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あなたはわたくしの従者。
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「そこまでだ!」
護衛達が勢いよく扉を開いた。
「なっ!」
男性は驚いていたものの、またムチでいたぶろうとしていたタイミングでした。男自身も止められなかったのでしょう。あとで言い訳でもするのかしら。
振り下ろされたそれは、護衛の者達も間に合わないほど、勢いもよく。やられるイヴもまた、諦めるかのように目を閉じていて。
「……!」
自分で自分が信じられなかった。どうして私は。
こんなにも体が軽く動くのか。咄嗟に判断もできるのか。
壁にたてかけていた鉄の棒を手にして、私は飛び出していった。
ああ、軽い。羽のように軽いですわ。棒を使って私はムチを弾きました。その勢いのまま、私はイヴを守るように立った。
「お、お嬢様……?」
私より大きいでしょう眼は、さらに見開かれる。突然で驚いたのでしょうが、今、あなたから離れるわけにはいかないの。
「くっ……」
男はいとも簡単に拘束されていた。
「……ポルト氏。ご子息に何をしたのかしら。――何をさせようとしていたのかしら」
私の瞳は怒りの炎をたぎらせていた。
「い、いえね……アリアンヌ様?」
幼い子相手だろうに、彼はごまをするような笑みも浮かべてきた。何かしら、正当な理由でもあるというのかしら。一方的な暴力を働いておいて?
「……へへ、躾けですよ、躾け。こいつがね、ボヌール家に粗相を働いているようだから? しっかりしろと喝を入れたまでですよ」
「……そう」
私はもとより男の妄言だと思っていた。それよりとイブを見た。顔を青褪めながら、体を震わせている彼。いつも……されていることでしたのね。私は気づきませんでしたわ……。
今は……目の前の事態に集中しましょう。
「――あなたの主張はわかりました。ですが、この者は私の従者であります。躾けるのも、喝を入れるのもこちら側の領分ですのよ。あなたがやっていることは出しゃばりに過ぎないの」
「……い、いえね?」
「わからないかしら? これ以上は見過ごせません。あなた方、ポルト家は代々仕えてくれていたというのに。ああ、嘆かわしいこと! ――皆の者、連れていきなさい」
私は父の元へ連れていくよう、護衛に指示をした。まだ主張があるというのなら、あとはお父様にに裁いてもらいましょう。申し開きがあるというのなら、お父様にどうぞ。
彼はまだ喚いていたけれど、次第に大人しくなっていき。そのまま連れていかれました。
部屋に残されたのは、私の為の護衛とそして、イヴ。揺れ惑う目で私を見たままでした。
「イヴ」
私が彼の名を呼ぶと、びくっとなった。彼はそういえば――裏切り者でしたわね。この頃から、働きかけがあったとは。想像もつきませんでした。
「……大丈夫、ではないでしょうね。手当をしてもらいましょう」
気が付けなかったのは、こちら。こんな痛みを抱えていたのに、気づけなかったの。私は彼に手を差し出していた。
「……アリアンヌさま。わるいのは、ぼくもです。ぼくはあなたを――」
イヴはその手をとろうとはしない。彼の気持ちはわかりますが、私は苦笑してしまいました。
「あら、あなたが何をしたというのかしら。イヴ、あなたは何もしていない……まだ何も」
「まだ……?」
「ええ、そうです。あなたは踏みとどまってくれていたのでしょう?」
きっと、前の裏切りもやむを得なかったのでしょうね。それでも、あなたは最初の内は、抵抗しようとしていた。望まない裏切りだったと、知ることが出来ましたの。
「私は、あなたを信じたいのです」
「……!」
私の言葉が届いたのでしょうか、イヴはその手を取ってくれました。彼の瞳から流れるのは、涙でした。
ああ、イヴ。あなたは私のも計り知れないほど、大きなものを抱えているのでしょうか。
あなたは私の従者。私の全てを支えてくれるというのなら、私も守りたいのです。
その後の手当の場、私も付き添わせてもらいました。私の部屋に通し、医者の先生に診ていただくことに。
イヴが服を脱ぎ、背中を見せました。先生は顔をしかめていらっしゃるわ。私だってそう。痛々しいその背中に、つい目をそらしてしまいました。イヴ、あなたはこれだけの痛みを黙って耐えていたのですね。
イヴは治療薬も身に沁みたでしょうに、痛む声を上げることはなかった。忍耐強いものね。それだけ、あなたはこれまで耐えてきましたのね――。
手当を終えた先生は退室されました。残されたのは私達だけ。
「……アリアンヌさま、話をきいてくれますか」
イヴが語り始めたのは、彼の生い立ちについて。私は彼の話を伺うことにしました。
イヴの目は、私達とは異なる琥珀色の瞳。
彼の生来の瞳が、父親の不興を買うことになってしまった。自分の子ではないだろうと。自国民である母君には異国の血も流れていた。先祖返りではないかと言われても。それでも父君の怒りと疑いは収まらなかったと。
語るのにも辛い思いをさせてしまいました。イヴは青い顔をしたままです。
「……もう、大丈夫ですわ。怯えることなどありません。私があなたを守ります」
「アリアンヌさま……」
「どうか、私のことも信じてくださるかしら」
イヴはまだ不安そうにしております。それも当然でしょう。
ですが、今度こそ私は生き抜いて、あなた達も守り抜いてみせたいのです。傲慢と思われようと、それだけ強い意志でないときっと、到達できないと思うから。
「イヴ」
私は彼の目をみてしっかりと頷いた。イヴはまだ心細そうでしたが、それでも。
「……はい、アリアンヌさま」
小さく頷いてくれました。
護衛達が勢いよく扉を開いた。
「なっ!」
男性は驚いていたものの、またムチでいたぶろうとしていたタイミングでした。男自身も止められなかったのでしょう。あとで言い訳でもするのかしら。
振り下ろされたそれは、護衛の者達も間に合わないほど、勢いもよく。やられるイヴもまた、諦めるかのように目を閉じていて。
「……!」
自分で自分が信じられなかった。どうして私は。
こんなにも体が軽く動くのか。咄嗟に判断もできるのか。
壁にたてかけていた鉄の棒を手にして、私は飛び出していった。
ああ、軽い。羽のように軽いですわ。棒を使って私はムチを弾きました。その勢いのまま、私はイヴを守るように立った。
「お、お嬢様……?」
私より大きいでしょう眼は、さらに見開かれる。突然で驚いたのでしょうが、今、あなたから離れるわけにはいかないの。
「くっ……」
男はいとも簡単に拘束されていた。
「……ポルト氏。ご子息に何をしたのかしら。――何をさせようとしていたのかしら」
私の瞳は怒りの炎をたぎらせていた。
「い、いえね……アリアンヌ様?」
幼い子相手だろうに、彼はごまをするような笑みも浮かべてきた。何かしら、正当な理由でもあるというのかしら。一方的な暴力を働いておいて?
「……へへ、躾けですよ、躾け。こいつがね、ボヌール家に粗相を働いているようだから? しっかりしろと喝を入れたまでですよ」
「……そう」
私はもとより男の妄言だと思っていた。それよりとイブを見た。顔を青褪めながら、体を震わせている彼。いつも……されていることでしたのね。私は気づきませんでしたわ……。
今は……目の前の事態に集中しましょう。
「――あなたの主張はわかりました。ですが、この者は私の従者であります。躾けるのも、喝を入れるのもこちら側の領分ですのよ。あなたがやっていることは出しゃばりに過ぎないの」
「……い、いえね?」
「わからないかしら? これ以上は見過ごせません。あなた方、ポルト家は代々仕えてくれていたというのに。ああ、嘆かわしいこと! ――皆の者、連れていきなさい」
私は父の元へ連れていくよう、護衛に指示をした。まだ主張があるというのなら、あとはお父様にに裁いてもらいましょう。申し開きがあるというのなら、お父様にどうぞ。
彼はまだ喚いていたけれど、次第に大人しくなっていき。そのまま連れていかれました。
部屋に残されたのは、私の為の護衛とそして、イヴ。揺れ惑う目で私を見たままでした。
「イヴ」
私が彼の名を呼ぶと、びくっとなった。彼はそういえば――裏切り者でしたわね。この頃から、働きかけがあったとは。想像もつきませんでした。
「……大丈夫、ではないでしょうね。手当をしてもらいましょう」
気が付けなかったのは、こちら。こんな痛みを抱えていたのに、気づけなかったの。私は彼に手を差し出していた。
「……アリアンヌさま。わるいのは、ぼくもです。ぼくはあなたを――」
イヴはその手をとろうとはしない。彼の気持ちはわかりますが、私は苦笑してしまいました。
「あら、あなたが何をしたというのかしら。イヴ、あなたは何もしていない……まだ何も」
「まだ……?」
「ええ、そうです。あなたは踏みとどまってくれていたのでしょう?」
きっと、前の裏切りもやむを得なかったのでしょうね。それでも、あなたは最初の内は、抵抗しようとしていた。望まない裏切りだったと、知ることが出来ましたの。
「私は、あなたを信じたいのです」
「……!」
私の言葉が届いたのでしょうか、イヴはその手を取ってくれました。彼の瞳から流れるのは、涙でした。
ああ、イヴ。あなたは私のも計り知れないほど、大きなものを抱えているのでしょうか。
あなたは私の従者。私の全てを支えてくれるというのなら、私も守りたいのです。
その後の手当の場、私も付き添わせてもらいました。私の部屋に通し、医者の先生に診ていただくことに。
イヴが服を脱ぎ、背中を見せました。先生は顔をしかめていらっしゃるわ。私だってそう。痛々しいその背中に、つい目をそらしてしまいました。イヴ、あなたはこれだけの痛みを黙って耐えていたのですね。
イヴは治療薬も身に沁みたでしょうに、痛む声を上げることはなかった。忍耐強いものね。それだけ、あなたはこれまで耐えてきましたのね――。
手当を終えた先生は退室されました。残されたのは私達だけ。
「……アリアンヌさま、話をきいてくれますか」
イヴが語り始めたのは、彼の生い立ちについて。私は彼の話を伺うことにしました。
イヴの目は、私達とは異なる琥珀色の瞳。
彼の生来の瞳が、父親の不興を買うことになってしまった。自分の子ではないだろうと。自国民である母君には異国の血も流れていた。先祖返りではないかと言われても。それでも父君の怒りと疑いは収まらなかったと。
語るのにも辛い思いをさせてしまいました。イヴは青い顔をしたままです。
「……もう、大丈夫ですわ。怯えることなどありません。私があなたを守ります」
「アリアンヌさま……」
「どうか、私のことも信じてくださるかしら」
イヴはまだ不安そうにしております。それも当然でしょう。
ですが、今度こそ私は生き抜いて、あなた達も守り抜いてみせたいのです。傲慢と思われようと、それだけ強い意志でないときっと、到達できないと思うから。
「イヴ」
私は彼の目をみてしっかりと頷いた。イヴはまだ心細そうでしたが、それでも。
「……はい、アリアンヌさま」
小さく頷いてくれました。
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