脳筋悪役令嬢の華麗なる恋愛遊戯~ダンジョン攻略駆使して有利に進めてみせます!~

古駒フミ

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サシェを残して。

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 馬を飛ばし、私達は首都に到達しました。専用の場所で馬を停め、うらぶれた裏通りへ。

「――はい、そうです。こうした特徴の男です」

 イヴが聞き込みをしていました。待って、イヴ。あなたが話す特徴、その方は――。

「……ああ」

 ヒューゴ殿の声がしたので、彼の方を向く。彼は何かを目にして、そのまま地面に膝をついてしまいました。私は何事かと思い、彼の元へと駆け寄りましたが。
 ヒューゴ殿が丁重に拾い上げ、手にしていたもの。それは――サシェでした。

「……間違いありません。彼女の手作りです。私の贈り物を、いつまでもって」
「あなたの贈り物……ああ、そうですわね」

 あなたが婚約祝いにと贈った花束。かなり前になりますから、彼女はこうして持ち歩いていたのでしょう。――彼からの贈り物を、肌身離さず。

 落ちていたのは、地下水路入口の近くでした。ここで落とされたのは、確かですが。

「……きっと、そこです。根城にしているって、ここの人達が教えてくれたから」

 顔色の悪いイヴが、私達の方にやってきました。彼は上手く情報を得たようです。必死だったのもあったのでしょう。
 ああ……イヴ。『そうだった』のですね。だから、あなたは……。

「……地下水路、ですか」

 ヒューゴ殿も思い詰めた顔をしていました。そうですわね、暗闇の可能性もありますわね。

「……いえ、私は大丈夫です」
「……?」
「……大丈夫」

 ヒューゴ殿は私を見つめて、何度も言葉を繰り返しておりました。彼の目に宿るのは決意。

「……お待たせしました。ブリジット救出に向かいましょう」

 ヒューゴ殿のお言葉に、私は頷いた。


 私達は地下水路に侵入しました。幸い、灯りはありました。整備用の通路を走っております。

「――王女が逃げたぞ! 捜し出せ!」
「まだ遠くにはいってないはずだ! 逃がしたら大目玉だぞ!」

 響く地下道、何者かの怒声が聞こえてきました。逃げた、ですって……? 
 どのみち、その者達はこちらに向かってくるようです。迎え撃つしかないようでしょうか。

「お二方。私がのして……」
「……」

 私の隣にいたのはイヴ。彼の表情は強張っておりました。ええ、そうですわね……その声は、私にも覚えがありますわ。
 本当にこんなことって……。

「ん?」

 ヒューゴ殿が大事に持っていたサシェ。そちらが淡く光っているではありませんか。

「……確証はありません。ですが、彼女に導かれているようで……こちらです」
「え、ええ……」

 私には何も聞こえていませんが、ヒューゴ殿の仰っているのは誠でしょう。彼は先んじて、近くにあった小部屋へと入っていきました。

「……行きますわよ」
「……はい」

 心あらずなイヴの腕を引っ張り、私達も彼に続くことにしました。


 小部屋に入ると、すすり泣く声がするではありませんか。私は仰天しかけましたが、この声の主が誰なのか。すぐにわかることになりました。

「ヒュ、ヒューゴさまぁ……」

 詰まれた箱の裏に隠れていたのは、ブリジット様でした。彼女はよろめきながらも、ヒューゴ様に抱き着いてこられました。

「……ブリジット、よくぞご無事で」

 ヒューゴ殿は拒まれません。それもそうでしょう。ブリジット様は衰弱しておいででしたから。二人は地べたに座りました。より、ブリジット様は彼にもたれかかっております。

「うん、うん……私、必死に逃げてきて」

 彼女は余程、不安なのでしょう。ヒューゴ殿の胸元にしがみついておりました。

「ええ、存じてます。頑張りましたね」

 ヒューゴ殿は手際よく、携帯していた治療薬を彼女に投与していました。上手い具合に口に放り込んでおりました。彼女が飲み込むと、安堵の表情を浮かべておられます。

「……ありがとう、ヒューゴ様。それに、アリアンヌ様達も」
「本当に無事で良かったですわ」

 容態は落ちついてこられたようですわね。一安心です。

「……このまま、戻りたいところなのですが」

 ヒューゴ殿がそう言うも、ブリジット様はうまく立ち上がれないようです。追手もおりますわね。ここまで身を隠せて見つからなかったのも、運が良かったのでしょう。

「ヒューゴ様……」

 ブリジット様はすっかり、ヒューゴ殿に身を委ねております。彼が側にいた方が安心なのでしょうね。

「……私のすべきことは」

 私はこちらの二人を見ました。次にイヴを。ええ、そうですわね……まともに動けるのは私でしょう。



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