カミノオトシゴ

大塚一乙

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一章

5話『事後報告』

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「やっと着いたぁ、久々の車は腰に来るねぇ」

ISAB日本支部局。International Special ability Administration Bureau。文字通りここは日本支部局であって日本の管理下ではなく国際機関であるためここに出入りする人物はごく限られている。表にあった門を何もなく入れたということはやはり予定通りなんだろう。しかし何度か目にすることはあったものの別世界の話だと思っていたのもあり間近で目にしても今のこの状況が現実味を帯びない。

「で、犀川。俺たちは今からどうすればいいんだ?、殺される...とかはないよな?」

「ははっ、やっぱり君は面白いね、殺す人をなぜ助ける必要があるんだい、そんなことより...」

「お喋りはそこまでだNo.10」

その時丁度ビルの入り口から出てきた男は見るからにこの建物で偉そうな人物だった。No.10とは犀川のことを指しているのだろう。口を閉せと命令された犀川は俺に目を合わせたあと「怖い怖い」と言ってそうな顔で素直に男の後ろにいた取り巻きに手を差し出しブレスレットのようなものを手につけられていた。あれが能力制限というものなのだろうか。

「局長。管理制限再び完了しました。No.10は如何に」

「...アンダーフロアに入れておけ。他のNo.とは分けておけよ、」

局長と呼ばれる一番偉そうなやつは少し考え俺と犀川を少しみた後取り巻きに命じた。そして犀川は俺たちより先に取り巻き数人と共に中に入っていった。入る前にウインクのようなものをされたが見なかったふりをした。そして犀川が完全に中に入るのを見届けて今からどうすればいいのか悩み気まずい沈黙が数秒間続いた後、

「アルケー探偵事務所様。任務完了大変ありがとうございました。そして共にお疲れ様でした」

「あ、え、えぇ」

悩んいる途中いきなり偉い人物に頭を下げられたせいか気の利いた返事が出てこなく驚きで適当な返事しかできなかった。

「...どうぞ、立ち話もなんですし、中にどうぞお入りください」

そして突然感謝をされたものの何をしたらいいかわからず硬直してる俺を見かねたのか局長と呼ばれていた男は中に案内してくれた。

そして案内された応対室にて待ち構えていたのは俺がよく見知った顔だった。

「社長...?」

そこには俺らアルケー探偵事務所の社長であり俺らの雇い主。社長こと木下総壱きのしたそういちがそこにいた。社長は俺の雇い主でもあるが孤児院から出てきてどこにも雇ってくれる場所がなく彷徨っていたところを拾ってくれた命の恩人でもある。

「おぉ、雄也!未来!無事だったか!」

「社長、今日の依頼は...」

「説明は我々から致しましょう」

いきなり話に割って入り説明役を買って出た局長と呼ばれている男は淡々と話し始めた。

「自己紹介がまだでしたね。私、ISAB日本支部局局長を務めさせていただいております、新津相良にいづさがらと申します。今回最上雄也さん並び平賀未来さんに大変危険なことに巻き込んでしまい申し訳ありません。伝達ミスにより情報が不十分な状態で伝わってしまい...」

「すいません、新津さん、伝達ミス以前に、なぜこんなちっぽけな探偵事務所にこのような依頼をしたのか...からお話ししてもらえますか?」

聞きたいのは伝達ミスの話ではない。なぜこんな辺鄙な探偵事務所に国家秘密の案件を依頼したのか。

「...??」

新津相良は今まで表情を表に出さず淡々と話し来たのにも関わらず俺の一つの質問の発言により初めて困惑の表情を表に出した。そしてその後、数秒間考え込み、パッと顔を上げたと思えば我らが社長こと木下総壱の顔を見てニコリと笑った。

「総壱ぃ、もしかして一般人の?」

いきなりお堅い口調ではなくなった彼に困惑し、誰もが誰が喋ったか一瞬理解が遅れたのだった。もちろん喋った当人と総壱と呼ばれ冷や汗をかく木下総壱を除く...だが。

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我らの社長、木下総壱とISAB日本支部局長、新津相良は元から知り合いだったらしく木下家、新津家は古くから縁があるらしい。そしてそんなことはあまり関係ないのだが本題としてなぜこのような依頼が我らの探偵事務所に舞い込んできたか、それは先先代の頃そしてISABがまだ創立していない時...初めて地球に特記能力持ちが生まれた時まで遡る。

「いや、この際君たちには特記能力という必要もないだろう。我らISAB上層部では特記能力を"アクセス"と呼んでいる。先ほど君があったNo.10...いや、犀川志熊は"アクセス権:エアー"所持者と呼ばれている。名前通り空気を含むこの世の気体の全てを操ることを神に許された人物だ、能力制限を外していたのだから能力の一端は君も知っているだろう」

アクセス権...銃弾が当たらなかったのも、空気を操って銃弾の軌道を逸らした...酸が入った試験管が丁度窓から相手の顔の目の前で割れたのも同じように軌道を弄って窓に入れた後試験管内の気圧と外気圧の差を弄り試験管を割った...のだろうか。詳しいこと仕組みはわからないがあんな偶然〔弾が当たらない〕、〔狙ったところに物がいく〕なんてこと現実ではあってはならないだろう。

「そして、その"アクセス"だが最初に誕生したのは"アクセス権:ランド"所持者、通称[始祖のアクセス者、大地のスロウ]アメリカのスロウ・バレットと呼ばれる男だ。スロウは生まれた当時は良かったものの物心がつくにつれ最初の特記能力であることで心労が溜まり暴れ出した。それが...君も知っているだろう『バリアストロの地震』だ。そしてその当時は能力制限の方法がなかったためアメリカの軍隊が総動員でまだ歳若き少年を...殺した」

それは知っている。とても心痛む話だが義務教育だ。学校の歴史で習うほどの。

「そして、君たちが最も知りたがっているアルケー探偵事務所とISABとの関係だがこれは木下総壱くんに話してもらおうか」

そして話してくれる木下総壱くんは先ほど新津相良によって色々と怒られていたため少し元気がなかった。しかし話を振られた直後ソファを立ち頭を下げた。

「先にこれだけ言わしてくれ、雄也、未来ほんっとーーに申し訳なかった。本当は俺が受ける予定だったんだが...手違いでお前に渡してしまって、しかも情報が不足しているものを」

「ほんとにそうですよ、何でも屋だと思ってたのにいきなり銃が出てきて...何度命を失いそうになったことか、なぁ未来」

今までとても緊張していた状況が続いていたが社長にはいくら文句を言ってもいいくらいだ。なんでも言ってやれ。と思ったが横を見た頃には疲労困憊でもう緊張の糸が切れたのかぐっすりとソファの上でぐっすりと寝ていた。

「許してくれとは言わない、二人を死に晒した罪は重い。どんなことでも聞き入れよう」

正直、社長には数え切れない程の恩があるため今こうして頭を下げられているのもむず痒い。

「じゃあ今回の依頼は一万円じゃ足りないのでボーナスをつけといてくれれば良いですよ、未来の要望は後でしっかり聞き入れてあげてくださいよ」

涙目になっている社長は「あぁ、もちろん」と言いながら再び席についたが新津に目で「続き!」と合図され続きをはなした。

「そして気になっているだろう、何故この依頼をうちの探偵事務所が請け負っているかというとな...実はアルケー探偵事務所とISAB日本支部局はもともと同じなんだ」

もう驚きはしなかった。正直生死に関わるレベルの驚きを一日噛み締めてきたためそのような歴史には依然として驚かなかった。
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