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11.異世界転生 ???視点

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『巻き込んでしまってごめんなさい』

 聞き覚えのある声が頭に響いた。

 それは、ついこの前の事なのに、
 とても懐かしい記憶の様に思えた。

 ーーー

 若くして結婚した俺は、妻を愛していた。

 誰よりも。

 だが妻は身体が非常に弱かった。
 美人薄命というが冗談じゃない。

 彼女は子供を作る事を望んだ。

 俺は当然反対した。
 身体が弱い彼女に出産が耐えられると思えない。
 リスクが高すぎる。

 何度も何度も二人で話し合った。
 子供が欲しく無かった訳では無いが、
 彼女を失う事など耐えられない。

 だが、最後には結局彼女の熱意に押し負けた。

 男の子と女の子、どちらが良いです?

 どちらでも良いさ、君と子供が元気なら。

 彼女は私を見てクスリと笑った。

 どうしたんだい?

 どうも女の子を産んだら、親ばかになりそうと思われているみたいだ。
 娘が育って帰宅時間が少しでも遅れたら、玄関の前で腕を組んでウロウロしそうだと。
 私が心配して、君がなだめる、普通にありそうだ。

 門限はあまり早いとウザがられるらしい。
 娘に嫌われたら寝込んでしまいそうだ。

 家族三人幸せに笑いながらすごそう。

 そう言ったのに。
 君も約束したのに。

 君は娘を産んで直ぐに息をひきとってしまった。
 俺の心の半分が死んだ。

 せめて妻が残してくれた幼い命は守る。

 そう誓ったのに、身体が弱い妻が生命を削って産んでくれた娘も、
 生後一年も経たずに妻の元に行ってしまった。

 もう消えたい。
 幼少の頃より生に執着は無かった。
 死にたいとも生きたいとも思わない惰性で生きていく灰色の日々。
 彼女と出会って世界に色がついた。
 また世界から色が無くなった。

 生きていく事に意味がない。

 食欲が全く無くなった。
 食べなくても数ヶ月は人間死なないのだっけ?
 後何日だ?
 分からない。

『お願いがあります、娘を救って下さい』

 救う?
 誰が?
 誰を?

 誰も救えなかった俺が?

 もう消えたいんだ。
 痛みも苦しみも後悔も存在も
 ドロドロに溶けて消えていく
 早く出来るだけ早く消えてなくなりたい。

 悪いけど他を当たってくれないか?
 見ての通り自分すら救えそうにない。

『貴方の魂を娘のいる世界に、
 父親のアルマン・リシュールとして
 どうかどうか生まれ変わってほしいのです』

 俺はもう死んでいるのか。
 この人の顔は、子供を産みたいとすがってきた妻に似ている。
 どうにも断れる気がしない。

 それに最後に誰か一人くらいは助けたい。
 このままでは妻に合わせる顔もない。

 父親として生まれ変わり、娘をたすける。
 罪滅ぼしになるかはわからないが、
 必要とされているのであればそれも良いのかもしれない。

 愛する妻よ
 愛する娘よ

 母娘二人で幸せにそうに笑っている姿がまぶたに浮かんだ。

 ああ、いいよ。
 俺はそう答えた。

 ーーー

『巻き込んでしまってごめんなさい』

 現実?夢?

 私の意識は引き戻された。

 かまわないですよ、あんな小さな娘が辛い思いをするなんて間違ってますしね。

『少し話し方かわりましたか?』

 なにせ上級貴族らしいのでね。
 今日は何か御用ですか?

『勇者でもない貴方に真実が見える能力をつけたのがばれてしまいまして、
 女神様からしばらくこの世界へ来るのを禁止されてしまいましたのでご挨拶にと』

 それはそれは、わざわざ申し訳ありません。
 アイリーンには?

『昨日会いましたが、恐らく覚えていないでしょう』

 伝言があれば伝えますが?

『伝言では無いのですがアイリーンにも特殊な能力があるので、
 開花させてあげて下さい』

 特殊な能力?

「刻印という言霊を刻む能力です、貴方に頭の中に使い方を送っておきますね」

 便利ですね。

「これからあの子には辛い運命が襲ってきます、どうかあの子を救ってあげて下さい」

 分かりました。

 そう言えば、この身体の前の持ち主って?

『あのごみム......ですか?
 さぁ、こちらには来てないので、然るべき相応しい所に行ったのでは無いでしょうか』

 なるほど、アンタッチャブルな話題でしたね......

『時間が来たみたいです』

 そうですか、あの子はおまかせ下さい。

 今度こそは、きっと今度こそは。
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