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10.歓迎会②

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 アヤメを探して会場を見渡すと、
 会場の柱の影にポツリと一人立っていた。

 闇が過ぎませんか.......

 確かに、マリーやボーノさんと違って、
 私の専属の侍女なので部下とかいないけど、
 花も恥じらう乙女が地縛霊のように、
 孤独に立ち尽くしてるとは思わなかった。

 せめて何か食べるなり飲むなりすれば良いのに。

「アヤメ、何も食べて無いの?」
「アイリーン様、我が一族の習性で人前では飲食は控えてます」

 ヴぅん、確かに護衛としては正しいあり方だと思う。
 食べ物に毒を守られて護衛対象を守れませんでしたなんてあってはいけない。
 でも今日の歓迎会が終わって明日になるまでは私の護衛ではないし、
 侯爵家邸内で料理もボーノさんとお父様が主に作ったので、
 そこまで警戒する必要もない。

 困った、アヤメにも楽しんで欲しいんだけど、
 どうすればいいの?

「アイリーン、アヤメ、良ければ私が作った新しい料理を試食してくれないかな?」

 お父様の横でフレッドが蓋付きの皿を持って立っていた。

「調理は私が直接したし、
 その後は見ての通りに蓋をかぶせてフレッドに見張ってもらっていたので、
 安心して口にして大丈夫だ。
 パン類は手で直接食べる物もあるので、
 そこのテーブルの上のフィンガーボールを使ってくれ」

 流石に試食という体でお父様にそこまで言われ、
 断わる事が出来ないと判断したのか、
 アヤメは私と一緒に近場のテーブルに乗っている未使用の銀のボールに水を浸して指先を洗った。

「この茶色いのはなんですか?」
「それは、クロケットと言ってジャガイモという植物を使って使った食べ物だよ、
 二人の評価が高ければ本格的に我が領で栽培しようかと思っているので、
 100点中何点かで教えて欲しい」

 私とアヤメは、クロケットを口の中に入れた。

「100点」
「100点」

「嬉しいけど少し逆に不安になるんだが」

 失礼ですよ、お父様。
 長い間リシュール侯爵家の残飯ソムリエとして実績を積んだ私ですよ。
 ......私も不安です。
 でも普段人間を信用しない野生動物の様な目をしたアヤメの目が輝いているので平気でしょう。

「それは、カルボナーラというパスタだ」

 パスタはしっています。
 私のご馳走上位でしたので。
 お肉料理の下に敷いてあってお肉の味がするんです。
 でも色が全く違うような......

「100点」
「100点」

「うん、若いってお腹が空いて何でも美味しく感じるからね」

「違うのです、お父様。
 アヤメ味の感想をお父様に言ってあげて」
「かしこまりました、お嬢様。
 トロトロとしてクリーミー。
 味が少し濃い感じがしますが、
 カリカリに焼いたベーコンの塩気のせいか程よく合い正に至高。
 更に言えば黒い粉状の物がスパイシーで絶妙なアクセントをかもし出しています。
 そしてパスタ自体も素晴らしい。
 普通よりやや太く濃い味のソースがしっかりと絡み合って正に究極。

 普段無口なアヤメに少々無茶振りかなと思ったけど、
 物凄く饒舌に語りだした。
 お父様もやや引いている。

「最後はクリームパンとアンパンだ」

「90点」
「93、、、うーん、91点」

「十分な評価だけど感想も欲しいな」
「アヤメ」
「はい、そうですね。
 あくまでもその前に食べた二品と比べての評価となってしまいます。
 優しい味、逆に言えば印象がぼんやりとした味。
 ですが、前二品は毎日食べると飽きてきますが、
 アンパンとクリームパンは、飽きづらい味だと思います」

「それは良かった、アンパンはアヤメの為に開発したんだ」
「私のためですか?」
「ああ、長時間護衛のために食事が取れない場合に音がせず、臭いも弱めで、
 辺りを汚さずに体力を蓄積できるようにね。
 ボーノに話しておくから護衛に出かける前に取りにいくと良い」

 アヤメは、コクリと頷いた。
 感情の変化は読み取り辛いが少し嬉しそうな感じがした。

 最後は、ボーノさんだが私は遠慮してお父様にお任せした。
 いや酒臭いんです、ちょっと無理。
 お父様の肩を抱いて大声で笑っている。
 お父様も料理中に意気投合したのか、かなり気を許している印象だった。

 私はその間に会場を見渡すが、
 お母様の幼馴染のハワードさんを探すが来ていないようだった。
 息子さんのブラッドリー君とも幼馴染だったので、
 戻って来れなくとも久しぶりに会ってみたかったので残念だった。

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