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私、やってみます……!
怖さを乗りこえるには何が必要なの?
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トナカイのナカイさんからアドバイスをもらった私は、考える時間が欲しくて、街の真ん中にある広場にやって来た。
広場では、クリスマスマーケットが開かれており、お祭りとは違う雰囲気をした屋台がたくさん出店している。
私は広場の中心にある巨大なモミの木の下に置かれたベンチに座って、飾り付けられたその木を見上げていた。
「ねぇ、ビット。ビットには怖いことってある?」
「ビットですか? ビットは大きな音が苦手です」
私の隣にいる小人のビットが耳を抑える仕草を見せる。
やはりビットはかわいいやつだ。
「私さ。ナカイさんの言うことは正しいって分かるよ。けどね、やっぱりそれでも失敗が怖いんだ」
私は胸の内に抱えた怖いという感情にどう向き合えばいいのか分からない。
「どうしたら、怖さを乗り越えられるのかな?」
私がビットに悩みを打ち明けると、「どうしよう! どうしよう!」と、ビットが慌てふためく。
ごめんなさい。こんなことアナタに相談したって、何も分からないよね……。
変な事を聞かせてしまったなと、反省する私の後ろから、誰かの足音が近づいてくる。
「大切なのは勇気じゃよ」
「サンタさん……。いつの間に…………」
声をかけられ振り返ると、そこにいたのはサンタさんだった。
サンタさんは私と目が合うと、ニカッと元気に笑う。
「ソリで飛んでいったと聞いてな。心配になって様子を見にきたんじゃ。どれ、失礼するぞ」
サンタさんはドカッと私の隣に腰かける。
そして、ふぅっと白い息を吐くと、モミの木を見上げながら私に言い聞かせるように言葉を吐いた。
「お嬢さん、怖さと戦うのに必要なのは勇気だけじゃ」
「サンタさんにもあるんですか? 怖いもの」
「ああ、もちろんあるとも」
ある、と答えたサンタさんに私はとても驚く。
夢の住人のような存在でも、怖いものなんてあるんだ……!
でも、サンタさんの怖いものって、いったい何なんだ??
私が答えを探ろうと横顔を見つめていると、サンタさんは恥ずかしそうな笑みを私に向ける。
「実はのぅ。ワシは高所恐怖症なんじゃ。空飛ぶソリなぞ本当は乗りたくない」
ずこっ!
空を駆け回ってプレゼントを届けて回るのが、サンタさんの仕事だよね!?
「じゃあ、どうしてサンタなんてやってるんですか?」
「子供たちがプレゼントを心待ちにしてくれているからじゃ」
聞いておいて申し訳ないけれど、なんだか面白味のない答えだな……。
私がそんな顔をしていたからなのか、サンタさんが思い出話を聞かせてくれた。
「これはワシが初めてサンタクロースとしてプレゼントを配ったときの話じゃ。どーしてもソリに乗りたくなかったワシはな、あろうことか自転車でプレゼントを配ろうとしたんじゃ」
「逃げてるじゃん」
「初めはな。じゃが、1軒目の家にプレゼントを配ったあと、ワシは全速力で道を引き返して、結局ソリに乗ることに決めたんじゃ」
ソリに乗りたくなくてわざわざ自転車で配り始めたサンタさんが、いったいどういう理由で村まで戻ってソリに乗りなおしたんだろう?
「何があったの?」
私がたずねると、サンタさんは眉尻を下げて笑う。
「幸せそうに眠る子供たちの顔を見たんじゃよ。そして、プレゼントを嬉しそうに開けるその子たちの明日を想像したんじゃ」
サンタさんは思い出にふけるように目を閉じて一呼吸置く。
少しして、まぶたを上げると、モミの木を見上げ白い息を吐いた。
「無事に枕元へプレゼントを置いたワシは家の外に出て考えた。もしもワシが空飛ぶソリに乗れたら、もっとたくさんの子供たちに幸せを届けられるんじゃないかとな。そうしたら、何故だか勇気が湧いてきおった」
サンタさんは再び私に顔を向けまっすぐに私の目を見た。
その顔はいつにもまして真剣な表情をしている。
「じゃから、ワシはすぐに村へ引き返して、ソリに乗って改めて街を回ったのじゃ。ワシはあの時勇気を出して本当に良かったと思っとるよ」
「私は……」
私はサンタさんじゃないんだよ……?
心が弱くなる私の手を、サンタさんの温かい手が包んだ。
「お嬢さん、キミも頑張って1歩を踏みだして見ないかい?」
サンタさんはすごく力強い瞳をしていた。
それはまるで、私に勇気を送ってくれているようで、少しだけ私は頑張ってみたくなった。
「分かった……! 私、やってみたい!」
サンタさんは私の顔を見て、いつもより優しい笑顔を見せた。
広場では、クリスマスマーケットが開かれており、お祭りとは違う雰囲気をした屋台がたくさん出店している。
私は広場の中心にある巨大なモミの木の下に置かれたベンチに座って、飾り付けられたその木を見上げていた。
「ねぇ、ビット。ビットには怖いことってある?」
「ビットですか? ビットは大きな音が苦手です」
私の隣にいる小人のビットが耳を抑える仕草を見せる。
やはりビットはかわいいやつだ。
「私さ。ナカイさんの言うことは正しいって分かるよ。けどね、やっぱりそれでも失敗が怖いんだ」
私は胸の内に抱えた怖いという感情にどう向き合えばいいのか分からない。
「どうしたら、怖さを乗り越えられるのかな?」
私がビットに悩みを打ち明けると、「どうしよう! どうしよう!」と、ビットが慌てふためく。
ごめんなさい。こんなことアナタに相談したって、何も分からないよね……。
変な事を聞かせてしまったなと、反省する私の後ろから、誰かの足音が近づいてくる。
「大切なのは勇気じゃよ」
「サンタさん……。いつの間に…………」
声をかけられ振り返ると、そこにいたのはサンタさんだった。
サンタさんは私と目が合うと、ニカッと元気に笑う。
「ソリで飛んでいったと聞いてな。心配になって様子を見にきたんじゃ。どれ、失礼するぞ」
サンタさんはドカッと私の隣に腰かける。
そして、ふぅっと白い息を吐くと、モミの木を見上げながら私に言い聞かせるように言葉を吐いた。
「お嬢さん、怖さと戦うのに必要なのは勇気だけじゃ」
「サンタさんにもあるんですか? 怖いもの」
「ああ、もちろんあるとも」
ある、と答えたサンタさんに私はとても驚く。
夢の住人のような存在でも、怖いものなんてあるんだ……!
でも、サンタさんの怖いものって、いったい何なんだ??
私が答えを探ろうと横顔を見つめていると、サンタさんは恥ずかしそうな笑みを私に向ける。
「実はのぅ。ワシは高所恐怖症なんじゃ。空飛ぶソリなぞ本当は乗りたくない」
ずこっ!
空を駆け回ってプレゼントを届けて回るのが、サンタさんの仕事だよね!?
「じゃあ、どうしてサンタなんてやってるんですか?」
「子供たちがプレゼントを心待ちにしてくれているからじゃ」
聞いておいて申し訳ないけれど、なんだか面白味のない答えだな……。
私がそんな顔をしていたからなのか、サンタさんが思い出話を聞かせてくれた。
「これはワシが初めてサンタクロースとしてプレゼントを配ったときの話じゃ。どーしてもソリに乗りたくなかったワシはな、あろうことか自転車でプレゼントを配ろうとしたんじゃ」
「逃げてるじゃん」
「初めはな。じゃが、1軒目の家にプレゼントを配ったあと、ワシは全速力で道を引き返して、結局ソリに乗ることに決めたんじゃ」
ソリに乗りたくなくてわざわざ自転車で配り始めたサンタさんが、いったいどういう理由で村まで戻ってソリに乗りなおしたんだろう?
「何があったの?」
私がたずねると、サンタさんは眉尻を下げて笑う。
「幸せそうに眠る子供たちの顔を見たんじゃよ。そして、プレゼントを嬉しそうに開けるその子たちの明日を想像したんじゃ」
サンタさんは思い出にふけるように目を閉じて一呼吸置く。
少しして、まぶたを上げると、モミの木を見上げ白い息を吐いた。
「無事に枕元へプレゼントを置いたワシは家の外に出て考えた。もしもワシが空飛ぶソリに乗れたら、もっとたくさんの子供たちに幸せを届けられるんじゃないかとな。そうしたら、何故だか勇気が湧いてきおった」
サンタさんは再び私に顔を向けまっすぐに私の目を見た。
その顔はいつにもまして真剣な表情をしている。
「じゃから、ワシはすぐに村へ引き返して、ソリに乗って改めて街を回ったのじゃ。ワシはあの時勇気を出して本当に良かったと思っとるよ」
「私は……」
私はサンタさんじゃないんだよ……?
心が弱くなる私の手を、サンタさんの温かい手が包んだ。
「お嬢さん、キミも頑張って1歩を踏みだして見ないかい?」
サンタさんはすごく力強い瞳をしていた。
それはまるで、私に勇気を送ってくれているようで、少しだけ私は頑張ってみたくなった。
「分かった……! 私、やってみたい!」
サンタさんは私の顔を見て、いつもより優しい笑顔を見せた。
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