脳筋悪役令嬢の華麗なる恋愛遊戯~ダンジョン攻略駆使して有利に進めてみせます!~

古駒フミ

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学園いたるところで恋愛バトル勃発中。

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 あれから二週間が経ちました。学生生活を楽しく送っております。平和、穏やかというには――。

「……ちょっと、あなた。勘違いもいい加減になさって。オスカー様は誰にでも優しいだけよ! 本当は私にだけ優しくしたいでしょうに」
「何よ! あなたこそ勘違いしているわよ!」

 あら。

「殿下は今日も私に笑いかけてくださったわ。私にだって王族入りのチャンスはあるはず!」
「いやね、御自分の立場をわかってらして。いくら女性好きでしょうと、誰彼でもないでしょうに」

 あらあら。

「ああ、影のあるあの御方……奔放な殿下に疲れていらっしゃるのよ。あの方を支えてあげられるのは、私だけ!」
「可哀そう。相手になんてされてないわよ。あの方はね、私にこそ弱音を吐いてくださるのだから!」

 あらあらあら。

 校舎裏を巡ってみたら案の定。婦人方が言い争っておりますわ。本日もまた、恋の争いが勃発しておりました。

「……アリアンヌ様。僕の方で治めて参りますから」

 隣にいたのはイヴ。人気のない所へは、自分も連れていくようにと頼んできたのは彼。私も応じましたの。
 イヴはそう提案してきました。毎回ですものね、私が割って入ってるの。いつか刀傷沙汰にならないかと気が気でないでしょう。あなたのお気持ちは有難いですが。

「いいえ、私が参ります」

 諫めなくてはいけないものもあるのです。いずれは王族に嫁ぐ立場として。何より公爵家に生まれた身だからこそです。しなくちゃいけないって……怖くもありますが。

「――ごきげんよう。皆様方、どうなさいましたの?」

 私の登場に、彼女達の諍いは止んだ。まずい場面を見られたと気まずそうにしております。

「ア、アリアンヌ様こそ。どうしてここに……?」

 おどおどしながら、婦人の一人が尋ねてきました。そうね、お答えしましょう。

「どうしてですって? 私はどこでも現れましてよ? 争いがあるところは、どこへでも……ね?」

 私はただ、皆様に楽しい学園生活を送ってほしいだけなのです。喧嘩が不必要だとは申しませんが、揉めないに越したことはないではありませんか。この私が抑止力になるのなら、願ってもないこと。
 そうした気持ちを込めて微笑んだのですが。

「ひっ!」

 どなたですの。悲鳴を上げたご婦人は、どうしたというのです。何を慄くことがありましたの。

「あー……」

 あー……とは、なんですの。イヴ! 

「お手を患わせましたー……」
「失礼しまーす……」

 怒りは削がれたようですが、彼女達はそそくさと去ってしまいましたわ。解決と言えないのでは? 私が伸ばした手は虚しくそのままです。

「正直に申しますね。キリがなくないですか? あちこちで修羅場、発生してません?」
「……それは」

 随分はっきりと申しましたわね、イヴ! 
 ええ……その通りではあります。彼の言う通り、私が全てを抑止できているとはいえません。恋愛をするのは素敵なこと。といっても、こうも諍いばかりとなりますと。

「……素敵な殿方ばかりですから。お気持ちはわかりますが」

 私は溜息をついた。

「……」

 なんでしょう。視線というなの圧力を感じますわ。それも背後のイブからです。

「……アリアンヌ様も。例にも漏れずと」

 ジト目というものですね。ええ、私の位置からでは見えなくとも、察しはします。これもまた……正しき指摘! 私もまた、距離をつめようとしている一人に過ぎませんから……! 

「ああ……」

 ああ、いっそ! イヴには打ち明けてしまいたいものです……! もう長い付き合いでもある彼は、信用に足る存在です。裏切りとは何だったのかと思う程、私はこの彼を信頼しきっておりますから。
 といっても、何もかも話せるわけではなくて。ないのですよ……。

「……嫌ね、イヴ? 私はあくまで、学友として仲良くなりたいだけ。話題には上がりませんでしたが、ヒューゴ殿もそうです。同級生なのも、何かのご縁でしょうから」

 私はくるりと振り返って、微笑んでみせた。これで納得してもらえるかと思いましたが。

「……」

 イヴは納得がいってないようです。彼は鋭いところもありますから。誤魔化されているとわかっているのかもしれませんわね。ええ……誤魔化し続けるしかありませんわ。

「……いえ、こちらこそ失礼致しました。ただ、貴女様は」
「ええ、存じております。私は婚約者の方がいる身。弁えておりますし、淑女としての振る舞いも怠りませんわ」

 私は扇子を片手に笑んでみせた。だからどうか、不安にならないで。あなたがそんなに心配することなど、何もないから。

 私は扇子を持ちながらも思案していた。そう、婚約者殿も攻略対象なのですから。相手は王族ゆえ、向こうからの接近以外は遠慮しておりましたが、一番自然な流れともいえるかもしれません。
 思えば、殿下は大らかで寛大な御方。女性好きという点もありますが、それは良いでしょう。
 一夫多妻も許されるこの国において。ましてや王族の方でもありますから。一人の方に縛られることもないということでしょう。
 それは私も例外ではないようで。会うたびに熱烈な歓迎をしてくださいますわ。好意を持ってくださるって、本当に有難いものなのね。ああ、誰かさんを引き合いに出してしまいましたわ。

「――さて」

 私は扇子を閉じた。本日はもう遅いでしょうし、明日にでもお出かけに誘ってみましょうか。


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