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私はアリアンヌ様。
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それから月日は流れて。
わたくしは、齢五歳となりました。両親や兄、姉からの愛情を受け、健やかに育っておりますわ。
顔立ちもそう。ぱっちりとしたお目目も、ぷっくりとした唇も愛らしさそのもの。成長した時はさぞ、美しい貴婦人となるのでしょうね。
――ああ、中身は小川結衣です。アリアンヌ様ではございません。
ええ、そうです。生後間もない私が喋り出したこと、両親は大層驚いておりました。まあ、驚きはしましたが、そこまでの大騒動ということもなく。私は言葉の習得が早い子と、そう結論づけられました。
そして、私の喋り方について。つい、前世の話し方が出てしまう。家族も身内のだけならば、そうは言ってはくれました。ですが!
私は自分の性質を理解しておりますの。身内の前だろうと徹底しないと、ボロを出してしまうだろうと。そんな器用に立ち回れない。悲しい性質ですわね。
私は貴族の娘。お腹ペコペコだの。ガチってる、だの。公の場でもらすわけには参りません。
それにです。早過ぎる時期から話したことにより、親はより期待をしていると申しましょうか。神童、とも囃され始めておりまして。淑女としての教育に加え、学業にも力を入れ始めておりますの。
今日も家庭教師の先生にみっちりしごかれましたわ……疲れましたわ……。
「はっ!」
そういう時は、こうですわっ! 授業を終えて、ようやく私の自由時間がやって参りましたわ! 屋敷の裏手、私有地でもある草原へと駆け出しますの。
今日も護衛の方々、いえ、者達がですわね。私についてきてくれているわ。ご苦労様。体力づくりだと思って、見守ってくださいませ。離れないようにはしますわ。
ああ、こんなにも走れる。息を切らしながら、笑いながら。私は草原の中を駆け回っておりました。
「……まあ、これは」
護衛達との距離が大分出来ておりました。いけませんわね。少しペースを落としましょう。休憩がてらに私は速度を落とし、歩くことにしました。
川のほとりまでやって参りました。水車小屋がありますわ。あまり使われなくなっていたと聞いています。結構遠くまで来てましたのね。
「……ん?」
人の話し声がしますわね。なにやら不穏な気配がしますわ。
あら、護衛達もあからさまに私に寄って参りましたわ。無謀にも私が飛び出さないかと、見張っておられるようね。ええ、今の私はか弱き令嬢。自重は致しましょう。
でもね、覗きはしますわ。私はそこいらにあった木箱を土台として、窓から様子を見ることに。耳をそばだてると、話し声も聞こえてきました。
「……なぜ、言う事を聞かない!? 何の為にお前を側につかせていると思っているんだ!」
荒ぶる男性は、手にムチを持っております。言う事? 送り込む? 気になる言葉を述べておりますが、私はその前の少年の方が気になってしまい――。
「……ごめんなさい、ごめんなさい! でも、どうしても僕はスパイなんて……!」
体を縮こまらせて、暴力に耐えている少年。その彼は、私が存じている人物でした。
イヴ・ポルト。務め始めたばかりの、一個上の私の従者。
暑かろうと長袖長ズボンの彼は、いつも何かを隠しているようでしたが……まさか、こうだったとは。このようなことが……常態していたというのね。私の預かり知らないところで。
私の背後で見ていた護衛達も頷きあっていた。突入して彼を助ける算段でしょう。裏手に回って扉を開けるようです。私もついていきましょう。
わたくしは、齢五歳となりました。両親や兄、姉からの愛情を受け、健やかに育っておりますわ。
顔立ちもそう。ぱっちりとしたお目目も、ぷっくりとした唇も愛らしさそのもの。成長した時はさぞ、美しい貴婦人となるのでしょうね。
――ああ、中身は小川結衣です。アリアンヌ様ではございません。
ええ、そうです。生後間もない私が喋り出したこと、両親は大層驚いておりました。まあ、驚きはしましたが、そこまでの大騒動ということもなく。私は言葉の習得が早い子と、そう結論づけられました。
そして、私の喋り方について。つい、前世の話し方が出てしまう。家族も身内のだけならば、そうは言ってはくれました。ですが!
私は自分の性質を理解しておりますの。身内の前だろうと徹底しないと、ボロを出してしまうだろうと。そんな器用に立ち回れない。悲しい性質ですわね。
私は貴族の娘。お腹ペコペコだの。ガチってる、だの。公の場でもらすわけには参りません。
それにです。早過ぎる時期から話したことにより、親はより期待をしていると申しましょうか。神童、とも囃され始めておりまして。淑女としての教育に加え、学業にも力を入れ始めておりますの。
今日も家庭教師の先生にみっちりしごかれましたわ……疲れましたわ……。
「はっ!」
そういう時は、こうですわっ! 授業を終えて、ようやく私の自由時間がやって参りましたわ! 屋敷の裏手、私有地でもある草原へと駆け出しますの。
今日も護衛の方々、いえ、者達がですわね。私についてきてくれているわ。ご苦労様。体力づくりだと思って、見守ってくださいませ。離れないようにはしますわ。
ああ、こんなにも走れる。息を切らしながら、笑いながら。私は草原の中を駆け回っておりました。
「……まあ、これは」
護衛達との距離が大分出来ておりました。いけませんわね。少しペースを落としましょう。休憩がてらに私は速度を落とし、歩くことにしました。
川のほとりまでやって参りました。水車小屋がありますわ。あまり使われなくなっていたと聞いています。結構遠くまで来てましたのね。
「……ん?」
人の話し声がしますわね。なにやら不穏な気配がしますわ。
あら、護衛達もあからさまに私に寄って参りましたわ。無謀にも私が飛び出さないかと、見張っておられるようね。ええ、今の私はか弱き令嬢。自重は致しましょう。
でもね、覗きはしますわ。私はそこいらにあった木箱を土台として、窓から様子を見ることに。耳をそばだてると、話し声も聞こえてきました。
「……なぜ、言う事を聞かない!? 何の為にお前を側につかせていると思っているんだ!」
荒ぶる男性は、手にムチを持っております。言う事? 送り込む? 気になる言葉を述べておりますが、私はその前の少年の方が気になってしまい――。
「……ごめんなさい、ごめんなさい! でも、どうしても僕はスパイなんて……!」
体を縮こまらせて、暴力に耐えている少年。その彼は、私が存じている人物でした。
イヴ・ポルト。務め始めたばかりの、一個上の私の従者。
暑かろうと長袖長ズボンの彼は、いつも何かを隠しているようでしたが……まさか、こうだったとは。このようなことが……常態していたというのね。私の預かり知らないところで。
私の背後で見ていた護衛達も頷きあっていた。突入して彼を助ける算段でしょう。裏手に回って扉を開けるようです。私もついていきましょう。
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