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歪みを正し、本来の物語へ。
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懐かしい匂いがしました。ひだまりの中、私は歩いていました。
私は不思議とわかっていた。ここはきっと、夢の中なんだって。
長い金髪の髪は、肩くらいの黒髪。背丈や体格もそう。今のは私は――小川結衣の姿となっていました。
木々のざわめき。中心にそびえ立つのは、大樹。
ここは、私が転生前にお世話になった場所。ブリジットや、セレステとも友達になって。番人さんもよくしてくれて――。
「――小川結衣」
「!」
黒づくめの人。この人はきっと――大樹の守り人。
「話したいことがあった。故に、こうして現れた」
「お話、ですか?」
小川結衣へのお話のようです。聞くことにしましょう。
「まずは、詫びねばならない。すまなかった」
「……あの?」
何を謝られるというのでしょう。私に謝罪するようなことなど。
「小川結衣。あなたの転生は本来なされるものではなかった」
「……」
私は絶句した。私はアリアンヌ・ボヌールとして。アリアンヌ様の代わりでもあったけれど、それでも頑張ってきたのに。その転生が違っていたって、どういうこと。
困惑する私に構うことなく、その人は説明を続けています。
「あなたの転生はまだ未定だった。何者かはわからないが、故意にねじ込まれた。それが近しい表現だろう」
「未定とか、何者とか、ねじ込まれたとか……」
私の声はようやく形となりました。自分でも引くほど、恨みがましい声。あれだけ長かったのに、私の転生先は決まってなかったとか。第三者によって、とか。
転生先……違ってたんだって。
「……お話はわかりました。でも、私、あそこで生きているんです」
私は、あそこで良かったのに。元はゲームの世界だったとしても、私の現実であったのに。アリアンヌ様として、生きてきたのに。――彼女につきまとう死の真相だってまだ、突き止められてないのに。
「そうだ。それが――あなたが次に輪廻に向かう為の術だ」
思考読まれまして? いいえ、不安になっている場合じゃない。話を聞いておかなくては。
「あなたの住む世界は歪みが生じている。それに囚われているのが――あなただ」
「私が……」
「さよう。世界を――物語を、正しいものへと戻す。それが、あなたに与えられた役目でもあるようだ」
私には十分伝わる説明だった。きっと間違っていない。
やはりというべきか。私の介入があって、アリアンヌ様の世界は歪んでしまった。主役である本来の彼女も眠りについたまま。
私は、ヒューゴ殿の時のように。攻略対象達と健全で正しい未来を勝ち取らないとならない。それを繰り返していく内に、歪みも正されていくのだと。
奇しくも、私の狙いが。その与えられていた役目と一致していたのです。
「……そうですか」
私は引き受けることにしました。そのつもりもあったから。
「……本当なら、私が行く世界じゃなかったんですね」
寂しい。辛い。私、あの世界が大好きだったけど。でも歪みだから。
私が役目を終えるまでの間。それでもいられるなら。それでよいのでしょう……。
「……お話、わかりました。こう、なんといっていいかな話なんですけど。おそらく、私がアリアンヌ様の美貌とスペックをお借りして、男の人といい感じになる。といったところでして。それを続けていく感じですか?」
説明……なんとかなりませんでしたの。でも、どう言ったらいいのか。それに、日々は五月末日では終わらなかった。まだ続いているのだから。
「把握している。おそらく――途中で日々が巻き戻る。その都度、あなたは心を通わせていくことになる」
「なるほど」
一度攻略したら、また最初から。そういったところでしょうか。それはゲームの仕様ともきっと一緒。
「あの不思議な書、そちらに記された人物。彼らが歪みの影響を受けている」
不思議な書、それはイヴが記したという書のことでしょうか。そちらに記された人物、それは四名の殿方のことですわね。なるほど、隠しの方は良いということかしら。
歪み、影響……ああ、そういうことでしたのね。
私のプレイ時、結末が怖ろしいものになってしまったのは。それこそ―アリアンヌ様の結末もですわね……。
「……すまなかった」
「い、いえ、そんな」
目の前の人は頭を下げてきた。無機質な言い方ながらも、私に対する申し訳なさは伝わってきた。ですが、この人が悪いというわけでもありませんわ。
「……本当にいいんです。私は自分で出来ることをやるだけですから」
それが私の役目だというのなら。このまま続けていきましょう。
「改めて、すまなかった。――刻限か。話は以上だ」
「はい」
私の目覚めが近いからか、その人は話を切り上げた。
「あの、すみません。最後に質問、いいですか?」
「どうした」
私が気になっていたこと、それを問いかけることにしました。ずっと、気になっていたこと。
「――前の番人さん、どうしたんですか?」
私の目の前にいる人は、私が接していた番人さんではありません。声や話し方は似ているけれど、私は別人だと思っておりました。
「……」
私の質問に、相手の人は黙ってしまわれました。答えづらかったのでしょうか。あの番人さんにはよくしていただきましたし、何より長い付き合いだったから。それで気になってしまったのです。
「すみません。私――」
「……アレは役目を終えた」
「終えたんですか……?」
答えてくださいました。番人さんの役目とは。
「……長き役目を終え、アレは――転生した」
「転生……」
そうなのですね。あの人も……。番人さんも転生は出来るのですね……。
「ありがとうございました。あなたもいずれは」
この人……いつまでもこの人呼ばわりもですわね。新番人さんと呼ばせていただきましょう。いつかは、なのでしょうか。
「……いずれ。長き役目を終えた時に」
「そうなんですね……」
私にとっては懐かしい場所。もう少し滞在したい気持ちもあったけど、でも、眠気がやってきました。重くなった瞼が今にも閉じられそうです。
「さあ、小川結衣。いや――アリアンヌ・ボヌールとして。目覚めの時間だ」
その声と共に、私は夢から覚めました。
私は不思議とわかっていた。ここはきっと、夢の中なんだって。
長い金髪の髪は、肩くらいの黒髪。背丈や体格もそう。今のは私は――小川結衣の姿となっていました。
木々のざわめき。中心にそびえ立つのは、大樹。
ここは、私が転生前にお世話になった場所。ブリジットや、セレステとも友達になって。番人さんもよくしてくれて――。
「――小川結衣」
「!」
黒づくめの人。この人はきっと――大樹の守り人。
「話したいことがあった。故に、こうして現れた」
「お話、ですか?」
小川結衣へのお話のようです。聞くことにしましょう。
「まずは、詫びねばならない。すまなかった」
「……あの?」
何を謝られるというのでしょう。私に謝罪するようなことなど。
「小川結衣。あなたの転生は本来なされるものではなかった」
「……」
私は絶句した。私はアリアンヌ・ボヌールとして。アリアンヌ様の代わりでもあったけれど、それでも頑張ってきたのに。その転生が違っていたって、どういうこと。
困惑する私に構うことなく、その人は説明を続けています。
「あなたの転生はまだ未定だった。何者かはわからないが、故意にねじ込まれた。それが近しい表現だろう」
「未定とか、何者とか、ねじ込まれたとか……」
私の声はようやく形となりました。自分でも引くほど、恨みがましい声。あれだけ長かったのに、私の転生先は決まってなかったとか。第三者によって、とか。
転生先……違ってたんだって。
「……お話はわかりました。でも、私、あそこで生きているんです」
私は、あそこで良かったのに。元はゲームの世界だったとしても、私の現実であったのに。アリアンヌ様として、生きてきたのに。――彼女につきまとう死の真相だってまだ、突き止められてないのに。
「そうだ。それが――あなたが次に輪廻に向かう為の術だ」
思考読まれまして? いいえ、不安になっている場合じゃない。話を聞いておかなくては。
「あなたの住む世界は歪みが生じている。それに囚われているのが――あなただ」
「私が……」
「さよう。世界を――物語を、正しいものへと戻す。それが、あなたに与えられた役目でもあるようだ」
私には十分伝わる説明だった。きっと間違っていない。
やはりというべきか。私の介入があって、アリアンヌ様の世界は歪んでしまった。主役である本来の彼女も眠りについたまま。
私は、ヒューゴ殿の時のように。攻略対象達と健全で正しい未来を勝ち取らないとならない。それを繰り返していく内に、歪みも正されていくのだと。
奇しくも、私の狙いが。その与えられていた役目と一致していたのです。
「……そうですか」
私は引き受けることにしました。そのつもりもあったから。
「……本当なら、私が行く世界じゃなかったんですね」
寂しい。辛い。私、あの世界が大好きだったけど。でも歪みだから。
私が役目を終えるまでの間。それでもいられるなら。それでよいのでしょう……。
「……お話、わかりました。こう、なんといっていいかな話なんですけど。おそらく、私がアリアンヌ様の美貌とスペックをお借りして、男の人といい感じになる。といったところでして。それを続けていく感じですか?」
説明……なんとかなりませんでしたの。でも、どう言ったらいいのか。それに、日々は五月末日では終わらなかった。まだ続いているのだから。
「把握している。おそらく――途中で日々が巻き戻る。その都度、あなたは心を通わせていくことになる」
「なるほど」
一度攻略したら、また最初から。そういったところでしょうか。それはゲームの仕様ともきっと一緒。
「あの不思議な書、そちらに記された人物。彼らが歪みの影響を受けている」
不思議な書、それはイヴが記したという書のことでしょうか。そちらに記された人物、それは四名の殿方のことですわね。なるほど、隠しの方は良いということかしら。
歪み、影響……ああ、そういうことでしたのね。
私のプレイ時、結末が怖ろしいものになってしまったのは。それこそ―アリアンヌ様の結末もですわね……。
「……すまなかった」
「い、いえ、そんな」
目の前の人は頭を下げてきた。無機質な言い方ながらも、私に対する申し訳なさは伝わってきた。ですが、この人が悪いというわけでもありませんわ。
「……本当にいいんです。私は自分で出来ることをやるだけですから」
それが私の役目だというのなら。このまま続けていきましょう。
「改めて、すまなかった。――刻限か。話は以上だ」
「はい」
私の目覚めが近いからか、その人は話を切り上げた。
「あの、すみません。最後に質問、いいですか?」
「どうした」
私が気になっていたこと、それを問いかけることにしました。ずっと、気になっていたこと。
「――前の番人さん、どうしたんですか?」
私の目の前にいる人は、私が接していた番人さんではありません。声や話し方は似ているけれど、私は別人だと思っておりました。
「……」
私の質問に、相手の人は黙ってしまわれました。答えづらかったのでしょうか。あの番人さんにはよくしていただきましたし、何より長い付き合いだったから。それで気になってしまったのです。
「すみません。私――」
「……アレは役目を終えた」
「終えたんですか……?」
答えてくださいました。番人さんの役目とは。
「……長き役目を終え、アレは――転生した」
「転生……」
そうなのですね。あの人も……。番人さんも転生は出来るのですね……。
「ありがとうございました。あなたもいずれは」
この人……いつまでもこの人呼ばわりもですわね。新番人さんと呼ばせていただきましょう。いつかは、なのでしょうか。
「……いずれ。長き役目を終えた時に」
「そうなんですね……」
私にとっては懐かしい場所。もう少し滞在したい気持ちもあったけど、でも、眠気がやってきました。重くなった瞼が今にも閉じられそうです。
「さあ、小川結衣。いや――アリアンヌ・ボヌールとして。目覚めの時間だ」
その声と共に、私は夢から覚めました。
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