの?」
猫っぽい子は不思議そうに見つめる。
「きっとワタシ達には分かんない何かがあるんだよ」
犬っぽい子はふふっと微笑む。
「あっ、ネズッちもう一匹いたよ」
猫っぽい子が見つけて伝えると、
「ほんまや♪」
犬っぽい子は、その巨大ネズミをすばやく捕獲。そして慣れた手つきで即絞めた。
「べつに奪い合うことなかったね」
猫っぽい子、
「そうだね」
犬っぽい子、てへっと笑い合って仲直り。
「これで一件落着だな。二人とも、仲良くしろよ」
哲朗はそう忠告しておき、サインと番組オリジナルシールをプレゼントして、別れを告げた。
☆
あれが公衆浴場か。風呂上がりの女子高生や女子大生らしき子達が建物の前にいっぱいいるよ。男もいるけど。熱湯風呂なんだろうな。
引き続き通りを歩いていた哲朗、事前に観光ガイドブックで確認していた巨大な石造りの建物を楽しそうに眺めていると、
「あっ、哲朗だ」
「ヤバいよの芸人さんだよね。雑誌や新聞のイラストそっくり♪」
「生で会えた。超嬉しいーっ♪」
「シール下さぁい」
またしても一〇代後半くらいのいろんな種族の女の子達に囲まれて似顔絵を描かれてしまう。みんなお風呂上がりのようだった。
「この国の若い子達って、みんなで風呂入るの流行ってるの?」
「めっちゃ流行ってるっていうか、普通だよね」
「学校帰りとか、遊びに行った帰りとか、スポーツした帰りとか、みんなでお風呂に入ってくつろぐのがこの国の若者だけじゃなく全国民の嗜みだよ」
「やっぱそうなんだ。日本人以上の風呂好き国民なんだな。ちなみに俺の充電バイクの旅番組は毎回俺とかゲストのおっさん達の全裸風呂シーンが見られるぞ。この国じゃ残念ながら見る方法がないけどな」
「うげぇ~。おっさんの全裸は見たくないよぉ~。お風呂上りにマボ卵ドリンクとかスイーツとかアイスとか買い食いするのはうちら世代の子達が多いかな。年配の方は行儀が悪いって考えの人多いみたいで。老害ウザいよね。今までいろんな芸人さんが熱湯風呂芸やって来たけど、哲朗のリアクションが最高に面白かったよ」
「それは嬉しいな。これからも依頼されたらどんどんあの芸披露していくよ」
哲朗は上機嫌でこの子達に別れを告げて、通りをさらに歩き進んでいく。
するとほどなく、
「きゃあああああっ~」
後方から女性の悲鳴が。
俺なわけないよな? 猥褻なとこは一切してないし言ってないし。
「どうしましたか?」
哲朗は堂々たる態度で後ろを振り返る。
「助けて下さぁい哲朗さん、このおじさん、変なんです」
ネコのような耳と尻尾の付いた、若い女性がいた。今にも泣き出しそうな表情でお願いしてくる。
「なんだキミは?」
あの王子様とまた再会か? と思った哲朗はその女性の差す方をくるりと振り向く。
そこには、
「なんだチミはってか!? え!? なんだチミはってか! そうです。わたしが変なおじさんです。変なお~じさんだか~ら変なお~じさん♪ 変なお~じさんだか~ら変なお~じさん♪」
オタマジャクシ模様のホクロやシミ、青々とした髭。ラクダシャツ・ももひき・腹巻っぽいものを身に纏い、禿げ散らかした頭に、尻尾穴の付いた水玉模様の女性用ショーツを被っていた、見るからに怪しいおっさんの姿が。
ひょうきんな歌声で変な踊りも踊っていた。
「いや、あなた、変な王子さんじゃないでしょ。顔が全然違うよ」
哲朗は微笑み顔で眺める。
「そうです。変な王子さんではなく、変なおじさんです。脱穀だ♪」
その怪しいおっさんはてへっと笑ってこんな台詞。
そしてそそくさ走り去っていく。
「哲朗さぁ~ん、その人、コントではなく本当に怪しい変なおじさんなんですぅ。風呂覗かれた挙句、パンツも盗まれちゃいましたぁ~」
さっきの女の子が泣き顔で伝える。
「マジで!」
この国の俺の知らない芸人のコントかな? っと思った哲朗はちょっぴり驚き顔。
「わたしも胸とお尻と尻尾思いっ切り触られましたぁ~」
「うちもや」
「ワタシ耳に息吹きかけられたよ。あんな所に隠れてたなんて、まるで手品師だよ」
被害を訴える若くてかわいい女の子達続々。
「またあいつかぁ。待てーっ!」
「止まりなさぁーいっ!」
女性警察官らしき屈強なおば様達がそのおっさんを追いかけていく。
「大丈夫?」
「あのおっさん、今度姿見たらぶっ殺してやるわ」
風呂にいっしょにいた女の子達が、泣きじゃくる被害者の女の子を慰めていた。
「リアルガチに変なおじさんだったってわけかぁ~」
哲朗は苦笑い。
ちなみにリアルガチに変なおじさんは、あのあとすぐに捕まって、ドラゴン風の生き物に乗せられて警察署の方へ連れていかれたのであった。
「脱穀だぁ~」
「ラムンケシ王子様の全然似てないモノマネなんかしてふざけてないで、真面目に答えなさい!」
「すっ、すみません。ムラムラしてやりました」
取り調べにも素直に応じたという。
0
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