脳筋悪役令嬢の華麗なる恋愛遊戯~ダンジョン攻略駆使して有利に進めてみせます!~

古駒フミ

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攻略開始前①

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 齢十五歳となりました。これまで通っていた女学院の卒業も控え、次からは共学校に通うことになります。三年間の学習を終えると。

――私は王族に嫁ぐことになります。

 その方は昔からの許婚であり、現王太子であられる方。ただ、直接お会いしたことのは、わずかばかり。この国は一夫多妻も認められており、アリアンヌ・ボヌールもその一人でしたから。
 家同士の決められた婚姻であると。

「……」

 結衣としては思うところはあるけれど、アリアンヌ様はきっとそうじゃない。当然のこととして受け入れてきたと思うから。私もまた、アリアンヌ・ボヌールとして育てられてもきたから。

「……ああ、嫌だなぁ。なんでアリアンヌ様が、あんな男なんかと」

 いえ、これは私によるものではありませんわ。結衣としては言いたいところだけど。

 ここは邸の書庫。ある調べものをしている最中のこと。控えているイヴによるものです。唐突ですわね。

「やだやだ……」

 というか、そう連呼されては私、集中できませんわ。

「……って、不敬だったね。気をつけます」
「ええ、そうですわね。それに……私にとっては、身に余るものです」

 イヴは自身で改めてはくれました。まだ二人きりで良かったものの、誰かに聞かれては実にまずいでしょう。いえ、邸の中であれど、周囲に気を配らなければ。

 ああ、捕捉しておきましょうか。仮にも公爵家の人間である私に対し、イヴはというと。タメ語、失礼、気安い口ぶりでございますわね。これは、訳があってのことなのです。
 お互い打ち解けてきたとはいえ、まだイヴが私に対して緊張してきた頃です。うっかり私に対し、口語で話してしまいました。彼はこの世の終わりのような顔をしておりました。

『も、も、申し訳ございませんでした! いかようにもお叱りください……!』
『うーん……』

 ええ、アリアンヌとしては叱りつけるべきでした。ですが私は、時と場合を弁えるならということで許可を下してしまいました。許可してしまったのです。

 それから今に至るということです。彼にとっては造作もないこと。オンオフの切り替えが見事なものでした。

『……今更だけど、本当にいいの? 主にこのような軽口きいて……良いのでしょうか』
『……まあ、そうですわね。ただ、私の本音となりますと。気安い存在もあってほしいのです。公の場ではない時くらいは』

 まあ、二人きりの時は砕けてくれた方が、というのもありました。私もアリアンヌとして、気が張ってばかりの日ですから。まるで友のように接してくれるのは、私にとっても救いだったのでしょう。

「……」

 私がそれとなくイヴを見ると、目が合ってしまいましたわ。あちらも見ているとは思ってもみませんでした。
 優しく笑んできたのは彼。ええ……どこまでも柔らかいもの。彼の生来の愛らしい顔はそのまま、でもどこか大人びてもきた容姿。背だっていつの間にか追い越されていた。いつも側にいるから、気づくのが遅くなってしまいました。

「調べもの、たくさんあるの? 僕も手伝いたいな、教えてもらえる?」

 声も随分と低くなりましたのね。あの鈴の鳴るような声が、こんなにも。

「……ええと、ですわね」

 この視線の意味は、きっと。そう、きっと……主への親しみ、で合っていますでしょう? とにかく答えましょう。

「……返答、ですわね。これからご学友になられる方々のことですわ。成り立ちやご偉業など。再確認しようと思いまして」

 私がイヴの質問に答えると、あー……と、彼は何かを察したようですわ。ええ、そうです。これからの交流ということもありますわ。事前に聞かされていた、調べていたことも改めて。
 特に――例の四人について。隠しの人はさておきましょう。
 こちらはゲームの世界。主人公はアリアンヌ様で、対象は彼ら四人。あのような未来は断じて避けたいのです。まずは知ることから始めましょう。

 攻略対象といえる彼らと早くから出逢っていれば、何かが違っていたと存じます。ですがいかんせん、彼らと会う機会などそうそうなく。

「ああ、なんということでしょう……」

 不自然なまでに、彼らとの接触はかないませんでした。待ち伏せをしようとしても、家の者、に見つかるか、間が悪すぎるか。腐っても公爵令嬢、抜け出すのも必死となります。
 というより、私は婚約者がいる身でもあります。あらぬ誤解を招いてはなりません。

「……はぁ」

 彼らは、ある少女に惹かれておりました。そう、ある少女……。
 私は頭を抱えて、溜息をつきました。どうしたものかしら。その少女の名を……思い出せなくなってますの。どうも頭の中にモヤがかかっているようで、不明瞭になる時があります。前世で従姉が早口で教えてくれたお役立ち情報もですわ……。

「……ああ、失礼。煮詰まってしまったのでしょうね。一息いれようかしら」
「かしこまりました、お嬢様」

 私の一声で、イヴは恭しく頭を下げた後、ドアの方へと向かいました。休憩の為のお茶を淹れてくれるようです。ここでは飲めませんので、隣室へ移動することに。

「……ああ、お待ちになって」

 私はイヴを呼び止めました。そう、どうしても彼に尋ねたいことが出来たのです。彼が訝しむような内容ではあります。ええ、それでも。

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